電子間反発を無視する
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/09 04:29 UTC 版)
「ヘリウム原子」の記事における「電子間反発を無視する」の解説
電子-電子反発項を無視すると、2電子波動関数の空間部分に対するシュレディンガー方程式は「0次」の方程式に帰着する。 H 0 ψ ( 0 ) ( r → 1 , r → 2 ) = E ( 0 ) ψ ( 0 ) ( r → 1 , r → 2 ) {\displaystyle H_{0}\psi ^{(0)}({\vec {r}}_{1},{\vec {r}}_{2})=E^{(0)}\psi ^{(0)}({\vec {r}}_{1},{\vec {r}}_{2})} この方程式は変数分離可能であり、固有関数は水素様波動関数の単一の積の形で書くことができる。 ψ ( 0 ) ( r → 1 , r → 2 ) = ψ n 1 , l 1 , m 1 ( r → 1 ) ψ n 2 , l 2 , m 2 ( r → 2 ) {\displaystyle \psi ^{(0)}({\vec {r}}_{1},{\vec {r}}_{2})=\psi _{n_{1},l_{1},m_{1}}({\vec {r}}_{1})\psi _{n_{2},l_{2},m_{2}}({\vec {r}}_{2})} 対応するエネルギーは(原子単位系、以後a.u. 、で) E n 1 , n 2 ( 0 ) = E n 1 + E n 2 = − Z 2 2 [ 1 n 1 2 + 1 n 2 2 ] {\displaystyle E_{n_{1},n_{2}}^{(0)}=E_{n_{1}}+E_{n_{2}}=-{\frac {Z^{2}}{2}}{\Bigg [}{\frac {1}{n_{1}^{2}}}+{\frac {1}{n_{2}^{2}}}{\Bigg ]}} である。 波動関数は ψ ( 0 ) ( r → 2 , r → 1 ) = ψ n 2 , l 2 , m 2 ( r → 1 ) ψ n 1 , l 1 , m 1 ( r → 2 ) {\displaystyle \psi ^{(0)}({\vec {r}}_{2},{\vec {r}}_{1})=\psi _{n_{2},l_{2},m_{2}}({\vec {r}}_{1})\psi _{n_{1},l_{1},m_{1}}({\vec {r}}_{2})} であることに留意しなければならない。 電子のラベルの交換は同じエネルギー E n 1 , n 2 ( 0 ) {\displaystyle E_{n_{1},n_{2}}^{(0)}} に対応する。電子のラベルの交換に関するこの特殊な場合の縮退は交換縮退と呼ばれる。2電子原子の厳密な空間波動関数は2つの電子の座標 r → 1 {\displaystyle {\vec {r}}_{1}} および r → 2 {\displaystyle {\vec {r}}_{2}} の交換に関して対称または反対称のいずれかでなければならない。その結果、適切な波動関数は対称(+)および反対称(−)線形結合から構成されなければならない。 ψ ± ( 0 ) ( r → 1 , r → 2 ) = 1 2 [ ψ n 1 , l 1 , m 1 ( r → 1 ) ψ n 2 , l 2 , m 2 ( r → 2 ) ± ψ n 2 , l 2 , m 2 ( r → 1 ) ψ n 1 , l 1 , m 1 ( r → 2 ) ] {\displaystyle \psi _{\pm }^{(0)}({\vec {r}}_{1},{\vec {r}}_{2})={\frac {1}{\sqrt {2}}}[\psi _{n_{1},l_{1},m_{1}}({\vec {r}}_{1})\psi _{n_{2},l_{2},m_{2}}({\vec {r}}_{2})\pm \psi _{n_{2},l_{2},m_{2}}({\vec {r}}_{1})\psi _{n_{1},l_{1},m_{1}}({\vec {r}}_{2})]} これはスレイター行列式によってもたらされる。 係数 1 2 {\displaystyle {\frac {1}{\sqrt {2}}}} は ψ ± ( 0 ) {\displaystyle \psi _{\pm }^{(0)}} を規格化する。この波動関数を1粒子波動関数の積に変えるために、これが基底状態にあるという事実を用いる。したがって、 n 1 = n 2 = 1 , l 1 = l 2 = 0 , m 1 = m 2 = 0 {\displaystyle n_{1}=n_{2}=1,\,l_{1}=l_{2}=0,\,m_{1}=m_{2}=0} である。そのため、 ψ − ( 0 ) {\displaystyle \psi _{-}^{(0)}} は消え、2つの電子が同じ状態にあることはできないというパウリの排他原理の最初の定式化に一致する。それ故に、ヘリウムに対する波動関数は以下のように書くことができる。 ψ 0 ( 0 ) ( r → 1 , r → 2 ) = ψ 1 ( r 1 → ) ψ 1 ( r 2 → ) = Z 3 π e − Z ( r 1 + r 2 ) {\displaystyle \psi _{0}^{(0)}({\vec {r}}_{1},{\vec {r}}_{2})=\psi _{1}({\vec {r_{1}}})\psi _{1}({\vec {r_{2}}})={\frac {Z^{3}}{\pi }}e^{-Z(r_{1}+r_{2})}} 上式において、 ψ 1 {\displaystyle \psi _{1}} および ψ 2 {\displaystyle \psi _{2}} は水素ハミルトニアンに対する波動関数を使用している。ヘリウムに対しては E 0 ( 0 ) = E n 1 = 1 , n 2 = 1 ( 0 ) = − Z 2 a.u. {\displaystyle E_{0}^{(0)}=E_{n_{1}=1,\,n_{2}=1}^{(0)}=-Z^{2}{\text{ a.u.}}} からZ = 2である。E 0 ( 0 ) {\displaystyle _{0}^{(0)}} = −4 a.u. であり、これは約−108.8 eV、イオン化ポテンシャルV P ( 0 ) {\displaystyle _{P}^{(0)}} = 2 a.u. (≅54.4 eV) に相当する。実験値はE 0 {\displaystyle _{0}} = −2.90 a.u. (≅ −79.0 eV) およびV p {\displaystyle _{p}} = 0.90 a.u. (≅ 24.6 eV) である。 得られたエネルギーは低すぎる。これは、エネルギーレベルを上昇させる効果がある電子間の反発項が無視されたためである。Zが大きくなる程、電子-電子反発項はより小さくなり、このアプローチはより良い結果を与える。
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