還元不能の場合
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/09 06:39 UTC 版)
三次方程式 x3 + p x + q = 0 にカルダノの公式を適用すると ( q 2 ) 2 + ( p 3 ) 3 < 0 {\displaystyle \left({\frac {q}{2}}\right)^{2}+\left({\frac {p}{3}}\right)^{3}<0} の時に負の数の平方根が現れる。これは、この三次方程式の判別式 D=−(4p3 + 27q2)> 0 と同値な条件であり、相異なる 3 個の実数解を持つ条件である。実数解しかないのにも関わらず、カルダノの公式では負の数の平方根を経由する必要がある。カルダノは負の数の平方根を計算に用いることはあったものの、それらの場合は不可能で役に立たないものと考えていた。 ラファエル・ボンベリ (Rafael Bombelli) は、この場合を詳しく研究し1572年に出版した『代数学』(Algebra) に記した。形式的な計算ではあるものの、当時はまだ知られていない虚数の計算と同じであった。ボンベリは x3 = 15x + 4 という x = 4 を解に持つ方程式を例に挙げた。この方程式をカルダノの公式で計算してみると x = 2 + − 121 3 + 2 − − 121 3 {\displaystyle x={\sqrt[{3}]{2+{\sqrt {-121}}}}+{\sqrt[{3}]{2-{\sqrt {-121}}}}} となるが、ボンベリはこの右辺は、今日でいうところの共役な複素数の和であると考え、負の数の平方根の演算規則を与えた上で ( 2 ± b − 1 ) 3 = 2 ± − 121 {\displaystyle \left(2\pm b{\sqrt {-1}}\right)^{3}=2\pm {\sqrt {-121}}} から b = 1 を求め、元の方程式が x = 4 を解に持つことを説明した。 一般には ( a ± b − 1 ) 3 = 2 ± − 121 {\displaystyle \left(a\pm b{\sqrt {-1}}\right)^{3}=2\pm {\sqrt {-121}}} から 2個の値 a, b を求めなければならないが、これを求めるためには別の三次方程式が現れるため、カルダノはこの場合を還元不能(かんげんふのう、casus irreducibilis)と呼んだ。この還元不能の場合を回避するために様々な努力がなされたが、実は、虚数を避けて実数の冪根と四則演算を有限回用いただけで解を書き下すことは不可能であるため、全て徒労に終わった。
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