チベット語
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/26 16:31 UTC 版)
文法
チベット語は能格言語であり、絶対格と能格の区別がある。文語では名詞にこれを含めて9つの格があり、これらは絶対格(無標)を除き、接語で示される。これらは日本語の助詞と同じく、名詞句のあとにまとめてつける。複数は必要な場合にのみ接尾辞で示される。
文語の動詞には、形態的に最高で4つの基本形式(活用)があり、それぞれ現在形・過去形・未来形・命令形と呼ばれる。活用は母音交替や接頭辞・接尾辞によるが、あまり規則的ではない。ただしこのような活用ができる動詞は限られており、口語では助動詞を用いてアスペクトや証拠性などを標示する。動詞の大多数は2種に分けられ、1つは動作主(助辞 kyis などで示される)の関与を表現し、もう1つは動作主の関与しない動作を表現する(それぞれ意志動詞と非意志動詞と呼ばれることが多い)。非意志的動詞のほとんどには命令形がない。動詞を否定する接頭的小辞には、mi と ma の2つがある。mi は現在形と未来形に、ma は過去形(文語体では命令形にも)に用いられる。現代語では禁止にはma+現在形が使われる。有無は存在動詞の「ある」yod と「ない」med で表す。
また、チベット語においては、日本語と同様に敬語組織が発達している。基本的動詞には別の敬語形があり、その他は一般的な敬語形と組み合わせて表現する。
方言
一般に、チベット語はラサ方言を含むウーツァン方言、カム方言、アムド方言の3「方言」に区分される[49]。また、ゾンカ語、シッキム語、シェルパ語、ラダック語等も、「ラサ方言を中心とする中央方言に対する他の方言の他律的 (heteronomous) な関係」「チベット文語を通しての統一性」[50]を根拠に、チベット語の「方言」と見做されることがある。チベット文化圏において「方言」(ཡུལ་སྐད yul skad)は「標準語」(ཕལ་སྐད phal skad) と対立する概念であるが、これは仏教経典などで伝統的に使われる文語ないし「宗教語」(ཆོས་སྐད chos skad) とも異なる概念である[51]。しかしながら、これらの「方言」間には必ずしも相互理解可能性が見られない点[50]、ゾンカ語、シッキム語、シェルパ語、ラダック語等の話者はチベット人とは異なる民族的アイデンティティを持っている点に留意する必要がある[52]。ニコラ・トゥルナドルの提唱するチベット諸語 (Tibetic languages) は、古チベット語から派生した言語として、一連のチベット語の諸「方言」を包括したものである[53]。
ウーツァン方言では他の方言が破擦音化する場合を除きそれぞれの形で残している先行子音が発音されなくなり声調へ影響を与えるだけに留まっている。声調の数も各方言で異なっており、アムド方言のように全く声調が存在しないものもある。
アムド方言では先行子音が /h/ と /ɣ/ へ収束し、子音 py が残存する。このような保守的な側面の一方、母音では /i/ と /u/ が合一して /ə/ となるなど独自の変化を遂げている。
転写方式
チベット語の文字は7世紀に表音文字として制定されたが、その後、綴字と発音の乖離が著しく進んだため、チベット語を他言語の文字によって表記する方式としては、発音を写し取る転写と、綴り字を写し取る翻字とで、全く別個の体系を用意する必要がある。
転写体系
- 日本においてチベット学の専門家が公表・提示した転写方式
- 「チベット語のカタカナ表記について」(今枝試案)
- 「地名・人名データベース (チベット語)」(星式転写方式)
- 中華人民共和国における蔵文ピン音
翻字体系
- ワイリー拡張方式
- ダス式
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固有名詞の分類
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