カントリー・ハウス
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/28 03:30 UTC 版)
フィクションの舞台として
カントリー・ハウスは16世紀から20世紀にかけての英国文化の典型として多くの小説、映画において舞台として利用されている。この中にはイギリス文学の古典の一つであるジェーン・オースティンおよびブロンテ姉妹の作品なども含まれ、執筆当時の社会や生活を垣間見ることができる。
- ジェーン・オースティンの小説『高慢と偏見』(1813年) はカントリー ・ハウスが描かれた最も著名な小説作品の一つである。数名の使用人を擁したファームハウスに住む主人公エリザベスの父ベネットは、付近のカントリー・ハウスを新たに借り受けた商家の子ビングリーと交際する。ピングリーの邸宅ネザーフィールドにおいては、付近の中流階級に属する人々を招待し舞踏会が開かれるなど、地域における社交の場として利用されている。さらに彼よりも地位と財産を有する友人ダーシーの邸宅ペムバリーとそれに付随する広大な風景式庭園も登場する。興味深い事に主人公一行がこの邸宅を観光でおとずれる場面が存在し、ハウスキーパーによって内部を案内されている。作品中の記述によると、ベネットとビングリーおよびダーシーの年収はそれぞれ2000ポンド、5000ポンド、1万ポンドである。映画化作品においては実際のカントリー・ハウスがロケ地として使用された。原作が忠実に再現されているとして評価の高かったBBC製作、コリン・ファース主演の1995年のテレビシリーズにおいては、ペムバリーの外観にはライム・パークを、内部の撮影にはサドバリー・ホールが使用された。
- シャーロット・ブロンテの小説『ジェイン・エア』(1847年) における同名の主人公は、両親の死後に裕福な親類のもとで孤児として育てられ、師範学校において教育を受けた。その後ジェントリであるロチェスターの邸宅ソーンフィールド・ホールにおいて家庭教師(ガヴァネス)として働くうちに主人のロチェスターと恋に落ち、波乱のすえに結婚することになる。ガヴァネスには何らかの事情により自活せざるを得ない良家の子女が務めることが多く、屋敷内では使用人でもなくチューターのように客人としても扱われない中途半端な立場であった。出版時に人々がこの小説を不道徳であると非難したのは、身分を超えた恋愛を扱っただけでなく、失明したロチェスターの手をとって導く主人公が抱えるフェミニズム思想が当時頑として受け入れられなかったためであった。
- アーサー・コナン・ドイルの「シャーロック・ホームズシリーズ」のひとつ『僧坊荘園』(1904年)はアビー・グランジというカントリー・ハウスが事件の舞台。
- カズオ・イシグロの小説『日の名残り』(1989年) はカントリー・ハウスにおいて執事として勤務していた主人公のモノローグで構成されている。ナチスに迎合したとして第二次世界大戦後に名誉が失墜した主人ダーリントン卿が死去すると、その屋敷であったダーリントン・ホールはアメリカ人の実業家ファラデイに売却された。英国の社会構造が大きく変化した1950年代には同様の例が多く発生した。斜陽にある当時の貴族社会に仕える使用人の回想を、初老にある主人公の仄かな恋愛と共に描いたこの小説は、英語圏を代表する文学賞であるブッカー賞を受賞するなど高く評価され映画化もおこなわれた。
- 南アフリカ出身のボーア人貴族、ローレンス・ヴァン・デル・ポストの小説 『影の獄にて』(1954年)、『The Seed and the Sower』 (1963年) を原作とする 日本映画 『戦場のメリークリスマス』 (1983年)でも、日本軍の捕虜となった英国陸軍少佐 「ジャック・セリアズ」 の故郷の居宅に咲き誇る「バラの庭園」が、死に瀕した軍人貴族(ジェントリ)の 「ノスタルジア」として描かれる。
- テレビドラマのダウントン・アビーは、実在するカントリーハウスであるハイクレア・カースルで撮影された。
- ^ 田中亮三(2009)."英国貴族の歴史". 河出書房新社. ISBN 978-4-309-76126-8
- カントリー・ハウスのページへのリンク