ヒラメ 漁業

ヒラメ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/12 02:29 UTC 版)

漁業

日本では刺身、寿司ネタに用いられる高級食材で、ヒラメ、カレイ類の中では最も高値で取引され、一本釣り延縄定置網、底曳き網、刺し網など各種の漁法で漁獲される。また、カレイよりも成長が早いこと、また海底で静止していることが多いためにさほど酸素を必要とせず海水をあまり汚さないことから、陸上での養殖が盛んである[10]。養殖においても餌(小魚類)は天然物と変わらず、食餌行為による運動量も差異がないことから食味が変わらない。資源保護のため、ある大きさに達しない個体は再放流したり、稚魚放流も行われている。稚魚放流されたヒラメは成長しても腹側の黒い紋様が消えず、パンダビラメと呼ばれる。

陸揚げ漁港

都道府県別漁獲量

  • 2011年(平成23年)度[11]
    • 1位 北海道
    • 2位 青森県
    • 3位 茨城県
    • 4位 長崎県
    • 5位 新潟県

都道府県別養殖生産量

  • 2011年(平成23年)度[11]
    • 1位 大分県
    • 2位 愛媛県
    • 3位 鹿児島県
    • 4位 三重県
    • 5位 長崎県

食材

白身魚の中では特に淡白で繊細な味わいで、非常に美味であるとされる。特に背鰭と臀鰭付け根の部分の身は、縁側(えんがわ)と呼ばれる脂の乗った歯ごたえのある部位で珍重される。刺身寿司、酒蒸しなどで食べる。またムニエル等でフランス料理でも使われる。肝臓(キモ)もカワハギ等と同様珍重される。寒平目の名の通り、旬は冬期。産卵後の夏場はクソ平目と呼ばれるほど食味が落ちるといわれるが、冬場の食味と比較した場合見劣りする程度で、夏場でも美味い魚の代表格といえる。調理の際はその特殊な体型から三枚おろしではなく、五枚下ろしあるいは七枚卸しにする。五枚卸しとは上身背・腹、下身背・腹、骨の5つに分けたものを言い、七枚卸しは五枚卸しに背と腹の縁側を別にしたものを言う。

寄生虫

クドア属

Kudoa septempunctata に感染した組織標本

かつてクドアの一種(Kudoa septempunctata, 以下、クドア)は病原性が無いと考えられていたが、寄生したヒラメを人間が生で食べ、食後数時間程度で一過性の下痢嘔吐といった軽度の食中毒を起こした事例が報告され、調査の結果原因物質である可能性が極めて高いとされている[12][13]。ただし、必ず発症するものではないうえ、症状は一過性かつ軽症で翌日には後遺症も残らず、クドアが長期に人体で留まる可能性も低い。また、一定時間の冷凍や75℃以上の加熱処理で病原性は無くなることが判明している[14]

なお、クドアは粘液胞子虫の一種で、最初の発見事例は韓国から輸入された養殖ヒラメである[15]が、クドアの生息海域内の天然物やマグロにおいても寄生が確認されている[12][16]

下痢や嘔吐など軽度の有症事例が報告され、細菌ウイルスなどの既知の食中毒原因物質が検出されない事例では[17][18]、暫定的にヒラメトキシンなどと呼ばれていた。このような原因不明食中毒について、国立医薬品食品衛生研究所を中心に国立感染症研究所大学などが協力して解明に取り組んだ結果、2011年にその病因物質がヒラメに寄生するクドアの一種 (Kudoa septempunctata) である可能性が非常に高いことが判明した[12]。2012年6月には厚生労働省 食安発0607第7号[19]にて、「生食用生鮮ヒラメについて、筋肉1グラム当たりクドアの胞子数が、100万個を超えたものは、食品衛生法第6条違反品として取り扱うこと」が通知され、食中毒発症の危険性の高い物品は流通が規制された。

養殖現場の安全対策

クドアが寄生したヒラメが出荷されることを防ぐため、2012年に水産庁ではヒラメ養殖・種苗生産施設において実施すべき対策を取りまとめた[20]。ヒラメ養殖が盛んな自治体でも安全対策を行っており、特に養殖が盛んな大分県では、地元産養殖ヒラメの安全性を確保する対策を講じて徹底した検査体制を敷いている[21][22][23]。なお、日本国内には韓国の済州島の養殖ヒラメも流通しているが(クドアに対して十分な対策が行われておらず)流通過程で産地偽装が行われ、小売店が調理した韓国産養殖ヒラメの刺身を客が食べてクドア食中毒に発症した事例が報告されている[24]


注釈

  1. ^ 逆にカレイの目は両目とも頭部の右側半分に付いている。ただし、頭部の左側に目を持つカレイも存在するため、目が頭部の左側にあるもの全てがヒラメというわけではない。

出典

  1. ^ 鈴木晋一 『たべもの史話』 小学館ライブラリー、1999年、pp95-99
  2. ^ 表と裏が同じ色 珍しいヒラメ見つかる:NHKニュース(2013年2月21日)
  3. ^ 裏表のない正直ヒラメ!?全身褐色:西日本新聞(2013年2月22日)
  4. ^ 釣り人仰天、「右向き」ヒラメ 茨城・鹿嶋沖 遺伝子的要因か:茨城新聞クロスアイ(2023年11月6日))
  5. ^ 「右向き」の珍しいヒラメが釣り上げられる 茨城 鹿嶋の沖合:NHKニュース (2023年11月7日)
  6. ^ 「右向き」ヒラメ展示 茨城県大洗水族館:茨城新聞動画ニュース(茨城新聞)(2023年11月9日)
  7. ^ Gyoruigaku. 3. Ochiai, Akira, 1923-, Tanaka, Masaru, 1943-, 落合, 明, 1923-, 田中, 克, 1943-. 恒星社厚生閣. (1986). ISBN 4769905602. OCLC 672654489. https://www.worldcat.org/oclc/672654489 
  8. ^ ヒラメ - 東京都島しょ農林水産総合センター”. www.ifarc.metro.tokyo.lg.jp. 2022年12月19日閲覧。
  9. ^ 北野健、水温に影響されるヒラメの性 日本比較内分泌学会ニュース 2006年 2006巻 120号 p.120_10-120_12, doi:10.5983/nl2001jsce.2006.120_10
  10. ^ 養殖魚を知る!ウォールド君のおさかな大百科 ヒラメ - (社)全国海水養魚協会
  11. ^ a b 平成23年漁業・養殖業生産統計 - 農林水産省
  12. ^ a b c クドア食中毒総論 - 国立感染症研究所
  13. ^ ヒラメを介したクドアの一種による食中毒Q&A - 農林水産省
  14. ^ 生食用生鮮食品による原因物質不明有症事例についての提言 (PDF) - 厚生労働省 薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会
  15. ^ Matsukane, Y. et al. 2010: "Kudoa septempunctata n. sp (Myxosporea: Multivalvulida) from an aquacultured olive flounder (Paralichthys olivaceus) imported from Korea." Parasitology research, 107(4): 865-872. doi:10.1007/s00436-010-1941-8
  16. ^ 大西貴弘食中毒原因物質としての"クドア"に関する最新の知見 (PDF) モデンメディア 2012年7月号(第58巻7号)p.205-209。
  17. ^ 懸賞のヒラメで110人が食中毒 伊予銀の定期預金 - 日本経済新聞 2010年10月10日
  18. ^ 「ヒラメ自粛」謎の食中毒で臆測 石川県内温泉街、厚労省は「根拠ない」 北國新聞 2011年2月16日
  19. ^ クドアを原因とする食中毒の発生防止について 厚生労働省 食安発0607第7号 (PDF)
  20. ^ 養殖ヒラメに寄生したクドアによる食中毒の防止対策 -水産庁
  21. ^ 県産養殖ヒラメの安全性確保(食中毒の防止対策ガイドライン)について - 大分県水産振興課
  22. ^ 養殖ヒラメ 寄生虫検査を強化 - 大分合同新聞2011年7月6日
  23. ^ 養殖ヒラメ 寄生虫検査 ガイドラインを作成 - 大分合同新聞2011年7月12日
  24. ^ 「韓国産のヒラメ」が危ない?目に見えない寄生虫が... - PRESIDENT Online


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