バトラー
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/16 16:17 UTC 版)
数あるイギリスの家事使用人の中でも最上級の職種の一つであり、フットマン(従僕)を勤め上げた者がバトラーに昇格した。上流階級か、下層の上流家庭より裕福な中流最上層の家庭にのみ見られた。
原義は酒瓶を扱う者の意味であって、その名の通り酒類・食器を管理し、主人の給仕をするという本来の職務に加え、主人の代わりに男性使用人全体を統括し、その雇用と解雇に関する責任と権限を持つ。多くの場合、ヴァレット(従者)を兼ね、主人の身の回りの世話をするとともに、私的な秘書として公私に渡り主人の補佐をした。
執事という語について
一般に、バトラーの訳語として「執事」が充てられることが多い。
しかし、近代までの日本語において「執事」に上級使用人という語義はなく、多くの場合は執行官や執政官、家令の長官(家宰)を意味した[1]。その意味では、どちらかといえばスチュワードに近い。平安時代の執事は政務・事務を執行する下級官職だったが(『侍中群要』(1071年?))[1]、やがて摂関家の家司(家令)の長官や院庁の長官を指すようになって[1]、特に院庁長官である院執事は南北朝時代以降は大臣級が占める高級官職だった[2]。武家でも、鎌倉幕府の執権の異称や室町幕府の管領の前身として、執政の最高職を指した[1]。明治時代に院政が廃止された後も、「執事」という語は1940年代までは手紙で貴人や目上の者に対する脇付として使用された[1]。
日本最大の国語辞典である『日本国語大辞典』第二版(2000–2002年)は、日本語の「執事」に上級使用人としての語義を掲載せず[1]、『大辞林』第三版(2006年)も同様である[3]。一方、『デジタル大辞泉』(2019年8月版)は、「貴族・富豪などの大家にあって、家事を監督する職。また、その人。」と、バトラーに近い語義を「執事」の第一義として掲載している[3]。
地位
屋敷内でのバトラーはハウス・スチュワード(家令)に次ぐ地位にあり、グルーム・オヴ・ザ・チェンバーズ(客室係)、フットマンなどの下級の男性使用人全体を統括する立場にあった。
地下室や台所で雑魚寝の下級使用人とは異なり、バトラーは通常、個室を持つことが許されており、大きな屋敷のバトラーであれば身の回りの世話に専属の使用人が割り当てられた。またフットマンが華美な仕着せをあてがわれていたのとは対照的に、バトラーは私服(unlivery)の使用人であり、主人と同様に「ジェントルマン」の服装をすることが許されていたが、その際には故意に流行遅れのズボンを着用したり、ネクタイをふさわしくない色に変える事などで主人に仕える使用人としての立場を示していた。
注釈
出典
- ^ a b c d e f 「執事」『日本国語大辞典』小学館、2002年。
- ^ 橋本義彦「執事(一)」『国史大辞典』吉川弘文館、1997年。
- ^ a b "執事". 大辞林 第三版. コトバンクより2020年7月11日閲覧。
- ^ a b “英ロンドンの「執事養成学校」が人気、新興国から需要増加”. ロイター. (2012年10月31日) 2013年3月6日閲覧。
- ^ arai (2017年2月20日). “日本初の執事養成機関『プロフェッショナルバトラーアカデミー』開講”. 日本バトラー&コンシェルジュ株式会社. 2024年5月16日閲覧。
- ^ 久我 真樹『日本の執事イメージ史 物語の主役になった執事と執事喫茶』星海社新書、20180826、359頁。ISBN 978-4065123881。
- ^ “多すぎ!アニメ・漫画・ゲームのセバスチャンといえば?”. gooランキング (2018年8月22日). 2021年2月9日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i 久我真樹 (2018年8月24日). “「執事といえばセバスチャン」はいつ成立したのか? 執事ブーム以前のセバスチャン考察”. 2021年2月9日閲覧。
- ^ a b c 久我真樹 (2020年5月4日). “「執事といえばセバスチャン」考察の追跡調査報告1 『ペリーヌ物語』の影響考察”. 2021年2月9日閲覧。
バトラーと同じ種類の言葉
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