ミケランジェロ・ブオナローティ
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私生活
ミケランジェロの私生活は禁欲的なもので、弟子で画家、伝記作家のアスカニオ・コンディヴィに「自分は金持ちなのかもしれないが、つねに質素な暮らしを送っている」と語っている[39]。コンディヴィは、ミケランジェロが食べ物や飲み物に無関心で「楽しむためではなく、単に必要にせまられて」食事をとり、「服を着たままで靴も履いたままで眠り込むことがよくあった」としている[39]。このような習慣を持っていたこともあって、ミケランジェロは私生活で他人から好かれる性質ではなかった。ミケランジェロの伝記を書いたパオロ・ジョヴィオも「洗練されていない粗野な人柄で、その暮らしぶりは信じられないほどむさ苦しく、そうでなければ彼に師事する者もいたであろうに、結局は後世に弟子を残さなかった」と記している[40]。ミケランジェロは本質的に孤独を好む陰鬱な性格で、人付き合いを避けて引き篭もり、周囲にどう思われようと頓着しない人物だった[41]。
性的指向
アスカニオ・コンディヴィはミケランジェロが「修道僧のように貞節」と書いているが、ミケランジェロが持った肉体的交渉を明らかにすることは不可能である[42]。しかしミケランジェロが残した詩文、美術作品から、その一端を垣間見ることができる可能性はある[43]。
- 同性愛的傾向
- ミケランジェロは300以上のソネットとマドリガーレを書いた。最も長い作品は1532年の、57歳のミケランジェロと出会ったときに23歳前後だったトンマーゾ・デイ・カヴァリエーリに捧げたものである。このソネットは、男性が他のひとりの男性に話しかける構成で書いたまとまった量の詩歌としては現存する最古のもので、男性にあてて多くのソネットを書いたシェイクスピアに先立つことおよそ50年となる。
- 他にもミケランジェロは友人だったチェッキーノ・デイ・ブラッチが、知り合って1年後に15歳の若さで死去したときに、その死を悼むエピグラムを書いている[44]。
- ミケランジェロが同性愛的傾向のある詩歌を書いたことは、後世[いつ?]の人々に忌避感を持って受けとめられた。このため、甥の息子で同名のミケランジェロが、1623年に男女の性別を入れ替えた形でミケランジェロの詩歌集を出版している[45]。そして1893年にイギリスの詩人、文芸評論家ジョン・アディントン・シモンズが英語訳版を出版するときまで、この性別の変更は元に戻されることはなかった。ただし、ミケランジェロに実際に同性愛的傾向が見られたかどうかについては証明されていない。「精神的恋愛感情を、無感動で洗練された筆致で表現した想像上の詩歌である。官能的とされる詩歌も上品で感受性が豊かであることの表出にすぎない」と断言する研究者もいる[42]。
- 未亡人との恋
- ミケランジェロは1536年か1538年にローマで知り合った、40歳代後半の詩人で貴族階級の未亡人ヴィットリア・コロンナに大きな愛情を抱いた。互いにソネットを送りあうなど、2人の交歓はヴィットリアが死去する1547年まで絶えることがなかった。アスカニオ・コンディヴィはミケランジェロが、ヴィットリアの手にキスをしたことはあったが、頬にキスをしなかったことが生涯唯一の後悔だと語っていたことを記している[46]。
作品
- 作品一覧がイタリア語版「Opere di Michelangelo」にある[47]。
彫刻
『バッカス像』(1497年)
バルジェロ美術館(フィレンツェ)『聖パウロ』(1503年 - 1504年)
シエナ大聖堂(シエーナ)『聖ペテロ』(1503年 - 1504年)
シエナ大聖堂(シエーナ)『モーゼ』ローマ教皇ユリウス2世霊廟の彫刻(1513年 - 1515年頃)
サン・ピエトロ・イン・ヴィンコリ(ローマ)『瀕死の奴隷』(1513年 - 1515年)
ルーヴル美術館(パリ)
絵画
『マンチェスターの聖母』(1497年頃)
ナショナル・ギャラリー(ロンドン)『キリストの埋葬』(1500年 - 1501年頃)
ナショナル・ギャラリー(ロンドン)
建築
注釈
- ^ ミケランジェロの父はミケランジェロの誕生日を1474年3月6日と記録している。ただし、この記録は当時フィレンツェで用いられていた年記法によるもので、ローマで採用されていた年記法では1475年となる。
- ^ ミケランジェロが学問を学ぶために親元を離れた年齢は文献ごとに相違がある。ド・トルナイは10歳とし、アスカニオ・コンディヴィの伝記を翻訳したセジウィクは7歳としている。
- ^ ヘラクレス像を購入したのはストロッツィ家である。1529年に一族のフィリッポ・ストロッツィがこの彫刻をフランス王フランソワ1世に売却した。1594年にはアンリ4世がフォンテーヌブローの別宅に持ち込んだ記録があるが、1713年にその別宅が破壊されて以降、行方不明となっている。
- ^ ヴァザーリの『画家・彫刻家・建築家列伝』には、このエピソードに関する記述はない。パオロ・ジョヴィオの『ミケランジェロの生涯』には、ミケランジェロがこの彫像を古美術品として売却しようとしたことを示唆する記述がある。
- ^ 現在はフィレンツェのバルジェロ美術館が所蔵している。
- ^ 『キリスト昇天』はキリストとともに多くの天使などが描かれていた作品で、現在ではキリストを描いた部分はローマのクイリナーレ宮殿に、その他の部分はバチカン美術館サンピエトロ大聖堂聖具室に収蔵されている。
- ^ 以前はギルランダイオの工房作といわれており、ミケランジェロの作品ではないかとする説は2度否定されていた。
出典
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- ^ Rictor Norton, "The Myth of the Modern Homosexual"., page 143. Cassell, 1997.
- ^ A. Condivi (ed. Hellmut Wohl), 'The Life of Michelangelo,' p. 103, Phaidon, 1976.
- ^ Opere di Michelangelo
固有名詞の分類
美術家 |
ジャスパー・ジョーンズ 和田英作 ミケランジェロ・ブオナローティ 松蔭浩之 ジェンティーレ・ダ・ファブリアーノ |
イタリアの画家 |
ルーチョ・フォンタナ アンニーバレ・カラッチ ミケランジェロ・ブオナローティ ジェンティーレ・ダ・ファブリアーノ ドメニコ・ギルランダイオ |
16世紀の美術家 |
コレッジョ アンニーバレ・カラッチ ミケランジェロ・ブオナローティ ニコラス・ヒリアード フェデリコ・ツッカリ |
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イタリアの彫刻家 |
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