ホウレンソウ 栽培

ホウレンソウ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/12 14:00 UTC 版)

栽培

ほうれん草畑

ホウレンソウは種まきから約1か月で収穫でき[4]、生長の度合いは栽培期間中の日照時間の合算で決まる[9]。耐寒性は極めて強く、0℃以下でも生育を続け、−10℃の低温にも耐える[18]。栽培時期は3月 - 6月(春まき)、または9 - 2月(秋まき)がある[19]。栽培に適した土壌酸度は pH 6.5 - 7.0で、生育適温 15 - 20℃、発芽適温15 - 20℃とされ、冷涼な気候を好み、酸性土壌や過湿を嫌う性質がある[4]。栽培難度はふつうで、春まきよりも秋まきのほうが育てやすい[16]連作は可能とする文献や[16]連作障害があるので輪作は1年あけるようにする必要があるとする文献もある[3]。ホウレンソウの種子は外殻に包まれており、そのままでは発芽率が悪いことから、経済的な栽培にはネーキッド種子と呼ばれる裸種子が用いられる。移植を嫌う直根型であるので、種子は圃場に直接播かれる[3]。子葉展開後本葉が展開し、葉伸長20 - 30センチメートルの頃に収穫期を迎える。種まきは春まきなら3 - 5月、秋まきなら9 - 11月に行う。収穫は春まきなら4 - 6月、秋まきなら10月 - 翌2月に行う[20]。種子をすじまきか点まきにして、発芽まで水切れしないように管理し、間引きしながら育てていくのが大切なポイントになる[19]。また、種をまく時期によって、時期に合った品種を選ぶことも大切となり、春まきはとうが立ちにくい西洋種、秋冬まきは寒さに強い東洋種が向いている[16]

種まきは、酸性土壌では育たないため苦土石灰を多めにまいたり[19]、完熟堆肥をすき込んで調整した中性土壌に畝を作り、種を筋まきして薄く土を被せるが、被土の厚さが薄く均一でないと発芽しなかったり、発芽してもうまく育たない場合がある[21]。栽培期間が短いホウレンソウは、発芽を揃えることが重要で、種を一昼夜水につけてから、水を切って発根させる「芽だし」をさせた種をまく方法もある[10]。発芽後の本葉が1 - 2枚のころに、葉が触れ合わない程度に3 - 4センチメートル (cm) 間隔で間引きを行い、株元に土寄せを行う。1週間を目安に繰り返し間引きを行い、2回目は本葉が3 - 4枚で行い間隔を6 cmほどにする。その際に、追肥、土寄せも行う[19][21]。さらに本葉が4 - 5枚になった頃に、追肥と土寄せを行う[21]。草丈が25 cm内外になったら収穫適期で、株ごと抜き取って根を切り落とすか、株元を掘り下げてハサミで根を少し残すように切り取る方法で収穫を行う[21][22]。ホウレンソウは、昼間の時間が長くなる「長日条件」になると薹(トウ)が立ち、花茎が伸びて葉が固くなり、味が落ちてしまう性質がある[21]。そのため、街灯などの影響を受けにくい夜間に暗くなる場所で栽培する[21]

ホウレンソウがおいしくなる時期は冬である[注 2]。寒さや霜に当たると、ロゼットの様に地面に葉を広げて栄養と甘味を蓄えて肉厚になる性質があり[22]、収穫前に冷温にさらすこともしばしば行われ、これらの処理は「寒締め(かんじめ)」と呼ばれている。これは農研機構(農業・食品産業技術総合研究機構)(旧東北農業試験場)が確立した栽培方法である[23][24]。寒締めを行ったホウレンソウは、低温ストレスにより糖度の上昇、ビタミンCビタミンEβカロチンの濃度の上昇が起こる。 寒締め栽培は平均気温が低い群馬県青森県などで盛んに行われている。

病虫害には、アブラムシハスモンヨトウ(ヨトウムシ)、べと病、立ち枯れ病[注 3]などがある[4][10]。対策として、害虫を見つけたら取り除き、間引きして風通しをよくすることでアブラムシ予防につながる[22]。ホウレンソウは春まきと秋まきで育てられるが、秋まきのほうが害虫が少なく、育てやすい[22]。ホウレンソウの種をまいた周辺に、1か月ほど育苗した葉ネギコンパニオンプランツとして植えておくと、ホウレンソウの害虫を遠ざけ、萎ちょう病(いちょうびょう)[注 4]を予防する効果がある[22]

収穫量と作付面積

世界

世界のホウレンソウの収穫量と作付面積の推移(1961-2013年)

世界における生産量は中華人民共和国が91.4%を占め他国を圧倒しているが、日本は世界第4位にランクインする主要生産国である[23]

世界の収穫量上位10か国(2019年)[27]

順位 国または地域 生産量(t) シェア(構成比)
世界 30,107,231
1位 中国 27,527,619 91.4%
2位 アメリカ 435,721 1.4%
3位 トルコ 229,793 0.8%
4位 日本 226,865 0.8%
5位 ケニア 178,707 0.6%
6位 インドネシア 160,306 0.5%
7位 フランス 122,670 0.4%
8位 イラン 118,641 0.4%
9位 パキスタン 111,215 0.4%
10位 イタリア 99,520 0.3%

日本

日本のホウレンソウの収穫量と作付面積の推移(1973-2013年)

日本で比較的に栽培が多い産地は千葉県と埼玉県である[28]。市町村別の生産量は岐阜県高山市が最も多い[29]。日本における2013年の年間生産量は250,300tであり[30]、生ものはほぼ全部を自給しているが、冷凍ものが約2万t輸入されている。

収穫量上位10都道府県(2013年)[31]

収穫量順位 都道府県 収穫量(t) 作付面積(ha)
1 千葉県 34,300 2,240
2 埼玉県 26,100 2,140
3 群馬県 19,800 1,820
4 宮崎県 18,200 997
5 茨城県 16,300 1,140
6 岐阜県 12,100 1,300
7 福岡県 9,090 627
8 神奈川県 7,920 689
9 北海道 6,750 678
10 愛知県 6,650 489
全国計 250,300 21,300

収穫量上位10市町村(2013年)[31]

収穫量順位 市町村 所属都道府県 収穫量(t) 作付面積(ha)
1 高山市 岐阜県 8,680 960
2 太田市 群馬県 4,830 466
3 久留米市 福岡県 4,400 298
4 徳島市 徳島県 3,750 389
5 伊勢崎市 群馬県 3,400 347
6 川越市 埼玉県 3,220 252
7 所沢市 埼玉県 2,850 226
8 狭山市 埼玉県 2,100 168
9 渋川市 群馬県 2,010 166
10 石井町 徳島県 1,570 160
全国計 250,300 21,300

注釈

  1. ^ 最新のAPG体系はヒユ科であるが、古いクロンキスト体系新エングラー体系ではアカザ科に分類された[1]
  2. ^ 俳句では、春の季語に分類される。
  3. ^ カビを起因とし、地際が褐色になって腐ってくびれ、立ち枯れる病気で、温度や湿度が高いと多発する[25]
  4. ^ 土中カビが原因で、根から侵入して茎の導管を侵し、下葉から枯れていく病気[26]

出典

  1. ^ a b 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Spinacia oleracea L. ホウレンソウ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2021年12月12日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m n 猪股慶子監修 成美堂出版編集部編 2012, p. 50.
  3. ^ a b c 金子美登 2012, p. 142.
  4. ^ a b c d e f g h i j 藤田智監修 NHK出版編 2019, p. 180.
  5. ^ Linnaeus, Carolus (1753) (ラテン語). Species Plantarum. Holmia[Stockholm]: Laurentius Salvius. p. 1027. https://www.biodiversitylibrary.org/page/359048 
  6. ^ a b c d e f g h i j k 講談社編 2013, p. 125.
  7. ^ デジタル大辞泉「菠薐草:ホウレンソウ」 コトバンク 2015年5月30日閲覧。
  8. ^ ほうれんそう (菠薐草)」跡見群芳譜 2015年5月30日閲覧。
  9. ^ a b c d 講談社編 2013, p. 123.
  10. ^ a b c 丸山亮平編 2017, p. 54.
  11. ^ a b 金子美登・野口勲監修 成美堂出版編集部編 2011, p. 130.
  12. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r 講談社編 2013, p. 124.
  13. ^ 講談社編『旬の食材:秋・冬の野菜』、講談社、2004年、p.20.
  14. ^ a b c d e f 猪股慶子監修 成美堂出版編集部編 2012, p. 51.
  15. ^ 講談社編 2013, p. 122.
  16. ^ a b c d e f g h i j k 主婦の友社編 2011, p. 51.
  17. ^ 金子美登・野口勲監修 成美堂出版編集部編 2011, p. 131.
  18. ^ 板木利隆 1996, p. 80.
  19. ^ a b c d 主婦の友社編 2011, p. 54.
  20. ^ 【家庭菜園のプロ監修】美味しい「ホウレンソウ」の育て方!失敗しない栽培のコツとは? | AGRI PICK”. 農業・ガーデニング・園芸・家庭菜園マガジン[AGRI PICK]. 2021年2月27日閲覧。
  21. ^ a b c d e f 藤田智監修 NHK出版編 2019, p. 181.
  22. ^ a b c d e 金子美登 2012, p. 143.
  23. ^ a b 今が旬の「ほうれんそう」のお話”. 農研機構. 2008年12月24日閲覧。
  24. ^ 真冬の寒さを活用した寒じめ菜っぱの栽培マニュアル (PDF)
  25. ^ 藤田智監修 NHK出版編 2019, p. 240.
  26. ^ 金子美登 2012, p. 242.
  27. ^ FAOSTAT>DOWNLOAD DATA” (英語). FAOSTAT. FAO. 2014年11月8日閲覧。
  28. ^ 農林水産省/ほうれんそう生産量上位について”. 農林水産省. 2015年7月1日閲覧。
  29. ^ 高山市農政部農務課・高山市農業経営改善支援センター連絡会. “平成25年版 高山市の農業”. 高山市農政部農務課. 2015年7月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年7月1日閲覧。
  30. ^ 作物統計調査>作況調査(野菜)>確報>平成25年産野菜生産出荷統計>年次>2013年”. e-Stat. 総務省統計局 (2014年12月15日). 2015年7月1日閲覧。
  31. ^ a b 作物統計調査>作況調査(野菜)>確報>平成25年産野菜生産出荷統計>年次>2013年”. e-Stat. 総務省統計局 (2014年12月15日). 2015年7月1日閲覧。
  32. ^ a b c d e 主婦の友社編 2011, p. 50.
  33. ^ a b ポパイにでてくるようなほうれん草の缶詰って売っているの?”. Column Navi. 2022年5月28日閲覧。
  34. ^ 文部科学省日本食品標準成分表2015年版(七訂)
  35. ^ 厚生労働省日本人の食事摂取基準(2015年版)
  36. ^ 『タンパク質・アミノ酸の必要量 WHO/FAO/UNU合同専門協議会報告』日本アミノ酸学会監訳、医歯薬出版、2009年5月。ISBN 978-4263705681 邦訳元 Protein and amino acid requirements in human nutrition, Report of a Joint WHO/FAO/UNU Expert Consultation, 2007
  37. ^ USDA National Nutrient Database
  38. ^ 飼い主のためのペットフード・ガイドライン 環境省、2020年4月29日閲覧。





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