還元と持ち上げ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/10 16:16 UTC 版)
もともとのヘンゼルの補題は、整数を係数とする多項式の因数分解と、素数 p、もしくはその冪乗を法とする剰余類環を係数とする多項式の因数分解との関係についてのものであった。素数p を極大イデアルに置き換えることで、この補題は整数から任意の可換環へそのまま一般化できる( Z {\displaystyle \mathbb {Z} } の極大イデアルはある素数 p で p Z {\displaystyle p\mathbb {Z} } と書けるのであった)。 この一般化を正確に書くためには、整数の場合の合同算術を一般化しておく必要があるので、この文脈で通常使われる用語を正確に定義しておこう。 R を可換環、I を R のイデアルとする。Rの元を標準写像 R → R / I {\displaystyle R\to R/I} による像で置き換えることを、I を法とする還元、または法 I での還元と呼ぶ。 例えば、 f ∈ R [ X ] {\displaystyle f\in R[X]} をR係数の多項式とするとき、そのIを法とする還元 f mod I {\displaystyle f{\bmod {I}}} とは、f の係数を R / I {\displaystyle R/I} での像に置き換えることで得られる ( R / I ) [ X ] = R [ X ] / I R [ X ] {\displaystyle (R/I)[X]=R[X]/IR[X]} の多項式のことをいう。 R [ X ] {\displaystyle R[X]} の2つの多項式 f と g が法I で係数が等しくなるとき、つまり f − g ∈ I R [ X ] {\displaystyle f-g\in IR[X]} であるとき、この2つの多項式は法 I で合同であるといい、 f ≡ g ( mod I ) {\textstyle f\equiv g{\pmod {I}}} で表す。 h ∈ R [ X ] {\displaystyle h\in R[X]} の法 I での因数分解とは、h を法 I で R [ X ] {\displaystyle R[X]} の2つ(以上)の多項式 f, g の積として書き表す h ≡ f g ( mod I ) {\textstyle h\equiv fg{\pmod {I}}} ことをいう。 持ち上げとは還元の逆の操作である。つまり、 R / I {\displaystyle R/I} の元を使って表されている対象があったとき、持ち上げとは対象の性質を保ったまま還元するとこの対象に等しくなるように R {\displaystyle R} (もしくはある k > 1 に対する R / I k {\displaystyle R/I^{k}} )の元に置き換えることをいう。 例えば、多項式 h ∈ R [ X ] {\displaystyle h\in R[X]} が法 I で h ≡ f g ( mod I ) {\textstyle h\equiv fg{\pmod {I}}} と因数分解されているとき、この因数分解を法 I k {\displaystyle I^{k}} へ持ち上げるとは、多項式 f ′ , g ′ ∈ R [ X ] {\displaystyle f',g'\in R[X]} であって f ′ ≡ f ( mod I ) , {\textstyle f'\equiv f{\pmod {I}},} g ′ ≡ g ( mod I ) , {\textstyle g'\equiv g{\pmod {I}},} h ≡ f g ( mod I k ) {\textstyle h\equiv fg{\pmod {I^{k}}}} を満たすものを見つけることである。ヘンゼルの補題は、この因数分解の持ち上げが緩い条件のもとで常に可能であることを主張するものである。
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