ラクトフェリン 骨誘導活性

ラクトフェリン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/02/23 14:08 UTC 版)

骨誘導活性

ラクトフェリンは、骨芽細胞の増殖や分化を促進するとともに、破骨細胞による骨吸収を抑制することで骨形成を促進する[16]骨粗鬆症のモデルラットにラクトフェリンを経口投与すると骨密度が上昇する[17]。これが骨芽細胞破骨細胞に対するラクトフェリンの直接的な作用によるものかは不明である。

歯周病治療

ラクトフェリンは唾液に含まれており、口腔内の病原微生物や歯周病菌に対して抗菌活性を示す。ウシラクトフェリンの摂取により、歯周ポケット内の歯周病菌数が減少し、歯周病の症状が改善される[18]。さらに、ラクトフェリンは歯周病菌から分泌されるLPSを中和し、TNF-αの産生を抑制することで、歯周組織の炎症歯周組織の破壊を防ぐ[19]

ラクトフェリン受容体

小腸上皮細胞の刷子縁膜において、レクチンの一種であるインテレクチン1(別名HL-1)がラクトフェリン受容体として機能していることが明らかになっている[20][21]。ラクトフェリンは刷子縁側からインテレクチンを介して上皮細胞に取り込まれ、細胞応答を引き起こす。以前はラクトフェリンが小腸における鉄イオンの取り込みを担っていると考えられていたが、この仮説は現在では否定され、DMT-1(Divalent metal transportor 1) がこの役割を担っているとされている。 リポタンパク質の細胞内への取り込みを担っているLDL受容体関連タンパク質-1(LRP-1/CD91/α2マクログロブリン受容体)のリガンドの一つがラクトフェリンであることが明らかになっている[20]骨芽細胞線維芽細胞において、ラクトフェリンによりLRP-1依存的に細胞内情報伝達経路が活性化される。また、CHO細胞においてヌクレオリンが、マクロファージにおいてグリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素(GAPDH)が細胞表面におけるラクトフェリン結合タンパク質として報告されている[20]。興味深いことに、GAPDHを除いてトラスフェリンはこれらの受容体とは相互作用しない。 ナイセリア科の細菌およびモラクセラ科の細菌の一部は、ラクトフェリンが抗菌活性を発揮しない。これらの細菌では、ラクトフェリン受容体が細胞表面に発現しており、生育に必要な鉄を取り込むためにむしろラクトフェリンを利用しているが、これは真核細胞のラクトフェリン受容体とは全く構造の異なるタンパク質である[1]

安全性

チーズなどの食品に含まれるタンパク質であり、ラットおよびヒトにウシラクトフェリンを繰り返し経口投与した安全性試験においても、ラクトフェリンの重い副作用は報告されていない[1][22]。ラクトフェリンは牛乳中の主要アレルゲンではないが、牛乳アレルギーを持つ子供の血清において、ウシラクトフェリンに対する抗体が低濃度ではあるが認められるので注意が必要である。FDA(アメリカ食品医薬品局)は、ラクトフェリンを「一般的に安全と認められる物質(generally recommended as safe)」として、ウシの枝肉表面の微生物汚染を防ぐためのスプレー製剤および機能性食品としての使用を認めている。


  1. ^ a b c d e f g h i j k l m 島崎敬一「ミルクのラクトフェリン」、『乳業技術』第51巻、日本乳業技術協会、2001年、 1-21頁、 ISSN 13417878NAID 40005107444
  2. ^ a b c d e f 金完燮、島崎敬一 「ラクトフェリンと微生物の攻防 その多様性」『ラクトフェリン2007 :ラクトフェリン研究の新たな展望と応用へのメッセージ』 第2回ラクトフェリンフォーラム実行委員会編、日本医学館、東京、2007年、9-17頁。ISBN 978-4-89044-632-2
  3. ^ 田中克明「C型肝炎への臨床応用 (特集:ラクトフェリンの機能と有用性(2))」、『食品・食品添加物研究誌』第211巻第9号、FFIジャーナル編集委員会、2006年、 748-753頁、 ISSN 09199772NAID 40007481086
  4. ^ 田中正和、鄭真美・長谷川翔・和田直樹・橋本岩男・津田洋幸・藤沢順一・三輪正直 「ウシラクトフェリンによるHTLV-1抗腫瘍効果」『ラクトフェリン2011:ラクトフェリン研究の新たな発展を期して』 日本ラクトフェリン学会第4回学術集会実行委員会編、日本医学館、東京、2011年、14-20頁。ISBN 978-4-89044-741-1
  5. ^ 新光一郎・若林裕之「ラクトフェリンのノロウイルスなどへの感染防御作用」、『Food Style 21』第17巻、日本食品化学新聞社、2013年、 70-71頁。
  6. ^ 江頭昌典、森内昌子・森内浩幸 「ラクトフェリンによるロタウイルス下痢症の予防・軽症化効果」『ラクトフェリン2007 :ラクトフェリン研究の新たな展望と応用へのメッセージ』 日本ラクトフェリン学会第2回学術集会実行委員会編、日本医学館、東京、2007年、162-165頁。ISBN 978-4-89044-632-2
  7. ^ 小林沙織「鉄結合性糖タンパク質ウシラクトフェリンの抗炎症作用とそのメカニズム」、『岩手県獣医師会会報』第33巻、2007年、 4-10頁。
  8. ^ 久原徹哉「ラクトフェリン経口摂取によるNK細胞活性増強とそのメカニズム」、『食品・食品添加物研究誌』第211巻第9号、FFIジャーナル編集委員会、2006年、 754-762頁、 ISSN 09199772NAID 40007481087
  9. ^ 原田悦守、竹内崇 『ラクトフェリン2007 :ラクトフェリン研究の新たな展望と応用へのメッセージ』 第2回ラクトフェリンフォーラム実行委員会編、日本医学館、東京、2007年、37-42頁。ISBN 978-4-89044-632-2
  10. ^ 小野知二、村越倫明「ラクトフェリンによる脂質代謝の制御」、『化学と生物』第49巻第1号、日本農芸化学会、2011年、 15-21頁、 ISSN 0453073XNAID 10027729140
  11. ^ 吉田智、水野晃治・清水裕一・鈴木靖志・輪千浩史 「座骨神経切除モデルマウスにおけるラクトフェリンの褥瘡発症予防効果」『ラクトフェリン2011:ラクトフェリン研究の新たな発展を期して』 日本ラクトフェリン学会第4回学術集会実行委員会編、日本医学館、東京、2011年、138-141頁。ISBN 978-4-89044-741-1
  12. ^ 輪千浩史 「糖尿病誘発マウスにおけるラクトフェリンの創傷治癒促進効果」『ラクトフェリン2009 :ラクトフェリン研究の新たな展開と臨床へのメッセージ』 第3回ラクトフェリンフォーラム実行委員会編、日本医学館、東京、2009年、46-54頁。ISBN 978-4-89044-685-8
  13. ^ 西村義一、本間‐武田志乃・乳井美奈子・伊古田暢夫・金熙善 「マウスに対するラクトフェリンの放射能防御効果」『ラクトフェリン2007 :ラクトフェリン研究の新たな展望と応用へのメッセージ』 第2回ラクトフェリンフォーラム実行委員会編、日本医学館、東京、2007年、56-59頁。ISBN 978-4-89044-632-2
  14. ^ a b 津田洋幸、大嶋浩・深町勝巳・飯郷正明・高須賀信夫・松田栄治・関根一則・大久保重俊・神津隆弘・島村真里子「がん予防-多機能生理活性物質ラクトフェリンからのメッセージ」、『ミルクサイエンス』第53巻第4号、日本酪農科学会、2004年、 225-229頁、 ISSN 13430289NAID 40006712338
  15. ^ 松田洋子、細川京子・山川けいこ・横平正直・笹尾光祐・久野壽也・今井田克巳 「A/JマウスのNNK誘発肺腫瘍に対する腸溶性ラクトフェリンの効果」『ラクトフェリン2007 :ラクトフェリン研究の新たな展望と応用へのメッセージ』 第2回ラクトフェリンフォーラム実行委員会編、日本医学館、東京、2007年、89-93頁。ISBN 978-4-89044-632-2
  16. ^ 高山喜晴「ウシラクトフェリンによる骨芽細胞の分化促進と骨組織再生への応用」、『畜産技術』第639巻、公益社団法人畜産技術協会、2008年、 2-6頁。
  17. ^ 野村義宏、清水健二・久原徹哉 「骨粗鬆症モデルラットへのラクトフェリン投与による骨密度改善効果」『ラクトフェリン2007 :ラクトフェリン研究の新たな展望と応用へのメッセージ』 第2回ラクトフェリンフォーラム実行委員会編、日本医学館、東京、2007年、195-199頁。ISBN 978-4-89044-632-2
  18. ^ 近藤一郎、小林哲夫・若林裕之・山内恒治・岩附慧二・吉江弘正「歯周炎患者におけるウシラクトフェリン経口投与の影響」、『日本歯科保存学雑誌』第51巻第3号、特定非営利活動法人日本歯科保存学会、2008年、 281-291頁、 ISSN 03872343NAID 110007151243
  19. ^ 川添亜希、宮内睦美・山野栄三・石角篤・田中栄二・牧野武利・犬伏俊博,Emanuel Braga Rego・丹根一夫・高田隆 「大豆レシチンによるリポソーム化ラクトフェリン経口投与がリポポリサッカライド誘導歯周組織破壊に及ぼす抑制効果」『ラクトフェリン2009 :ラクトフェリン研究の新たな展開と臨床へのメッセージ』 第3回ラクトフェリンフォーラム実行委員会編、日本医学館、東京、2009年、79-83頁。ISBN 978-4-89044-685-8
  20. ^ a b c 高山喜晴「ラクトフェリン受容体のはなし」、『Lactoferrin News (日本ラクトフェリン学会ニュースレター)』第4巻、日本ラクトフェリン学会、2012年1月、 2-7頁。
  21. ^ 鈴木靖志、Bo Lönnerdal「小腸ラクトフェリン受容体を介したラクトフェリンの細胞内取り込み」、『食品・食品添加物研究誌』第211巻第5号、FFIジャーナル編集委員会、2006年、 406-413頁、 ISSN 09199772NAID 40007315245
  22. ^ a b 山内恒治「乳中の生体防御物質「ラクトフェリン」の応用 (特集:ラクトフェリンの機能と有用性(2))」、『食品・食品添加物研究誌』第211巻第9号、FFIジャーナル編集委員会、2006年、 771-776頁、 ISSN 09199772NAID 40007481089


「ラクトフェリン」の続きの解説一覧



固有名詞の分類


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「ラクトフェリン」の関連用語

ラクトフェリンのお隣キーワード

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



ラクトフェリンのページの著作権
Weblio 辞書情報提供元は参加元一覧にて確認できます。

  
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのラクトフェリン (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2019 Weblio RSS