ヘルター・スケルター 曲の構成

ヘルター・スケルター

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/07/02 16:59 UTC 版)

曲の構成

本作のキーはEメジャー[16]、基本的に4分の4拍子となっている[17]。ヴァースとコーラス(サビ)の2つで構成されており、そこから楽器によるパッセージと3つ目のヴァースが続く。3つ目のヴァースの後に一度演奏が静かになり、再び演奏が激しくなったところで一度フェード・アウトする。その後徐々にフェード・インして不協和音のパートに入る[17]。ステレオ・ミックスには、フェード・インして曲を締めくくるセクションがもう一つ含まれている[18]

E7、G、Aの3つのコードが使用され、拡張されたエンディング部分はE7で演奏されている。歌詞は、縁日や見本市で設置される同名の螺旋式の大型すべり台についての言及から始まり[19]、「Do you, don't you want me to love you(ねえ、君は僕に愛して欲しいの、欲しくないの)」など暗示的かつ挑発的な歌詞になっていく[20]

レコーディング

「ヘルター・スケルター」のレコーディングは、1968年7月18日にEMIスタジオの第2スタジオで開始された。この日のセッションでは、演奏時間が12分のテイク[注釈 2]や、27分11秒と最も長いジャム・セッションのようなテイクが存在している[22]。なお、この時のテイクはいずれもリリース版よりもテンポが遅く、キーがEマイナーに設定された[2]ブルース調となっていた。

その後9月9日にリメイクが開始され、この日は演奏する全ての楽器のボリュームを最大にして録音が行なわれ[10]、セッションの前にはエルヴィス・プレスリーの「ベイビー・アイ・ドント・ケア英語版」が即興的に演奏された[注釈 3]。9月9日にレコーディングされたテイクは、いずれも演奏時間が5分以内に収められている。18テイクを録音した直後、ドラムスを非常に激しく叩いたことにより指にまめができたリンゴ・スターは、ドラムスティックをスタジオの隅に投げ捨て[18]、「I got blisters on my fingers!(指にまめができやがった!)」と叫んだ[6][23]。このセッションについて、スターは「僕らがスタジオの中で完全なる狂気とヒステリーの中で作り上げた曲」[10]と回想しており、本作のプロデュースを担当したクリス・トーマスは「ポールのボーカル録りの際に、アーサー・ブラウンになりきったジョージ・ハリスンが火の付いた灰皿を頭の上に乗せてスタジオ内を走り回っていた」[24][2]と、当時の様子を語っている。9月10日にハリスンのリードギターマル・エヴァンズトランペット、スターのドラムス、レノンのサックスオーバー・ダビングされた[25]

9月17日にモノラル・ミックス、10月12日にステレオ・ミックスが作成された[2]。ステレオ・ミックスでは1度フェード・アウトした後に徐々にフェード・インし、再びフェード・アウトしてから、シンバルクラッシュが3回入った後に[26]、前述のスターの叫び声が収録されている。モノラル・ミックスは1回目のフェード・アウトで終わってしまうため、スターの叫び声は収録されておらず、演奏時間もステレオ・ミックスよりも短くなっている[25]

2009年9月9日に発売された音楽ゲーム『The Beatles: Rock Band』(日本未発売)には、一度もフェード・アウトせずに完奏するアレンジで収録されている。

リリース・評価

「ヘルター・スケルター」は、1968年11月22日にアップル・レコードより発売されたオリジナル・アルバム『ザ・ビートルズ』のC面6曲目に収録された[27][28]。1976年に発売されたコンピレーション・アルバム『ロックン・ロール・ミュージック』にも収録され、アメリカでは同作からの先行シングルとして発売された『ゴット・トゥ・ゲット・ユー・イントゥ・マイ・ライフ』のB面にも収録された[29]。このほか、1980年にアメリカで発売された『レアリティーズ Vol.2』(モノラル・ミックス)や2012年にiTunes Store限定で配信が開始された『トゥモロー・ネバー・ノウズ』にも収録された[30]

1999年にギター・ワールド英語版誌のクリストファー・スカペリッチは、「ホワイト・アルバムの魅力的な傑作」として、「ヘルター・スケルター」、「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」、「ハッピネス・イズ・ア・ウォーム・ガン」の3曲を挙げた[31]オールミュージックスティーヴン・トマス・アールワインは、「プロトメタル英語版の雄叫び」と評している[32]。2018年にインデペンデント誌のジェイコブ・ストルワーシーは、アルバム『ザ・ビートルズ』収録曲を対象としたランキングで、「これまでにレコーディングされた中で最高のロック・ソング」として本作を3位に挙げ、「間違いなくヘヴィメタルの先駆けとなった最も激しく、猛烈なトラックは、人々が慣れ親しんだマッカートニーのラブソングから大きくかけ離れている」と評している[33]クラシック・ロック誌のイアン・フォートナムは、「アルバム『ザ・ビートルズ』を“永続的なロックの青写真”にした4曲」として「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」、「ドント・パス・ミー・バイ」、「ヤー・ブルース」と共に本作を挙げた[34]。特に本作については「ヘヴィメタルの元祖といえる主要な楽曲の1つ」とされ、「1970年代に流行したパンク・ロックにも影響を与えた」と評されている[35]

一方で、音楽評論家のイアン・マクドナルド英語版は本作について「滑稽」「コミカルにしすぎて、ブルドーザーがちっぽけなガラクタになっている」と評している[36]ロブ・シェフィード英語版は、2004年にThe Rolling Stone Album Guideで掲載された『ザ・ビートルズ』のCD盤のレビューで「これで『ヘルター・スケルター』を飛ばすために、針を持ち上げる必要がなくなった」と書いている。デイビット・クヴァンティック英語版は、著書『Revolution: The Making of the Beatles' White Album』で「聞き手を感動させるほど激しくなければ、発奮するほどの刺激もない」と評している[37]

2005年にQ誌が発表した「100 Greatest Guitar Tracks Ever」で第5位[38]、2010年にローリング・ストーン誌が発表した「100 Greatest Beatles Songs」で第52位[26][39]にランクインした。一方で、前述のマンソン・ファミリーが引き起こした殺人事件との関連性から、1971年にWPLJとヴィレッジ・ヴォイス紙が行ったビートルズの楽曲を対象とした世論調査ではワースト4位[40]、2018年にケラング!誌が発表した「The 50 Most Evil Songs Ever」では第1位[40] にランクインした。


注釈

  1. ^ ザ・フーの「恋のマジック・アイ」は、ビートルズが「ヘルター・スケルター」のレコーディングを開始する約9か月前の1967年10月に発売された[8][2]
  2. ^ 1996年に発売された『ザ・ビートルズ・アンソロジー3』には演奏時間を4分37秒に短く編集したものが収録されている[21]。12分のフルサイズは2018年に発売された『ザ・ビートルズ (ホワイト・アルバム) 〈スーパー・デラックス・エディション〉』に収録された[2]
  3. ^ 当時の音源が『ザ・ビートルズ (ホワイト・アルバム) 〈スーパー・デラックス・エディション〉』に収録された。
  4. ^ ただし、綴りを誤っており、「HEALTERSKELTER」となっている[46][47]

出典

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  14. ^ Womack 2014, p. 381-382.
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  21. ^ Unterberger, Richie (2006). The Unreleased Beatles: Music and Film. Backbeat Books. p. 223. ISBN 0-87930-892-3 
  22. ^ Lewisohn 2005, p. 143.
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ヘルタースケルター

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/11/22 21:07 UTC 版)

ヘルタースケルター(Helter Skelter)は「慌てふためいて」「混乱している」の意味があり、イギリスでは見本市や遊園地に設置される螺旋状の大型滑り台アトラクションにその名がつけられた。




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