ホウレンソウ 名前

ホウレンソウ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/12 14:00 UTC 版)

名前

ホウレンソウ(菠薐草)の由来は、中国の唐代に「頗稜(ホリン)国」(現在のネパール)から伝えられたことによる[6]。後に改字して「菠薐(ホリン)」となり、日本では転訛して「ホウレン」となった[7][8]。「ホウレン」の語源は、「菠薐」の唐音とされる[6]

歴史

ホウレンソウの原産地は、西アジア[2]西南アジア[9]中央アジア[4]などと言われ、カスピ海南西部(コーカサス地方[10]イラン[11])近辺と見られているが野生種は発見されていない[12]。原産地から東西に分かれて伝播し、それぞれ独立した品種群が成立したと考えられている[9]。初めて栽培されたのはペルシア地方(現在のイラン)で、ヨーロッパには中世末期(12世紀以降)にアラブ北アフリカを経て持ち込まれ[12]、他の葉菜類を凌いで一般的になった。東アジアにはシルクロードを通って広まり、中国にはネパールを経て7世紀頃に伝わった[12]。その間、ヨーロッパでは西洋種が、中国では東洋種が成立した[12]

日本には戦国時代末期の16世紀頃に、中国から東洋種が渡来したと見られている[2][12]。1862年頃にはフランスから西洋種が導入され、明治初年にアメリカからも持ち込まれたが、西洋系品種は普及せず[12]、もっぱら東洋種のほうが好まれ、各地に固有種が誕生した[9]。大正末期から昭和初期にかけて東洋種と西洋種の交配品種が作られ、日本各地に普及した[13]。西洋種はアクが強いものであったが、葉が肉厚でソテーに向くため次第に広まるようになり[14]第二次世界大戦後に、栽培の周年化が進められていく中で、暑さにも強く収量が高い西洋系品種や、交雑種が盛んに栽培されるようになった[12]

品種

葉に切り込みが多い東洋種と、丸葉の西洋種に大別され[2]、東洋種・西洋種・交雑種の3群に分けられる[12]。東洋系は葉身が薄く、ギザギザした切れ込みが深く、葉の根元が赤い[12]。また、種には棘がある[4]。西洋種は葉肉が厚く、葉は丸みを帯びて切れ込みが少なく、葉の基部があまり色付かない[12]。食味は東洋種の方が葉が柔らかくて甘味が出てよいが、長日条件下でトウが立ちやすいため、秋まきに適している[4]。西洋種は灰汁が強く加熱調理向きであるが[4]、トウが立ちにくいという利点がある[15]。日本では、100種以上のホウレンソウの品種が作られているが[16]、東洋種と西洋種の交配からできた品種が主流で、一代交配種(F1)が大半で[2][12]、外見では西洋種のような丸葉のタイプや、東洋種のような深い切れ込みがある葉のタイプがある[4]。葉の軸(葉柄)や葉脈が赤い品種群は、赤茎種とも呼ばれ、灰汁が少なくあっさりした味わいで、生食にも向く[4]

東洋種

  • 日本ホウレンソウ - 日本在来種。葉の切れ込みが多く、柔らかくて甘味があるのが特徴[14]。株はあまり大きくならずに、葉を地面に広げて育つ[17]。アクが少なめでお浸しに向く[16]
  • 山形赤根ほうれんそう - 山形県特産の東洋系の品種で、葉身は薄くてギザギザした切れ込みがあり、1株から10本以上の茎が出るのが特徴。根の部分は紅く、土臭さがない。[12]

交雑種(交配種)

  • 剣葉ほうれんそう - 東洋系で葉先が尖り、切れ込みが深いのが特徴で、葉身は薄くて柔らかく、アクが少なくて甘味がある[12]。「豊葉」「次郎丸」などの品種が知られる[11]
  • 丸葉ほうれんそう - 葉に丸みがあり柄が太いのが特徴で、葉身は厚く土臭さがある。現在の主流は東洋系と西洋系の交配種[12]

その他

  • 縮みホウレンソウ - 「寒締め栽培」で寒さに当たって、肉厚の葉に細かなチジミが入るのが特徴。アクが少なく、甘味が強い。[14]
  • 赤茎ホウレンソウ - ヒユ科のスイスチャード(和名:フダンソウ)との交配で作られた品種で、茎が赤いのが特徴。生食用でアクが少なく、ベビーリーフとしても市場に出回っている。[14]
  • サラダほうれんそう - 生食用に改良された品種で、全体的に葉の色が薄く、茎は細くて赤いものと緑色のものがある。多くは水耕栽培されている[16]。葉が柔らかくでアクが少なく、甘味があってそのまま生食できる。[14][12]

注釈

  1. ^ 最新のAPG体系はヒユ科であるが、古いクロンキスト体系新エングラー体系ではアカザ科に分類された[1]
  2. ^ 俳句では、春の季語に分類される。
  3. ^ カビを起因とし、地際が褐色になって腐ってくびれ、立ち枯れる病気で、温度や湿度が高いと多発する[25]
  4. ^ 土中カビが原因で、根から侵入して茎の導管を侵し、下葉から枯れていく病気[26]

出典

  1. ^ a b 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Spinacia oleracea L. ホウレンソウ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2021年12月12日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m n 猪股慶子監修 成美堂出版編集部編 2012, p. 50.
  3. ^ a b c 金子美登 2012, p. 142.
  4. ^ a b c d e f g h i j 藤田智監修 NHK出版編 2019, p. 180.
  5. ^ Linnaeus, Carolus (1753) (ラテン語). Species Plantarum. Holmia[Stockholm]: Laurentius Salvius. p. 1027. https://www.biodiversitylibrary.org/page/359048 
  6. ^ a b c d e f g h i j k 講談社編 2013, p. 125.
  7. ^ デジタル大辞泉「菠薐草:ホウレンソウ」 コトバンク 2015年5月30日閲覧。
  8. ^ ほうれんそう (菠薐草)」跡見群芳譜 2015年5月30日閲覧。
  9. ^ a b c d 講談社編 2013, p. 123.
  10. ^ a b c 丸山亮平編 2017, p. 54.
  11. ^ a b 金子美登・野口勲監修 成美堂出版編集部編 2011, p. 130.
  12. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r 講談社編 2013, p. 124.
  13. ^ 講談社編『旬の食材:秋・冬の野菜』、講談社、2004年、p.20.
  14. ^ a b c d e f 猪股慶子監修 成美堂出版編集部編 2012, p. 51.
  15. ^ 講談社編 2013, p. 122.
  16. ^ a b c d e f g h i j k 主婦の友社編 2011, p. 51.
  17. ^ 金子美登・野口勲監修 成美堂出版編集部編 2011, p. 131.
  18. ^ 板木利隆 1996, p. 80.
  19. ^ a b c d 主婦の友社編 2011, p. 54.
  20. ^ 【家庭菜園のプロ監修】美味しい「ホウレンソウ」の育て方!失敗しない栽培のコツとは? | AGRI PICK”. 農業・ガーデニング・園芸・家庭菜園マガジン[AGRI PICK]. 2021年2月27日閲覧。
  21. ^ a b c d e f 藤田智監修 NHK出版編 2019, p. 181.
  22. ^ a b c d e 金子美登 2012, p. 143.
  23. ^ a b 今が旬の「ほうれんそう」のお話”. 農研機構. 2008年12月24日閲覧。
  24. ^ 真冬の寒さを活用した寒じめ菜っぱの栽培マニュアル (PDF)
  25. ^ 藤田智監修 NHK出版編 2019, p. 240.
  26. ^ 金子美登 2012, p. 242.
  27. ^ FAOSTAT>DOWNLOAD DATA” (英語). FAOSTAT. FAO. 2014年11月8日閲覧。
  28. ^ 農林水産省/ほうれんそう生産量上位について”. 農林水産省. 2015年7月1日閲覧。
  29. ^ 高山市農政部農務課・高山市農業経営改善支援センター連絡会. “平成25年版 高山市の農業”. 高山市農政部農務課. 2015年7月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年7月1日閲覧。
  30. ^ 作物統計調査>作況調査(野菜)>確報>平成25年産野菜生産出荷統計>年次>2013年”. e-Stat. 総務省統計局 (2014年12月15日). 2015年7月1日閲覧。
  31. ^ a b 作物統計調査>作況調査(野菜)>確報>平成25年産野菜生産出荷統計>年次>2013年”. e-Stat. 総務省統計局 (2014年12月15日). 2015年7月1日閲覧。
  32. ^ a b c d e 主婦の友社編 2011, p. 50.
  33. ^ a b ポパイにでてくるようなほうれん草の缶詰って売っているの?”. Column Navi. 2022年5月28日閲覧。
  34. ^ 文部科学省日本食品標準成分表2015年版(七訂)
  35. ^ 厚生労働省日本人の食事摂取基準(2015年版)
  36. ^ 『タンパク質・アミノ酸の必要量 WHO/FAO/UNU合同専門協議会報告』日本アミノ酸学会監訳、医歯薬出版、2009年5月。ISBN 978-4263705681 邦訳元 Protein and amino acid requirements in human nutrition, Report of a Joint WHO/FAO/UNU Expert Consultation, 2007
  37. ^ USDA National Nutrient Database
  38. ^ 飼い主のためのペットフード・ガイドライン 環境省、2020年4月29日閲覧。





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