ま‐な‐ぶた【×瞼】
ま‐ぶた【×瞼/目蓋】
まぶた
(瞼 から転送)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2026/08/02 22:20 UTC 版)
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| まぶた | |
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閉じた目でまぶたとまつ毛が見える
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まぶたを後ろに引いた同じ目で、腺とまつ毛が複数の層で成長しているのが見える
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| ラテン語 |
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| 英語 | Eyelid |
| 器官 | 感覚器 |
| 動脈 | |
| 神経 | |
まぶた(英: eyelid)は、脊椎動物の魚類を除く多くの種に存在する、顔の皮膚から連続して眼球を上下から覆い保護する開閉式の器官である。医学・解剖学的には眼瞼(がんけん)と呼ばれる[1]。
上側のまぶたを上眼瞼(じょうがんけん、上まぶた)、下側を下眼瞼(かがんけん、下まぶた)と呼び、これらは眼球の乾燥を防ぐだけでなく、外傷や過度な光から眼球を物理的に保護する極めて重要な役割を担っている。
まぶたの内部には、その形状を維持するための瞼板(けんばん)と呼ばれる硬い結合組織のほか、まばたきをコントロールする眼輪筋(がんりんきん)や上瞼板筋などの筋肉、涙の蒸発を防ぐ油分を分泌するマイボーム腺(瞼板腺)が存在する。また、目頭側の縁には涙を排出するための最初のエントランスである涙点が開口しており、そこから伸びる涙小管、さらには副涙腺(クラウゼ腺・ウルフリング腺)など、目の湿潤環境(涙液分泌・排出システム)を維持するための多くの重要な付属器官がこの中に収まっている。
概要
まぶたは眼球を前方の外界から覆う構造体であり、上眼瞼(上まぶた)と下眼瞼(下まぶた)に分かれる。これらは鼻側の内眥(ないし:目頭)と、耳側の外眥(がいし:目尻)で連結している(⇒#部位)。表面は皮膚、裏面は結膜(眼瞼結膜)で覆われており、内部は瞼板(けんばん)と呼ばれる硬い結合組織を芯(骨格)として、筋肉や皮下組織を含んでいる(⇒#組織)。
「目蓋」という漢字表記からも分かるように、まぶたは蓋のように能動的な開閉が可能である。これにより、眼球を物理的な外傷や過度な光から保護するだけでなく、涙液を眼球表面に均一に行き渡らせて乾燥を防ぐといった、眼球のバリア機能を維持する上で極めて重要な役割を果たしている(⇒#役割)。また、まぶたの縁や内部には、マイボーム腺や副涙腺(クラウゼ腺・ウルフリング腺)などの分泌器官、涙の排出路の起点となる涙点や涙小管が位置しており、涙液循環システムの主要な舞台でもある。
部位
上瞼
下瞼
眼角
目頭
目頭の内部には
目尻
目尻の内部には
周囲の部位
組織
まぶたは、表面(外界側)から深層(眼球側)に向かって、主に以下の組織が層状(レイヤー構造)に重なり合って構成されている[13]:
- 皮膚(Skin)- 人体の中で最も薄い皮膚組織の一つである。顔の他の部分と同様に、微細な体毛(毳毛)が生えている。
- 皮下組織(Subcutaneous tissue)- 非常に疎な(ゆるい)結合組織であり、通常は脂肪組織をほとんど含まないため、むくみ(浮腫)が顕著に現れやすい特徴がある。
- 眼輪筋(Orbicularis oculi muscle)- まぶたを閉じる(閉瞼)役割を持つ環状の骨格筋。まぶたの領域にあるものは「眼瞼部」と呼ばれる[14])
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眼窩隔膜 (、英: orbital septum)- 眼窩の骨縁から伸びる薄い線維性の膜。眼窩内の脂肪(眼窩脂肪)が前方へ突出するのを防ぐバリアの役割を果たす。 -
瞼板 (、英: Tarsal plate / tarsus)- まぶたの輪郭を維持する、軟骨のように硬い緻密な結合組織(まぶたの芯)。内部には油分を分泌するマイボーム腺が埋没している。 - 結膜(Conjunctiva)- 最深層で眼球(白目)と接する粘膜組織。まぶたの裏側を覆う部分は「眼瞼結膜」と呼ばれる。
上下眼瞼の構造的相違
上瞼(上眼瞼)と下瞼(下眼瞼)は基本的に共通した層構造を持つが、まぶたを能動的に大きく引き上げる(開眼する)ための筋肉組織において明確な違いがある。上眼瞼には、特有の以下の筋肉が存在する。
機能(役割)
眼球の保持と保護
通常、目を開いているときも上下のまぶたの間隔(眼裂:がんれつ)は眼球の直径よりも狭く保たれており、向きが激しく動く眼球を眼窩(がんか)内に安全に保持している。
人為的に品種改良された短頭種の小型犬(パグやチワワなど)は、眼窩が浅いため、頭部への衝撃等で眼球がまぶたの外側へ飛び出してしまう「眼球突出」を起こしやすい。
人間の場合、まぶたを眼球の直径よりも大きく開き、眼球の半分以上を露出させることを「目玉飛び出し芸」などの特異体質(一発芸)として行う者も存在する。
開閉とまばたき(瞬目)
上下のまぶたのうち、主に一方が大きく動くことで開閉や幅の調節が行われる。哺乳類では主として上まぶた(上眼瞼)が能動的に動くことで開閉する。日常の表現として、上下のまぶたを離すことを「目を開ける」、上下のまぶたを密着させて閉じることを「目を瞑る(つぶる・つむる)」、まぶたの間隔を極端に狭くすることを「目を細める」と呼ぶ。また、目を開けている状態から、まぶたを一瞬だけ閉じてすぐに再び開く運動を瞬き(まばたき、瞬目:しゅんもく)という。
制御メカニズムと涙液ポンプ
まぶたの開閉は、自分の意思で行う「随意運動」だけでなく、無意識(不随意)の制御によっても行われる。
役割
まぶたは単に眼球を覆うだけの組織ではなく、視覚機能の補助、眼球の健康維持、そして他者とのコミュニケーションにおいて、以下のような多角的な役割を果たしている。
- 眼球の保護と湿潤環境の維持
- まぶたを閉じることにより、外界の物理的な危険や刺激から眼球を保護する[1]。
- 物体が目に近づいたり、強い刺激を受けたりした際には、反射的(または自己の意思)にまぶたを閉じ、眼球を瞬時に覆う。
- 睡眠中は通常、まぶたは完全に閉じられる。ただし、生理的あるいは解剖学的な個体差(眼輪筋の緊張度や眼瞼のサイズなど)により、完全に閉じきらずに就寝する「兔眼(とがん)」と呼ばれる状態になる人もおり、俗に「薄目を開けて寝ている」と表現される。
- 陸上生活を行う生物において、まばたきは眼球表面(角膜・結膜)に常に新しい涙液を供給し、乾燥を防ぐ役割を持つ。同時に、自動車のワイパーのように眼球表面の塵(ちり)や埃(ほこり)を内眥(目頭)側へと洗い流すクレンジング効果もある。まぶたの機能不全などによって眼球が乾燥するドライアイになると、角膜に微小な傷がつきやすくなり、視力低下や痛みの原因となる。
- 光量の調節と焦点(ピント)の補助
- 瞳孔(虹彩)の働きを補助し、網膜に入る光の量を物理的に調節する。
- 非常に明るい環境で瞳孔を最大限に収縮(縮瞳)しても眩しさを感じる場合や、急激な光源の変化に対して瞳孔の反応が追いつかない場合、生物は目を細めて光の進入量を制限する(防眩効果)。
- カメラの絞りを絞る(開口部を小さくする)と被写界深度が深くなりピントが合いやすくなるのと同様に、人間も目を細めることで光の束を制限し、一時的にピントを合わせやすくする性質がある。そのため、屈折異常(近視や乱視など)で視力が悪い人は、対象をよく見ようとする際に無意識に目を細めることが多い(ピンホール効果)。
- 粗いデジタル画像(モザイク処理など)に対して目を細めて見ると、元の画像イメージが浮かび上がって見える現象がある(しばしば都市伝説的に語られる)。これは、目を細めることで画像に含まれる高周波成分(モザイクの四角いエッジや輪郭など)のノイズが光学的にカットされ、低周波成分(大まかな色の配置やシルエット)が強調されて脳に認識されやすくなるという、視覚特性(空間周波数特性)に基づいた実際の物理現象である。
- コミュニケーションの手段
- 顔の表情を作り出す重要な要素であり、生物間および人間社会における強力なコミュニケーションツールとして機能する。
- 多くの哺乳類において、まぶたの開閉は感情(驚き、恐怖、怒りなど)や表情の一部を構成する。動物の威嚇行動では通常、目を大きく見開いて相手を圧倒するが、人間の場合は逆に目をやや細めて凝視することを「睨む(にらむ)」「目を付ける」と呼び、敵意や不満を表現する手段となる。
- 片方のまぶただけを素早く閉じる「ウィンク(目配せ)」のように、特定の意図や親愛の情を伝える簡単な合図として用いられる。
- 運動神経の障害(ALSや脳卒中の後遺症など)により、発話や手足の自由が奪われた重度身体障害者(ロックドイン症候群など)において、随意的にコントロールが維持されやすい「まぶたの開閉(まばたき)」は、意思伝達装置やYES/NOのサインを通じた極めて重要なコミュニケーションの手段となる。
- 視覚情報の遮断
- 五感の中で最も情報量が多いとされる視覚情報を、意図的に遮断するためにまぶたを閉じることがある。
- 恐怖、嫌悪、不快感を与える対象を視界から排除し、精神的なストレスを和らげるために目を背けたり閉じたりする。
- 深く思考に没頭する際や、聴覚・触覚など他の感覚に意識を集中させたい時に、視覚ノイズをカットする目的で目を閉じる行動が見られる。
哺乳類のまぶた(種差と特徴)
多くの哺乳類では、まぶたの縁にまつ毛(睫毛:しょうもう)が生えており、主に上まぶた(上眼瞼)が能動的に動くことで開閉を行う。まつ毛は、眼球に近づく塵埃や異物を感知するセンサーの役割を果たしており、まつ毛に何かが触れると、角膜反射(瞬目反射)によって不随意にまぶたが閉じ、眼球を保護する。
ヒトのまぶた
人種・集団における解剖学的特徴
ヒトのまぶたの形状には、地域的な集団(人種)によって顕著な解剖学的多様性が見られる。
- 東アジア系集団(いわゆるモンゴロイド)
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東洋人の瞼 - 日本人を含む東アジアの集団では、目頭(内眥)が蒙古ひだ(内眥贅皮:ないしぜいひ)と呼ばれる皮膚のひだで覆われている個体が多く、これにより眼裂(目の開口部)がやや小さく見える傾向がある。これは、氷河期などの過酷な寒冷環境に適応する過程で、眼球や涙道を凍結から守るために脂肪層が厚くなり、ひだが発達したとする「寒冷適応説」が唱えられている。特に「一重まぶた」は、この集団において非常に高い頻度で見られる特徴である。
- ヨーロッパ系集団(いわゆるコーカソイド)
- 欧米などの文化圏では、目頭と目尻の両端が細くなった切れ長で美しい目の形を「アーモンド・アイ(Almond eyes)」と呼び、審美的な評価の対象とすることがある。東アジア系の集団は解剖学的にこの特徴を元来備えているが、欧米の文脈におけるアーモンド・アイは二重まぶたを前提とすることが多いため、日本を含むアジア圏の「切れ長」という概念とはニュアンスが異なる場合がある。なお、一部の東アジア系に見られる「つり目(目尻が上がった形状)」は、欧米などの大衆文化において東洋人を描写する際の特徴として扱われる一方、時として民族的な揶揄(差別的表現)の対象となることがある。
- アフリカ系集団(いわゆるネグロイド)
- 熱帯地域などの温暖な環境にルーツを持つ集団では、蒙古ひだを持たない個体が大半であり、眼裂が上下左右に大きく開いた、いわゆる「ぱっちりとした目」の形状を示す者が多い。
上瞼の横ひだ(一重・二重・奥二重)
上まぶたの縁(まつ毛の付け根)の上方に皮膚の溝(重瞼線:じゅうけんせん)があり、目を開けた時にその溝で皮膚が折り畳まれる構造を二重まぶた(重瞼:じゅうけん)と呼ぶ。一方、この溝がない、あるいは極めて浅いまぶたを一重まぶた(単瞼:たんけん)と呼ぶ。二重まぶたでありながら、まつ毛と溝の間の幅が狭い、あるいは上部の皮膚が被さることで溝が隠れて見えにくい状態は、俗に奥二重(おくぶたえ)と呼ばれる。二重まぶたか一重まぶたかという形質は、かつては「二重が優性、一重が劣性」とする単一遺伝子(メンデルの法則)による遺伝説が広く定着していた。しかし、近年のゲノム広域関連解析(GWAS)などの研究により、実際には複数の遺伝子が複雑に関与して決定される多因子遺伝(ポリジェニック形質)であることが明らかとなり、従来の単純な優劣法則説は否定されている[16][17]。
一重まぶたは、寒冷地へと移動した集団において、二重の溝(挙筋腱膜の付着部)が尾側(下側)へ移動、あるいは消失して生じたと考えられている。これは、二重の溝に溜まった水分が寒冷地で凍結し、まぶたの開閉機能が損なわれるのを防ぐための環境適応であったとする説がある。完全に下まで移動したものが一重となり、わずかに上方に残ったものが奥二重とされる[要出典] 。
まぶたの状態は固定されたものではなく、体調やむくみ、疲労などによって一時的に三重以上になったり、一重と二重の間で変化したりすることがある。また、加齢によってまぶたの皮膚がたるむことで、後天的に自然と一重から二重へと変化することも珍しくなく、統計的には高齢になるほど一重まぶたの比率は減少する。左右のまぶたで形状が異なる(片目だけ一重など)人も多く存在する。
容姿への影響と文化的側面
まぶたの形状は顔の第一印象を大きく左右する。ヒトは他者を視認・識別する際、目元(まぶた)の形状に強く注目する視覚特性を持っている。そのため、古今東西の文化において審美的に重要な部位と位置づけられており、アイシャドウやマスカラなどのアイメイクが盛んに行われてきた。また、まぶたや目元は個人の識別のための重要な鍵であるため、サングラスなどでこの領域を隠すと、個人の容貌を判別することが著しく困難になる。
- 美容整形と医療
現代の美容文化において、二重まぶたは目を大きく見せる効果があるため好まれる傾向にあり、専用の化粧品(アイプチやメザイクなど)を用いて擬似的に二重を形成したり、美容外科手術(重瞼術)を希望したりする者が多い。ただし、上述の通り加齢に伴う皮膚の緩みによって自然に二重へと変化することもあるため、後天的に二重になった者がすべて人為的な処置を行っているとは限らない。また、二重であってもまぶたの開き自体が不十分な場合(蒙古ひだが強い場合など)は、内眥を切開して目を横方向に広げる「目頭切開手術」が重瞼術と併せて行われることがある[18]。
近年では、若年層から高齢層にいたるまで、まぶたが十分に上がらなくなる眼瞼下垂症(がんけんかすいしょう)の治療として、機能回復のための手術を行うケースが増加している[19]。
視野障害などの実質的な症状を伴う眼瞼下垂症の手術は、医療保険の適用対象となるため、純粋な審美目的の美容整形よりも費用を抑えて治療を受けることができる。ただし、保険診療としての手術はあくまで「正常な開瞼機能の回復(機能再建)」を目的とするため、患者個人の希望に応じて二重の幅を極端に広くしたり、末広型の形状を無理に平行型にしたりするような、容姿の著しい変化を目的としたカスタマイズは原則として認められない。
日本国内においては、主に糸を皮膚の裏側に埋め込んで固定する「埋没法(まいぼつほう)」と、皮膚を切開して挙筋腱膜や瞼板を処置する「切開法(または眼瞼下垂手術)」の2種類が主流の術式として確立されている。
美容目的の二重瞼手術(重瞼術)は、1896年(明治29年)に日本の眼科医である美甘光太郎(みかも こうたろう)によって世界で初めて発表された。さかさまつげ(眼瞼内反症)の治療法として、ドイツ系米国人のホッツ(Hotz)医師が1892年に発表した術式を参考に、美甘の恩師であり「日本近代眼科の父」と称される河本重次郎が切開式の内反症手術法を考案。この治療を行っていた美甘が美容への応用に気づき、皮膚を切開しない画期的な術式(現代の埋没法の原型)を考案して、その実践例を眼科専門誌に発表した。その後、1926年(大正15年)には眼科医の内田孝蔵が「重瞼術」としての手技をさらに洗練させ、ラジオや雑誌などのメディアを通じて広く社会に紹介し、近現代における美容整形外科の基盤を作った[20][21][20][21][22]。
その他の生理的特徴
加齢や疾患によってまぶたを持ち上げる筋肉(上眼瞼挙筋など)が衰えると、まぶたの伸縮力だけで目を開けることが困難になる。このとき、ヒトは前頭筋(おでこの筋肉)を過剰に緊張させて眉毛ごとまぶたを引き上げようとするため、結果として額に深い横皺(よこじわ)が形成される原因となる。
片目を完全に開けたまま、もう片方のまぶただけを意図的に閉じる行為を「ウインク」と呼ぶ。この運動は左右の眼輪筋を独立して高度に制御する必要があるため、神経回路の発達途上にある幼児には極めて難しい。そのため、ウインクができるかどうかは、幼児期における脳や運動神経の発育・分化の指標(発達の目安)の一つとして医学的・発育学的に扱われることがある。
まぶたの疾患(眼瞼疾患)
まぶた(眼瞼)の疾患は、構造や運動機能を司る筋肉・神経の異常によるものと、細菌感染や分泌腺の閉塞による炎症性のものに大きく分類される。
眼瞼下垂(がんけんかすい)
上まぶた(上眼瞼)が十分に上がらなくなり、眼裂(目の開口部)が狭くなった状態。
- 原因 : 加齢やコンタクトレンズの長期使用などにより、まぶたを持ち上げる筋肉(上眼瞼挙筋)や腱膜(挙筋腱膜)が緩む「腱膜性眼瞼下垂」が最も多くを占める。そのほか、動眼神経麻痺や重症筋無力症などの神経・筋肉の疾患によるもの、生まれつき筋肉の発達が不十分な先天性のものがある。
- 症状 : 視野の上方が遮られるため、物が見えにくくなる。これを代償しようとして無意識に額の筋肉(前頭筋)を使ってまぶたを持ち上げるため、額に深い横皺ができたり、頑固な眼精疲労、頭痛、肩こりの原因となったりする。
- 治療 : 主に手術(挙筋腱膜前転術など)によって、緩んだ腱膜を瞼板に固定し直す治療が行われる。視野障害などの機能障害を伴う場合は医療保険が適用される。
眼瞼痙攣(がんけんけいれん)
自分の意思とは関係なく、まぶたの周囲の筋肉(眼輪筋)が過剰に収縮し、目をうまく開けられなくなる不随意運動疾患。
- 原因 : まぶた自体の異常ではなく、脳内(大脳基底核など)の運動制御システムの機能障害と考えられているが、正確な原因はまだ完全には解明されていない。中高年の女性に比較的多く見られる。
- 症状 : 初期には「目が眩しい」「目が乾く(ドライアイに類似)」「まばたきが増える」といった不快感から始まり、進行するとまぶたが強制的に閉じてしまい、視力は正常であるにもかかわらず、目を開けていられなくなる(実質的な盲目状態)。
- 治療 : 神経の働きを一時的に抑えるボツリヌス療法(ボトックス注射)を眼輪筋周辺に施す治療が第一選択として広く行われている。また、症状を悪化させる一因となる薬剤の中止や、遮光眼鏡(遮光レンズ)の着用なども有効とされる。
麦粒腫(ばくりゅうしゅ)
まぶたにある分泌腺に細菌が感染して起こる、急性の化膿性炎症。俗に「ものもらい」(主に関東地方)、「めばちこ」(主に関西地方)など地域によって様々な俗称で呼ばれる。
- 原因 : 主に皮膚や粘膜に常在している黄色ブドウ球菌などの細菌が、まつ毛の根元にある皮脂腺(ツァイス腺)や汗腺(モル腺)、または瞼板内にあるマイボーム腺に感染することで発症する。
- 症状 : まぶたの一部が赤く腫れ、局所的な痛みや圧痛(押すと痛む)を伴う。進行すると腫れた部分が化膿し、皮膚から自然に排膿(膿が出る)することがある。排膿されると症状は急速に軽快する。
- 治療 : 主に抗菌薬(抗生物質)の点眼薬や眼軟膏が用いられ、症状が強い場合は抗菌薬の内服(飲み薬)を併用する。化膿が進み、膿が溜まって痛みが激しい場合には、眼科で微小な切開(切開排膿)を行って膿を排出させる処置がとられる。
(※関連疾患として、マイボーム腺が詰まって肉芽腫を形成する無菌性の炎症「霰粒腫(さんりゅうしゅ)」があり、麦粒腫と混同されやすい。)
瞬膜(第三眼瞼)
瞬膜(しゅんまく、nictitating membrane)とは、脊椎動物の多くの種に存在する、眼球を水平方向などから覆うことができる半透明または透明の可動式の膜である。解剖学的には第三眼瞼(だいさんがんけん)とも呼ばれる。
通常のまぶた(上下眼瞼)との違い
通常のまぶたが顔の皮膚と連続して常に外部に露出しているのに対し、瞬膜は眼窩の内(目頭側など)に格納されており、必要に応じて目の中から水平に滑り出すようにして眼球を覆う。そのため、まぶたと瞬膜の両方を持つ種では、瞬膜はまぶたと眼球の間に位置する。
通常のまぶたが上下(垂直方向)に開閉することが多いのに対し、瞬膜は左右(水平方向)や斜め方向に運動する種が大半を占める。
生物種における多様性と発達度
脊椎動物におけるまぶたや瞬膜の有無・発達の度合いは、その生物の生息環境(空中、陸上、水中など)に応じて多様に進化している。
鳥類、爬虫類、無尾両生類(カエルなど)、および魚類の一部(メジロザメ類など)では瞬膜が非常に発達している。半透明の性質を活かし、「視界を完全に遮ることなく、眼球の湿潤を保ち、ゴミや水流から目を保護する」というゴーグルのような役割を果たす。たとえば、猛禽類が高速で飛行する際や、カエルが水中に飛び込む瞬間に眼球を保護するために閉じられる。
生物種によっては、通常のまぶたと瞬膜の両方を備え、眼球を二重に覆って保護できる種(鳥類など)もあれば、多くの魚類のようにまぶたも瞬膜も持たない種、あるいはまぶたを持たず瞬膜だけを持つ種も存在する。
哺乳類における退化とヒトの「半月ひだ」
哺乳類においては、多くの種で瞬膜が退化して小さくなっている。ただし、ネコや犬、アシカなどの一部の哺乳類には比較的大きな瞬膜(第三眼瞼)が残っており、体調不良時や睡眠時に目頭から白い膜として露出することがある。
人間(ヒト)や霊長類の多くは、進化の過程で瞬膜の機能を完全に失っている。しかし、人間の目頭(内眥)の角にあるピンク色の小さな肉層の隣に存在する、三日月形の小さな皮膚のひだ(半月ひだ、Plica semilunaris)は、かつて祖先が持っていた瞬膜が退化した名残(痕跡器官)であることが知られている。
脚注
出典
- 1 2 3 4 "眼瞼 上眼瞼 upper eyelid と 下眼瞼 lower eyelid が眼球の前方で開閉し,眼球を保護している。" Drake 2011, p. 879 より引用。
- 1 2 "上下眼瞼の鼻側 (内眼角と言われる)" p.121 より引用。庄司. (2017). 緑内障の診断と治療. 北里医学, 47: 109-134.
- 1 2 "内眼角部(目頭)" p.33 より引用。長井. (2021). 点眼薬の製剤設計と薬物挙動. 日本白内障学会誌, 33巻, 1号, pp. 32-36.
- 1 2 3 4 "内側眼瞼交連と外側眼瞼交連には靱帯が存在している" p.9 より引用。竹花. (2003). イヌの眼窩とその周辺の解剖学. 比較眼科研究, 22巻 1-2号 pp.5-9.
- ↑ "眼輪筋 ... 眼瞼部 ... の筋組織は,内眼角から起こり" Drake 2011, p. 859 より引用。
- ↑ "眼輪筋の眼瞼部は薄い筋で,眼瞼の内側で内側眼瞼靭帯 medial palpebral ligament によって固定されている" Drake 2011, p. 880 より引用。
- 1 2 "眼輪筋 ... 眼瞼部 ... の筋組織は,外眼角のところで上下の筋組織が合流する。" Drake 2011, p. 859 より引用。
- ↑ "眼輪筋眼瞼部は,外側の外側眼瞼靭帯 lateral palpebral ligament の部分で,下眼瞼の筋繊維と一緒になる。" Drake 2011, p. 880 より引用。
- ↑ "瞼板は,緻密結合組織からなり,... 外側では外側眼瞼靭帯を介して頬骨の眼窩結節に付着している。" Drake 2011, p. 880 より引用。
- 1 2 “日本人上眼瞼の組織所見(臨床眼科 58(13):2331-2339,2004)”. 井出眼科病院. 2026年6月8日閲覧。
- ↑ 五十嵐 敏夫・広瀬 統・八代 洋一・中田 悟. “目袋と瞼頬溝の三次元曲率を用いた目もとの印象評価法”. CiNii Research. 2026年6月8日閲覧。
- ↑ RauberKopsch解剖学II. 眼球付属器 Organa oculi accessoria 1. 眼瞼Palpebraeと結膜Tunica conjunctiva
- ↑ "眼瞼の各層は,表層から深部へ順に,皮膚,皮下組織,骨格筋,眼窩隔膜,瞼板,結膜である" Drake 2011, p. 879 より引用。
- ↑ "皮下組織の深層には,眼輪筋 ... の眼瞼部 ... がある ... 眼輪筋は ... 眼瞼を閉じる筋である。" Drake 2011, p. 879 より引用。
- ↑ "上下の眼瞼は,基本的な構造が共通しているが,上眼瞼にのみつく筋が2つある点で異なっている。" Drake 2011, p. 879 より引用。
- ↑ Wang, Peiqi, et al (2022). “Novel genetic associations with five aesthetic facial traits: A genome-wide association study in the Chinese population”. Frontiers in Genetics 13.
- ↑ 新川詔夫; 太田亨; 吉浦孝一郎; デョミトロ スタレンキ『正常多様性形質の分子遺伝学的研究』(PDF)(レポート)科学研究費助成事業(基盤研究B)、2013年6月19日。
- ↑ “二重整形”. Beauty media (2022年11月23日). 2022年11月25日閲覧。
- ↑ “二重整形おすすめクリニック11選!埋没法と切開法の違いや選び方を解説!ダウンタイムやバレない方法は?”. Beauty media (2022年11月23日). 2022年11月25日閲覧。
- 1 2 眼瞼成形小技 中外医事新報. (396) (日本医史学会, 1896-09)
- 1 2 二重手術の起源は米国シカゴにあった 第3部白壁征夫、サフォクリニック、2019-06-04
- ↑ 二重瞼にする整形『整形のいろいろ』内田出版部、1931年初版
参考文献
- Drake, Richard (2011). グレイ解剖学 (原著第2版 ed.). エルゼビア・ジャパン. ISBN 978-4860347734
関連項目
瞼
「瞼」の例文・使い方・用例・文例
- わたしの眼瞼炎の原因はアレルギーかもしれない。
- 開瞼器
- 私は今、とても瞼が重い。
- 瞼を閉じるたびに君の笑顔が浮かんで消えない。
- 瞼が大きく開く。
- 彼は眠くて瞼が重かった。
- あの流行歌手は二重瞼の手術をした.
- 二重瞼
- 眼瞼をひっくりかえす
- 目瞼{まぶた}を裏返す
- ふっくらとした瞼をした目
- 全身に暗い帯があり、瞼を動かせる点で通常のヤモリとは異なる、数種のヤモリ
- 瞼をめくる
- 長い肢と尾、白い上瞼を持つ樹上性の敏捷な大型ザル
- エジプトやアラビアの女性が用いる化粧の下地で瞼の端を黒くするもの
- もう彼の瞼は開いていない
- 瞼の後部表面を裏張りする結膜の一部
- 瞼板腺の細菌感染は物貰いを起こす
- 目の動脈から始まり、涙腺に直腸目の筋肉、上眼瞼、額に供給する動脈
- 眼瞼の静脈
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