ミケランジェロ・ブオナローティ 私生活

ミケランジェロ・ブオナローティ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/07 01:10 UTC 版)

私生活

ミケランジェロの私生活は禁欲的なもので、弟子で画家、伝記作家のアスカニオ・コンディヴィ英語版に「自分は金持ちなのかもしれないが、つねに質素な暮らしを送っている」と語っている[40]。コンディヴィは、ミケランジェロが食べ物や飲み物に無関心で「楽しむためではなく、単に必要にせまられて」食事をとり、「服を着たままで靴も履いたままで眠り込むことがよくあった」としている[40]。このような習慣を持っていたこともあって、ミケランジェロは私生活で他人から好かれる性質ではなかった。ミケランジェロの伝記を書いたパオロ・ジョヴィオも「洗練されていない粗野な人柄で、その暮らしぶりは信じられないほどむさ苦しく、そうでなければ彼に師事する者もいたであろうに、結局は後世に弟子を残さなかった」と記している[41]。ミケランジェロは本質的に孤独を好む陰鬱な性格で、人付き合いを避けて引き篭もり、周囲にどう思われようと頓着しない人物だった[42]

性的指向

大英博物館が所蔵する、ヴィットリア・コロンナを描いたミケランジェロのドローイング。ミケランジェロ65歳、ヴィットリア50歳のときの作品と考えられている

アスカニオ・コンディヴィはミケランジェロが「修道僧のように貞節」と書いているが、ミケランジェロが持った肉体的交渉を明らかにすることは不可能である[43]。しかしミケランジェロが残した詩文、美術作品から、その一端を垣間見ることができる可能性はある[44]

同性愛的傾向
ミケランジェロは300以上のソネットマドリガーレを書いた。最も長い作品は1532年の、57歳のミケランジェロと出会ったときに23歳前後だったトンマーゾ・デイ・カヴァリエーリ英語版に捧げたものである。このソネットは、男性が他のひとりの男性に話しかける構成で書いたまとまった量の詩歌としては現存する最古のもので、男性にあてて多くのソネットを書いたシェイクスピアに先立つことおよそ50年となる。
他にもミケランジェロは友人だったチェッキーノ・デイ・ブラッチが、知り合って1年後に15歳で死去したときに、その死を悼むエピグラムを書いている[45]
ミケランジェロが同性愛的傾向のある詩歌を書いたことは、後世[いつ?]の人々に忌避感を持って受けとめられた。このため、甥の息子で同名のミケランジェロが、1623年に男女の性別を入れ替えた形でミケランジェロの詩歌集を出版している[46]。そして1893年にイギリスの詩人、文芸評論家ジョン・アディントン・シモンズ英語版が英語訳版を出版するときまで、この性別の変更は元に戻されることはなかった。ただし、ミケランジェロに実際に同性愛的傾向が見られたかどうかについては証明されていない。「精神的恋愛感情を、無感動で洗練された筆致で表現した想像上の詩歌である。官能的とされる詩歌も上品で感受性が豊かであることの表出にすぎない」と断言する研究者もいる[43]
未亡人との恋
ミケランジェロは1536年か1538年にローマで知り合った、40歳代後半の詩人で貴族階級の未亡人ヴィットリア・コロンナに大きな愛情を抱いた。互いにソネットを送りあうなど、2人の交歓はヴィットリアが死去する1547年まで絶えることがなかった。アスカニオ・コンディヴィはミケランジェロが、ヴィットリアの手にキスをしたことはあったが、頬にキスをしなかったことが生涯唯一の後悔だと語っていたことを記している[47]

作品

  • 作品一覧がイタリア語版「Opere di Michelangelo」にある[48]

彫刻

絵画

建築


注釈

  1. ^ ミケランジェロの父はミケランジェロの誕生日を1474年3月6日と記録している。ただし、この記録は当時フィレンツェで用いられていた年記法によるもので、ローマで採用されていた年記法では1475年となる。
  2. ^ ミケランジェロが学問を学ぶために親元を離れた年齢は文献ごとに相違がある。ド・トルナイは10歳とし、アスカニオ・コンディヴィの伝記を翻訳したセジウィクは7歳としている。
  3. ^ ヘラクレス像を購入したのはストロッツィ家である。1529年に一族のフィリッポ・ストロッツィがこの彫刻をフランス王フランソワ1世に売却した。1594年にはアンリ4世フォンテーヌブローの別宅に持ち込んだ記録があるが、1713年にその別宅が破壊されて以降、行方不明となっている。
  4. ^ ヴァザーリの『画家・彫刻家・建築家列伝』には、このエピソードに関する記述はない。パオロ・ジョヴィオの『ミケランジェロの生涯』には、ミケランジェロがこの彫像を古美術品として売却しようとしたことを示唆する記述がある。
  5. ^ 現在はフィレンツェのバルジェロ美術館が所蔵している。
  6. ^ 『キリスト昇天』はキリストとともに多くの天使などが描かれていた作品で、現在ではキリストを描いた部分はローマのクイリナーレ宮殿に、その他の部分はバチカン美術館サンピエトロ大聖堂聖具室に収蔵されている。
  7. ^ 以前はギルランダイオの工房作といわれており、ミケランジェロの作品ではないかとする説は2度否定されていた。

出典

  1. ^ a b Web Gallery of Art, image collection, virtual museum, searchable database of European fine arts (1100–1850)”. wga.hu. 2008年6月13日閲覧。
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  3. ^ a b Michelangelo. (2008). Encyclopædia Britannica. Ultimate Reference Suite.
  4. ^ Emison, Patricia. A (2004). Creating the "Divine Artist": from Dante to Michelangelo. Brill. ISBN 978-90-04-13709-7. https://books.google.co.jp/books?id=1EofecqX_vsC&pg=PA144&lpg=PA144&dq=michelangelo+%22il+divino%22&redir_esc=y&hl=ja 
  5. ^ a b J. de Tolnay, The Youth of Michelangelo, 11
  6. ^ メルロ, クラウディオ 著、坂巻広樹 訳『ルネサンスの三大芸術家』PHPエディターズ・グループ、42頁。ISBN 4569608833 
  7. ^ a b C. Clément, Michelangelo, 5
  8. ^ A. Condivi, The Life of Michelangelo, 5
  9. ^ a b A. Condivi, The Life of Michelangelo, p.9
  10. ^ R. Liebert, Michelangelo: A Psychoanalytic Study of his Life and Images, p.59
  11. ^ C. Clément, Michelangelo, p.7
  12. ^ C. Clément, Michelangelo, p.9
  13. ^ J. de Tolnay, The Youth of Michelangelo, pp.18 - 19
  14. ^ a b A. Condivi, The Life of Michelangelo, p.15
  15. ^ Will the Real Michelangelo Please Stand Up?”. 2009年12月14日閲覧。
  16. ^ a b J. de Tolnay, The Youth of Michelangelo, pp. 20 - 21
  17. ^ A. Condivi, The Life of Michelangelo, p.17
  18. ^ a b J. de Tolnay, The Youth of Michelangelo, pp.24 - 25
  19. ^ A. Condivi, The Life of Michelangelo, pp.19 - 20
  20. ^ J. de Tolnay, The Youth of Michelangelo, p.26 - 28
  21. ^ Catterson, Lynn. "Michelangelo's 'Laocoön?'" Artibus et historiae. 52. 2005: p. 33
  22. ^ ナショナル・ギャラリー公式サイト
  23. ^ Giacometti, Massimo (1986). The Sistine Chapel.
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  30. ^ Michelangelo sketch for St Peter's dome foundThe Guardian)
  31. ^ Preston, John (2010年6月1日). “The Vatican Archive: the Pope's private library”. The Daily Telegraph. http://www.telegraph.co.uk/culture/books/7772052/The-Vatican-Archive-the-Popes-private-library.html 
  32. ^ “Michelangelo 'last sketch' found”. BBC News. (2007年12月7日). http://news.bbc.co.uk/2/hi/europe/7133116.stm 2009年2月9日閲覧。 
  33. ^ Budd, Denise (2010年). “Michelangelo's first painting (exhibition review)”. Metropolitan Museum of Art. New York: thefreelibrary.com. 2012年6月26日閲覧。
  34. ^ 『新装版 図説 西洋建築の歴史』河出書房新社、2022、65-66頁。 
  35. ^ Medicean-Laurentian Library. Encyclopædia Britannica. 2007.
  36. ^ 池上英洋『神のごときミケランジェロ』新潮社、2013年、21頁。ISBN 978-4-10-602247-0 
  37. ^ James Beck, Antonio Paolucci, Bruni Santi Michelangelo. The Medici Chapel, Nhames and Hudson, New York,1994
  38. ^ Peter Barenboim, Sergey Shiyan, Michelangelo: Mysteries of Medici Chapel, SLOVO, Moscow, 2006. ISBN 5-85050-825-2
  39. ^ Peter Barenboim, "Michelangelo Drawings – Key to the Medici Chapel Interpretation", Moscow, Letny Sad, 2006, ISBN 5-98856-016-4
  40. ^ a b Condivi, The Life of Michelangelo, p. 106.
  41. ^ Paola Barocchi (ed.) Scritti d'arte del cinquecento, Milan, 1971; vol. I p. 10.
  42. ^ Condivi, The Life of Michelangelo, p. 102.
  43. ^ a b Hughes, Anthony: "Michelangelo.", p.326. Phaidon, 1997.
  44. ^ Scigliano, Eric: "Michelangelo's Mountain; The Quest for Perfection in the Marble Quarries of Carrara." Archived 2009年6月30日, at the Wayback Machine., Simon and Schuster, 2005. Retrieved 27 January 2007
  45. ^ "Michelangelo Buonarroti" by Giovanni Dall'Orto Babilonia n. 85, January 1991, pp. 14–16 (イタリア語)
  46. ^ Rictor Norton, "The Myth of the Modern Homosexual"., page 143. Cassell, 1997.
  47. ^ A. Condivi (ed. Hellmut Wohl), 'The Life of Michelangelo,' p. 103, Phaidon, 1976.
  48. ^ Opere di Michelangelo






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