PID制御

この図中ではt:時間、u:操作量、r:目標値、y:出力値、e:偏差

PID制御(ピーアイディーせいぎょ、Proportional-Integral-Derivative Controller、PID Controller)は、制御工学におけるフィードバック制御の一種である。出力値と目標値との偏差、その積分、および微分の3つの要素によって、入力値の制御を行う方法である[1]。古典制御論の枠組みで体系化されたもので長い歴史を持っており、これを基に様々なフィードバック制御手法が開発・提案され続けている。過去の実績や技術者の経験則の蓄積により調整を行いやすいため、産業界では主力の制御手法であると言われている。
P制御
基本的なフィードバック制御として比例制御(P制御)がある[2]。これは操作量を制御量と目標値の偏差の一次関数として制御するものである。
ここで、ある制御対象の制御する量を制御量、出力などと呼び[3]、制御量に追従させたい希望の値を目標値[4]と呼び、目標値を得るため制御対象を操作する量あるいは制御対象に入力する量を操作量、入力などと呼ぶ[3]。なお、ある時刻tでの操作量をu(t)、出力値をy(t)、目標値をr(t)とする。このとき、目標値と現状の制御量との差を、制御偏差、偏差などと呼びe(t)で表し[5][6]、r(t) - y(t)である[5]。ここでラプラス変換にもとづく伝達関数で上記の式を表現すると、
PID制御の着想の基となったとされる船の操舵手 制御技術と理論の起源は、蒸気機関の調速機から始まった[24]。PID制御は、その後、特に船の自動操舵の開発の中で発達していった。1911年、エルマー・アンブローズ・スペリー(en:Elmer Ambrose Sperry)が、PID制御器の構成を成した船の自動操舵機構を開発した[25]。1922年には、ニコラス・マイノースキー(Nicolas Minorsky)が船の自動操舵に関して数式化された制御理論の発表を行い[26]、これがPID制御の最初の着想とされている[14][24]。
その後1936年、テイラー社(Taylor Instruments)のカレンダー(Callender)らにより、空気式PID調整器の原型が製作された[27]。しかしPIDパラメータの調整の仕方が不明であったため、この調整器の売れ行きは不調に終わった[27]。これを受けて、1942年に同テイラー社のジョン・ジーグラ(John G. Ziegler)とナサニエル・ニコルス(Nathaniel B. Nichols)らにより、実用的なPIDパラメータの調整則が考案された[27]。さらに、この調整則は同テイラー社のジェラルディン・クーン(Geraldine Coon)により広められ、良く知られるようになった[28]。
脚注
- ^ 森泰親 2001, p. 177.
- ^ 佐藤ほか 2014, p. 113.
- ^ a b 佐藤ほか 2014, p. 8.
- ^ 佐藤ほか 2014, p. 96.
- ^ a b c d 岡田昌史『システム制御の基礎と応用―メカトロニクス系制御のために』、数理工学社、2008年1月、ISBN 978-4901683524。
- ^ a b c 豊橋技術科学大学・高等専門学校 制御工学教育連携プロジェクト 編著『専門基礎ライブラリー 制御工学 ―技術者のための、理論・設計から実装まで―』、2012年3月、ISBN 978-4-407-32575-1。
- ^ a b c d 佐藤ほか 2014, p. 114.
- ^ a b 森泰親 2001, p. 178.
- ^ 須田信英 1995, p. 770.
- ^ a b 佐藤ほか 2014, p. 115.
- ^ 山本・加藤 1997, p. 64.
- ^ a b c 佐藤ほか 2014, p. 118.
- ^ 佐藤ほか 2014, p. 179.
- ^ a b 須田信英 1995, p. 769.
- ^ 佐藤ほか 2014, p. 120.
- ^ J. G. Ziegler; N. B. Nichols (1942). “Optimum Settings for Automatic Controllers”. Trans. ASME 64: 759-768.
- ^ a b c 近藤正示 2004, p. 32-33.
- ^ Finn Haugen (2010). “Comparing PI Tuning Methods in a Real Benchmark Temperature Control System”. Modeling, Identification and Control (Norwegian Society of Automatic Control) 31 (3): 81 .
- ^ a b c 森泰親 2001, p. 180.
- ^ 須田信英 2004, p. 41.
- ^ a b 須田信英 2004, p. 42.
- ^ a b c 山本・加藤 1997, p. 89.
- ^ 須田信英 2004, p. 40.
- ^ a b 広井和男 2004, p. 2.
- ^ Bennett 1996, p. 18.
- ^ Bennett 1996, p. 19.
- ^ a b c 広井和男 2004, p. 3.
- ^ Bennett 1996, p. 20.
参考文献
- 近藤正示 (2004年4月16日). “制御の勘所” (PDF). 長岡技術科学大学 電力制御研究室. 2015年2月12日閲覧。
- 佐藤和也・平元和彦・平田研二『はじめての制御工学』(初版)講談社、2014年2月10日。ISBN 978-4-06-155791-8 。
- 須田信英「PID制御」『日本ファジィ学会誌』第7巻第4号、日本ファジィ学会、1995年、768-771頁、doi:10.3156/jfuzzy.7.4_768。
- 須田信英「第2回 PID制御:PIDの基本,チューニング則,PIDベースの高度制御」(PDF)『EICA』第8巻第4号、環境システム計測制御学会、2004年、39-45頁。
- 広井和男 (2004年). “PID制御のお話 第2回 PID制御の過去、現在そして将来” (PDF). エムエスツデー 2004年3月号. エム・システム技研. pp. 2-3. 2014年6月23日閲覧。
- 森泰親『制御工学』(初版)コロナ社、2001年12月20日。ISBN 978-4-339-00143-3 。
- 山本重彦・加藤尚武『PID制御の基礎と応用』(初版)朝倉書店、1997年4月1日。ISBN 4-254-23091-5。/第2版、2005年、ISBN 978-4-254-23110-6。
- Stuart Bennett (June 1996). “A Brief History of Automatic Control” (PDF). IEEE Control Systems Magazine (IEEE Control Systems Society) 16 (3): 17-25 .
- 志水清孝:「PID制御 現代制御論の視点から」、オーム社、ISBN 978-4-274-22630-4(2020年11月)。
関連項目
外部リンク
- “ロボットや機械を制御する PID Controller を数式を使わずに概観”. PID制御をわかりやすく解説したページ. 森正弥. 2020年11月3日閲覧。
- “やさしい自動制御のお話 第四章 PID制御について”. Compo Club. アズビル株式会社. 2015年2月12日閲覧。
- “PID制御ってなに?”. 技術解説ホームページ. 理化工業株式会社. 2015年2月12日閲覧。
- “PID制御の設計と実装”. PID制御を体系的にわかりやすく解説したページ. MathWorks. 2016年3月1日閲覧。
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- 松井義弘「PID制御による2慣性系の速度制御」『電気学会論文誌. D, 産業応用部門誌』第116巻第4号、電気学会、1996年、441-447頁、doi:10.1541/ieejias.116.441。
- 山本透, 大松繁, 石原弘一「セルフチューニングPID制御系の一設計」『計測自動制御学会論文集』第25巻第10号、計測自動制御学会、1989年、1069-1075頁、doi:10.9746/sicetr1965.25.1069。
- 小河守正「プロセス制御におけるPID制御 : 基礎と応用(第1回)プロセス制御概論」『化学工学』第84巻第4号、化学工学会、2020年4月、199-201頁、ISSN 0375-9253、NAID 40022224602。
- 萬田康博「アドバンストPID制御のIoT制御ソリューションへの適用に向けた考察 (制御 産業計測制御合同研究会 IoT制御ソリューションにおける機能分散)」『電気学会研究会資料. CT』第2020巻第41号、電気学会、2020年2月、1-3頁、NAID 40022178256。
- 永坂茂之, 綾目久雄, 廣島雅則 ほか「41672 学習機能による自動設定可能なPID制御を用いた空調システムに関する研究開発 第1報 研究開発方針とシミュレーション事例」『環境工学II』第2019号、日本建築学会、2019年7月、1395-1396頁、NAID 200000443258。
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