キャブレター
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/07/21 21:48 UTC 版)
種類
液体燃料用のキャブレターは多様な形式があり、ベンチュリの数や方向、機能のほか、燃料チャンバーの方式により分類される。
ベンチュリの数
最も単純なキャブレターはベンチュリが1個であるが、より多くの混合気を効率よくエンジンに供給するために複数のベンチュリを備えるものもある。1個の場合はシングルバレル、複数の場合はマルチバレルあるいはベンチュリの数を表現して2バレル、4バレルと呼ばれる。また、エンジンの負荷、すなわちエンジンに送られる混合気量に応じて2種類のベンチュリが段階的に働くキャブレターがあり、ステージドキャブレターあるいは2ステージキャブレターと呼ばれる。これに対し、エンジン負荷の全域を1つのベンチュリでまかなう方式はシングルステージキャブレターと呼ばれる。
例えば、直列4気筒エンジンでシングルステージの2バレルキャブレターが2個搭載される場合や、V型8気筒エンジンにシングルステージの4バレルキャブレターが2個搭載される場合がある。
ステージドキャブレターは、スロットル開度に応じてメインバレル(プライマリーバレル)と、二次バレル(セカンダリーバレル)が段階的に作動する。二次バレルは、メインバレルと同径かあるいはメインバレルより小径で、リンク機構やダイヤフラムアクチュエータにより動作する。メインバレルと二次バレルを2組持った2ステージ4バレルキャブレターもある。ボアの直径の相違やチョークバルブの有無などで、外観からシングルステージの2バレルと判別可能である。アクセル開度が小さいときはメインバレルのみを開き、ベンチュリを通過する空気の流速を増加させて高いベンチュリ効果を確保する。アクセル開度が大きいときは二次バレルも開いて、より多くの混合気を供給する。これにより、広い範囲で適切な混合気を形成する。ヤマハ・V-MAXのVブーストシステムもステージドキャブレターの一種である。
ベンチュリの方向
吸入空気の流れる方向によって、ホリゾンタルドラフト(サイドドラフト)、アップドラフト、ダウンドラフトと呼ばれる。
- ホリゾンタルドラフト(サイドドラフト)
- 吸入空気がキャブレター側面より入り、反対側へ混合気が送り出される。オートバイや船舶用船外機でもこの形式が多い。
- アップドラフト
- 吸入空気がキャブレター下部より入り、上方へ混合気が送り出される。自動車用としては1930年代以前の古いエンジンで多く利用された。当時は直列式サイドバルブエンジンに高い位置のタンクからポンプなしで燃料を重力供給する手法が多く採られており、エンジン脇の低位置にキャブレターを置き、サイドバルブエンジンのインテークに混合気を送るレイアウトが多く、これにアップドラフト式の構造が適していたことによる。気化効率やレスポンスにおいてサイドドラフトやダウンドラフトに大きく劣るため、1940年代以降は自動車用としては廃れていった。現在は、一部の航空機用エンジンでこの形式が使われている。
- ダウンドラフト
- 吸入空気がキャブレター上部より入り、下方へ混合気が送り出される。キャブレターの配置はエンジン直上または側面高位置となり、燃料ポンプを要するが、効率やレスポンスに優れることから、V型8気筒エンジンやOHV方式の普及が進んだ1940年代以降のアメリカ製乗用車に広く採用され、20世紀後半における自動車用の世界的主流となった。1980年代以降は燃料噴射装置が一般化したため姿を消していったが、軽自動車の廉価グレードでは1990年代の中盤まで、小型普通自動車のごく一部の商用車では2000年代の初頭まで、それぞれキャブレター仕様が存在していた。
ベンチュリ形式の種類
- 固定ベンチュリ式
- スロットル操作によらずベンチュリの開口面積が常に一定の方式である。
- 自動車用としては高性能エンジン用のウェーバーやソレックスをはじめ、多くのアメリカ車と日本車の一部のダウンドラフトキャブレターにみられる。今日ではこのタイプのキャブレターを製造するメーカーは少なくなっているが、日本国内ではオーイーアール(OER)が旧式のソレックスなどの更新向けにこのタイプのキャブレターの製造販売を続けている。オートバイにおいては、ハーレーダビッドソンが1989年までこの形式のキャブレターを使用し続けていた。また、戦前から戦後間もなくにかけて使用されたリンカート(Linkart)キャブレターは、日本製の陸王でも日本気化器のライセンス生産品が搭載されていた。しかし、陸王が倒産した1960年代からは、日本製オートバイではこの形式のキャブレターが採用されることはなくなった。(四輪では固定ベンチュリー式、二輪では可変ベンチュリー式が一般的)
- 可変ベンチュリ式
- ベンチュリの開口面積を自動で変化させる方式で、エンジン回転の全域にわたって適切な吸気流速が得られる。今日まで残るものではVM型とCV型の2方式に大別される。
- 自動車においては、日立、ゼニス・ストロンバーグを始めとするサイドドラフト・SUキャブレターが最も一般的に使用された。
- ピストンバルブ式(VM型)
- VM (Villiers Monoblock または Variable Manifold)型では ピストンバルブがスロットルとなり、空気の流量調整と同時にベンチュリの開口面積を変化させる。鋭いエンジンレスポンスが得られる一方、エンジンが求める混合気吸入量を超えてスロットルバルブを開けると空気の流速が低下してジェットからの燃料吐出量が少なくなる。このため、運転者の技能によってエンジン性能が左右される。なお、負圧式に対して、ピストンバルブ式を強制開閉式と通称する事が一般的となっているが、本来の強制開閉式はスロットルを開き側だけでなく、閉じ側もケーブルで引く2本引きスロットルの事であり、むしろ負圧式で一般的である。しかし現在ではピストンバルブ式を指す用語とされることが多い。
- 負圧式(CV型)
- CV(Constant Velocity または Constant Vacuum)型ではスロットルは固定ベンチュリー式と同じく、空気の流量を調整するバタフライバルブを操作する。ベンチュリはバキュームピストンによって開口面積が自動的に変化し、その下端には穴が開けられている。バキュームピストンにはダイアフラム式では膜が付いており、膜の片側には吸気管に生じる負圧がかかり、反対側は大気に開放されている。バキュームピストンはばねで支持され、ばねの力と負圧のバランスでベンチュリの開口面積が流量に応じて自動的に決まり、流量が変わらなければ流速がほぼ一定になるように自動調節される。この仕組のため吸入負圧の小さな2ストロークエンジンには適さない。ベンチュリの開口面積はスロットル操作に直接的に影響を受けないため、エンジン出力のスロットルに対するレスポンスはほかの方式よりも緩やかである。
- 過渡特性が操縦性に大きく影響するオートバイにおいては、インジェクションが普及するまでは2ストローク車、競技用車、および原付など小排気量車を除けば一般的な存在であった。
- その他
- 上記の2形式に該当しない物として、フォードの開発したVV(Variable Venturi)型が挙げられる。この形式は固定ベンチュリ型ダウンドラフトキャブレターをベースに、スロットルポジションセンサーでスロットルバルブの開度を監視しながら、メータリングロッドの付いた可動式ベンチュリをサーボモーターで動かしてベンチュリ径を常時変化させていく[4]。「MOTORCRAFT.VV」の商品名で知られ、1977年から1991年まで、主にピックアップや大型トラックを中心に搭載された。ステージド・マルチバレルキャブレターが主流であったアメリカでもフォードの一部車種のみの採用で終わった。
燃料チャンバーの種類
燃料チャンバーは、ジェットへの安定した燃料供給を保つために一時的に燃料を溜めておく構造である。燃料を溜める量を調節する方式には、浮き(フロート)を利用して液面を保つフロートチャンバーと、ダイヤフラムを利用してチャンバー内の燃料を一定に保つダイヤフラムチャンバーがある。
- フロートチャンバー
- 燃料チャンバーの中には真鍮、樹脂、あるいはコルクなどで作られたフロートが内蔵されており、チャンバー内に満たされている燃料の液面(油面)に応じて上下に動く。フロートにはフロートバルブと呼ばれる弁が連動して動くように取り付けられ、燃料タンクから送られてくる流路を開閉する。燃料がチャンバー内に溜まるとフロートが上昇してフロートバルブを押し上げ、燃料が流入する流路を閉じる。燃料が消費されて、チャンバー内の油面が下がるとフロートが下降して、フロートバルブが開く。この一連の動作により、チャンバー内の油面の高さが一定に保たれる。フロートチャンバー内は大気圧になるように外部との通気性が確保され、通気孔にはエアベントチューブが備えられている場合もある。
- フロートチャンバー内の油面は調整でき、フロートのアームを曲げたり、フロートの止めネジを調整したりといった方法で、フロートバルブが閉じる油面高さが変えられる。
- 金属製フロートの腐食による穴あきや樹脂製フロートの燃料染み込みによって浮力が低下し、混合気が過濃となったり燃料のオーバーフローが起こることがある。この場合はフロートを交換することになるが、チャンバーを分解しなければ発見できないため、異常に気づきにくい。
- ダイヤフラムチャンバー
- チェーンソーや刈払機などの手で持つエンジン機器では、機器を保持する角度によってキャブレターが大きく傾く場合がある。フロートチャンバーは原理上、大きく傾いた状態では正常に動作しないため、こうした機器においてはダイヤフラムチャンバーが用いられている。ダイヤフラムとは柔軟性が高い材質で作られた膜状の部品で、燃料タンクから燃料を吸い出すポンピングダイヤフラムと、燃料チャンバーへの流入経路を開閉するメタリングダイヤフラムがある。ポンピングダイヤフラムはエンジンが始動すると吸入負圧の脈動によりたわみを繰り返して燃料をチャンバーへ送り込む。メータリングダイヤフラムは燃料チャンバーの隔膜として組み込まれ、一方は大気圧に保たれている。メータリングダイヤフラムにはメータリングレバーを介して、チャンバー流入経路を開閉するインレットニードルが連動するように取り付けられている。エンジン停止中はばねの力によりインレットニードルが閉じてチャンバーに流入する燃料を止めているが、エンジンが始動してチャンバー内の燃料が消費されると大気圧に押されたダイヤフラムバルブがインレットニードルを開き、チャンバー内の燃料を補充する。こうしてチャンバー内の油量が一定に保たれる。
- ポンピングダイヤフラムは、エンジンが停止中は燃料を送ることができないため、機種によっては空になった燃料チャンバーに手動で燃料を送るプライミングポンプを備える場合がある[5]。
電子制御式キャブレター
アメリカや日本では1980年代前半から、O2センサーの空燃比信号に合わせて、ECUによって制御される電子制御式キャブレター(ECC)[6]が比較的安価なNA車を中心に広まった。
きっかけとなったのは、アメリカでのマスキー法の改正やCAFE(企業別平均燃費規制)の開始、および昭和53年排出ガス規制が1978年(昭和53年)に日本で施行されたことであった。それまでの排ガス浄化装置はペレット触媒に比べると高価で耐久性に劣り、排気効率が悪い方式(サーマルリアクターなど)が主流であった。日本では翌1979年(昭和54年)に省エネ法が制定され、自動車各社は三元触媒を基礎にO2センサーによるフィードバック制御を行う方式に転換し、燃費と排ガス対策を両立できるようになった。
ECCよりも以前に電子制御式燃料噴射装置(EFI)は登場していたが、ECCは既存のキャブレター仕様の部品構成を大きく変える必要がなく、インジェクターや燃料ポンプなどの高価な電子機器も必要ないため、EFIと比較して安価であった。また、ECUが故障しても走行不能には陥らないことも長所であった[7]。ECCはこうした長所を背景に、1980年代の各国の排ガス規制に十分対応できたことから、廉価な車両を中心に幅広く採用された。しかし、1990年代中盤以降になると燃料噴射装置の価格が量産効果により大幅に低下し、排ガス規制も更に強化される傾向となったことから、こうした電子制御式キャブレターは現在では採用されなくなった。
- ^ フォード V-8 新型カーブレーターカタログ[リンク切れ]
- ^ Random House Dictionaryより。
- ^ “Principles of Gas Carburetion”. Alternate Fuels Technologies, Inc. 2014年2月5日閲覧。
- ^ Ford Motercraft 2バレルキャブレターのパーツリスト
- ^ [1]
- ^ 電子制御キャブの一例であるホンダ・PGM-CARB
- ^ 排出ガス対策を中心にしたスバルエンジンの開発 山岸曦一 - 社団法人自動車技術会
- ^ HRCによる RS125R/RS250Rのパワージェット設定法の説明
- ^ “Colortune”. Autoexpertproducts.com. 2009年9月5日閲覧。[リンク切れ]
- ^ “Expolded view”. Lectronfuelsystems.com. 2009年9月5日閲覧。
キャブレターと同じ種類の言葉
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