アラビカコーヒーノキ アラビカコーヒーノキの概要

アラビカコーヒーノキ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/09/13 08:07 UTC 版)

アラビカコーヒーノキ
保全状況評価
ENDANGERED
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
分類
: 植物界 Plantae[1]
: 被子植物門 Magnoliophyta[1]
: 双子葉植物綱 Magnoliopsida[1]
: アカネ目 Rubiales[1]
: アカネ科 Rubiaceae[1]
: コーヒーノキ属 Coffea[1]
: アラビカコーヒーノキ C. arabica[1]
学名
Coffea arabica L.

リンネの『植物の種』(1753年) で記載された種の一つである[8]

特徴

アラビカコーヒーノキは常緑低木であり[9]、野生のまま放置しておくと樹高10メートル程度まで成長することもあるが、コーヒー農園では果実を収穫しやすいように剪定される[10][11]。葉は10センチほどの間隔で対生し、光沢のある濃い緑色をしている[9]。葉の付け根にジャスミンのような香りがする5弁の白い花をつける[9][12]。果実は丸みを帯びたロブスタコーヒーノキの果実やひし形のリベリカコーヒーノキの果実に比べて形が扁平・楕円形で[5][13]、堅くて緑色が濃い[14]。熟していくにつれて緑色から赤、赤紫色になるのが一般的であるが、品種によっては熟すと黄色になるものもある[9][14][15]

野生種

アラビカコーヒーノキはエチオピア中部から西部の山岳地帯における標高1000メートルから2500メートルの雲霧林に自生する[16][6]。現在の栽培種は、大部分が17~18世紀にエチオピアで採取された少数の原木に祖先をもつと言われている[6]。現在では南スーダンボマ高原英語版ケニアマルサビット山英語版でも見られるが、これらがもともと野生のものであったのか人間が持ち込んだものなのかはわかっていない[17]。飲料として流通するコーヒーのうち大半は野生種ではなく栽培種であるが[6]、コーヒー農家はアラビカコーヒーノキの遺伝的多様性を維持するために野生種を利用することもある[6]気候変動の影響でこのままではこうした野生種の育成に適した環境の66パーセントが消失し、最悪の場合野生種が絶滅する可能性もあるとする研究結果もある[6][17]

栽培品種

アラビカコーヒーノキは原産地のエチオピアでの調査の結果、遺伝的にも形態的にも多様な集団であることが判明したため、一見すると別物でも植物学上の亜種や変種ではなく、「栽培品種」として扱われる[18]。近年は耐病性や生産性の向上などを目指した品種改良が進んでおり[5][19]、同じアラビカコーヒーノキ同士の交配品種やロブスタコーヒーノキとの交配品種も見られる[20][21]。主な品種を以下に示す。

概要
ティピカ(Tipica) 原種に最も近い品種であり、大半のアラビカ種のコーヒーはこのティピカに由来する[22]。長型の豆ですぐれた風味・酸味・コクが特徴であるがサビ病に弱く生産性は低い[14][22]。 コロンビアでは1967年までティピカ種100パーセントの栽培が広くおこなわれていたが、生産性の低さのために現在では流通している種の大半が突然変異種や改良種である[22][19][20]
ブルボン(Bourbon) ティピカの突然変異[14][23]。ティピカと合わせて現存する最古の品種と考えられている[23]イエメンからレユニオン島(ブルボン島)に移植されたものが起源とされ、後に中南米諸国に移植された[14][21][23]。豆は小粒で丸みがあり、香りやコクなどに優れているとされ、ティピカと比べると収穫量も20~30パーセントほど多いが、隔年収穫のため他の品種に生産性で劣る[23]
カトゥーラ(Catura) 1915年にブラジルのミナスジェライス州で発見されたブルボンの突然変異[14][19][21]。豆は小粒[19]。サビ病にも強く原種に近い風味で品質・生産性ともに高いが、コストがかかる[14][19][21]。酸味が豊かで渋みが強い[19]
ムンドノーボ(Mundo Novo) ブラジルで発見されたブルボンとスマトラ[注 1]の自然交配種[19][21]。"Mundo Novo"とは「新世界」の意[19]。1950年ごろからブラジルで栽培が始まった[19]。病害に強く環境への適応性が高いが、少し育成が遅い[14][19][21]。樹高が他品種より高くなるため、特に収穫が機械化されている場合には剪定を要する[19]。酸味と苦みのバランスが良い[14][19]
カトゥアイ(Catuai) カトゥーラとムンドノーボの交配種[14][19][21]。樹高は低く、環境適応性や生産性が高くて病害や霜にも強い[14][19][21]。しかし味はムンドノーボに劣る[14][19]
アマレロ(Amarello) "Amarello"は「黄色」の意[19]。アマレロの果実はその名の通り黄色になる[19][21]。生産性が高く樹高は低い[19]

注釈

  1. ^ スマトラ島で栽培されるティピカの亜種[21]

出典

  1. ^ a b c d e f g h Classification for Kingdom Plantae Down to Species Coffea arabica L.” (英語). アメリカ農務省. 2013年2月9日閲覧。
  2. ^ a b c なぜなぜまめ事典 ~コーヒーまめ知識~|お客様相談室”. アサヒ飲料. 2013年2月9日閲覧。
  3. ^ a b c d e f M.B.P. Camargo(2010), p.240.
  4. ^ a b 田口(2003)、8頁。
  5. ^ a b c 広瀬(2008)、63頁。
  6. ^ a b c d e f Amanda Fiegl (2012年11月8日). “The Last Drop? Climate Change May Raise Coffee Prices, Lower Quality”. National Geographic. 2013年4月27日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年2月9日閲覧。
  7. ^ コーヒーノキ”. 宮城県薬剤師会. 2013年4月23日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年2月9日閲覧。
  8. ^ Linnaeus, Carolus (1753) (ラテン語). Species Plantarum. Holmia[Stockholm]: Laurentius Salvius. p. 172. https://www.biodiversitylibrary.org/page/358191 
  9. ^ a b c d コーヒーノキ”. みんなの趣味の園芸. NHK出版. 2013年3月15日閲覧。
  10. ^ a b c 田口(2003)、13頁。
  11. ^ コーヒーの豆知識”. KEY COFFEE. 2013年5月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年3月15日閲覧。
  12. ^ a b c d e f 田口(2003)、12頁。
  13. ^ 田口(2003)、9頁。
  14. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p コーヒー豆の種類・基礎知識”. TONEGAWA COFFEE Premiun Beans Shop. 2013年4月25日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年2月9日閲覧。
  15. ^ 広瀬(2008)、65頁。
  16. ^ A・ルシアンン・ギュイヨー 著、徳田陽彦 訳『栽培植物の起源』八坂書房、1979年、115頁。ISBN 978-4896943016 
  17. ^ a b c d e f g Davis AP, Gole TW, Baena S, Moat J (2012年11月7日). “The Impact of Climate Change on Indigenous Arabica Coffee (Coffea arabica): Predicting Future Trends and Identifying Priorities” (英語). PLoS ONE 7 (11). doi:10.1371/journal.pone.0047981. http://www.plosone.org/article/info:doi/10.1371/journal.pone.0047981?imageURI=info:doi/10.1371/journal.pone.0047981.t001 2013年2月9日閲覧。. 
  18. ^ 『コーヒーの科学 「おしいさ」はどこで生まれるのか』講談社ブルーバックス、2016年。 
  19. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r 田口(2003)、20頁。
  20. ^ a b 田口(2003)、21頁。
  21. ^ a b c d e f g h i j 広瀬(2008)、64-65頁。
  22. ^ a b c 田口(2003)、18頁。
  23. ^ a b c d 田口(2003)、19頁。
  24. ^ a b c 田口(2003)、10頁。
  25. ^ a b c 田口(2003)、11頁。
  26. ^ a b 広瀬(2008)、41頁。
  27. ^ a b c d 株式会社ユニカフェ:コーヒー基礎知識 第2回 コーヒーの栽培 [2]”. 株式会社ユニカフェ. 2013年4月28日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年2月9日閲覧。
  28. ^ M.B.P. Camargo(2010), p.241.
  29. ^ a b Coffee production by exporting countries” (英語). The International Coffee Organization. 2020年2月11日閲覧。
  30. ^ アラビカコーヒー基本情報”. フジフューチャーズ. 2013年5月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年2月9日閲覧。
  31. ^ Exports of coffee by exporting countries” (英語). The International Coffee Organization. 2020年2月11日閲覧。
  32. ^ コーヒーの基礎知識”. 三本コーヒー株式会社. 2013年2月9日閲覧。
  33. ^ Jerry Baldwin (2009年3月14日). “Appreciating Coffee Like Wine” (英語). the Atlantic. 2013年2月9日閲覧。
  34. ^ 広瀬(2008)、18頁。


「アラビカコーヒーノキ」の続きの解説一覧



英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「アラビカコーヒーノキ」の関連用語

アラビカコーヒーノキのお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



アラビカコーヒーノキのページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのアラビカコーヒーノキ (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS