インチ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/09/18 15:36 UTC 版)
歴史
由来
元々のインチは、男性の親指(爪の付け根部分)の幅に由来する身体尺だったと考えられている。古代ローマにおいて、フィートと関連づけられてその12等分した長さが1インチとされた。
インチ (inch) という言葉の語源は、ラテン語で「12分の1」を意味する uncia であり、質量の単位であるオンスと同一語源である。長さのインチのもとは uncia pes (pes は足、英語のフート)であり、質量のオンスのもとは uncia libra (libraが英語のポンドにあたる)である[11]。古英語の ynce(ユンチェ)を経て、inch となった。
また、親指の幅であることから「親指幅」とも呼ばれた。現在でも、多くの言語でこの単位は「親指」という言葉に似た、または同じ名称で呼ばれている。
言語 | インチ | 親指 |
---|---|---|
フランス語 | pouce | pouce |
イタリア語 | pollice | pollice |
スペイン語 | pulgada | pulgar |
ポルトガル語 | polegada | polegar |
スウェーデン語 | tum | tumme |
オランダ語 | duim | duim |
1150年ごろにスコットランド王デイヴィッド1世は、体格の異なる3人の人間の親指の爪の付け根の部分の幅を測り、その平均を1インチとしたと伝えられる[12]。1300年ごろにイングランド王エドワード1世は鉄製のアルナ(ulna、ラテン語で尺骨を意味し、ヤードに相当)原器を作り、その1⁄36をインチとしたが、それと同時にオオムギ3粒の長さをインチと定めている[13][14]。14世紀のエドワード2世は、オオムギの粒の長さをバーリーコーン (barleycorn) と呼び、その3倍を1インチと定義した[12][13]。
1588年にエリザベス1世が新しいヤードの標準 (Exchequer Standards) を定め[14]、この基準が19世紀に帝国単位が制定されるまで続いた。
十進インチ
19世紀、スウェーデンではメートル法への移行が行われた。まず、1855年から1863年までの間で、インチが、フィートの1⁄10である十進インチ(約0.03 m)に置き換えられた。十進法を導入することで計算が単純化されるとして導入されたが、他国で使用されていた1⁄12フィートのインチと1⁄10フィートのインチの2種類があることで余計に複雑になってしまったことから、1878年から1889年にかけてメートル法の単位が導入されることになった。
イギリスインチとアメリカインチ
イギリスとイギリス連邦諸国は、「帝国ヤード標準原器」の12分の1の長さ、約 25.3998 mm(いわゆる「イギリスインチ」)としていた。
アメリカ合衆国では1893年、メンデンホール指令 (Mendenhall Order) により、1インチ = 100⁄3937 m(いわゆる「アメリカインチ」)と定義された。したがって、1インチ = 約25.400050800102 mm であった。カナダもこれを採用した。
いくつかの国では、1959年以前に行われた測量の結果の互換性のために、1959年以降も、以前に測量のために使われていた各国ばらばらのフィートの定義を保持している。これを測量フィート (survey foot) という。たとえば、2022年12月末まではアメリカ合衆国測量フィート (U.S. survey foot) としてアメリカフィートが使われていた。ただし、このような制度はフィートのみに適用されるのであり、アメリカインチが合衆国内の測量に使われることはない。
- ^ ISO 31-1:1992(翻訳は、JIS Z 8202-1:2000 量及び単位−第1部:空間及び時間) 付属書A(参考)フート、ポンド及び秒を基本とする単位及びその他の単位 (なお、「これらの単位は、用いない方がよい。」との記述があることに注意)
- ^ 計量単位規則 別表第6 長さの欄
- ^ Style Manual, An official guide to the form and style of Federal Government publishing, 2016 9.58., p.237
- ^ 8.5 Weights and Measures The en:MHRA Style Guide Online, "Note that most such abbreviations do not take a full stop or plural s: but, to avoid ambiguity, use ‘in.’ for ‘inch(es)’." ,2020 en:Modern Humanities Research Association
- ^ Barbrow, Louis E. and Judson, Lewis V. (1976). Weights and measures standards of the United States: A brief history (NBS Special Publication 447). Washington D.C.: Superintendent of Documents. Appendix 5. The United States Yard and Pound, Refinement of Values for the Yard and the Pound, pp. 30–31.
- ^ 10分でわかるカタカナ語 第41回 インチ ことばのコラム、筆者:三省堂編修所、2006年4月12日
- ^ 2インチは何センチか? 暮らしの知恵、ウルトラフリーダム、「まず1インチ=約2.54cmという換算式が成り立つ」と記述している。
- ^ 1インチとは大麦3粒分(約2.54cm) 雑学ネタ帳、「アメリカで使用されている長さの単位。1インチ(吋)は約2.54cm。」とある。
- ^ アメリカ(米国)の長さ・重さの単位表記について 個人輸入・商業輸入ガイド、malltail
- ^ 【用語】 インチサイズ(いんちさいず) inch size テラル株式会社
- ^ 高田誠二、「単位の進化 原始単位から原子単位へ」pp.27-28、ISBN 978-4-06-159831-7、講談社学術文庫1831、講談社、2007-08-10発行(原本は講談社ブルーバックス、1970年)
- ^ a b “inch”, Encyclopaedia Britannica
- ^ a b 小泉袈裟勝『数と量のこぼれ話』日本規格協会、1993年、112-113頁。ISBN 4542301311。
- ^ a b Pat Naughtin (2009), Which inch?, Metrication matters
- ^ [1] Q:スポーツ用品(ゴルフクラブ、ボウリング、釣り用品等)、テレビ、フロッピーディスクについて長さや重さをインチやポンドによる表示を付して販売や譲渡等ができるか。(計量法第8条第1項関連) A:テレビ等で行われている○×型というような表示は、製品の種類、規格等を示すものであり、消費者もインチ表示として捉えるのではなく、テレビの種類、規格等を表すものとして理解した上で、製品の購入の際の判断をしているものと考えられる。したがって、○×型という方式で表示を行う場合、非法定計量単位を用いたことにはならない。
- ^ ヤクモ株式会社 単位のイロイロ(後編)
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