誤差の伝播
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/26 01:41 UTC 版)
ΔG⊖ = −RT ln K = ΔH⊖ − TΔS⊖という事実を利用すると、ΔH⊖の値を得るためには、Kを2回測定すれば十分であるように見える。 Δ H ⊖ = R ln K 1 − ln K 2 1 / T 2 − 1 / T 1 {\displaystyle \Delta H^{\ominus }=R{\frac {\ln K_{1}-\ln K_{2}}{1/T_{2}-1/T_{1}}}} 上式において、K1およびK2はそれぞれ温度T1およびT2において得られる平衡定数の値である。このようにして得られたΔH⊖値の精度は、平衡定数の値の精度に大きく依存する。典型的な温度の対は、25 °Cと35 °C(298 Kと308 K)かもしれない。これらの温度では、 1 T 2 − 1 T 1 = 1 298 K − 1 308 K = 1.1 × 10 − 4 K {\displaystyle {\frac {1}{T_{2}}}-{\frac {1}{T_{1}}}={\frac {1}{298~\mathrm {K} }}-{\frac {1}{308~\mathrm {K} }}=1.1\times 10^{-4}{\text{ K}}} である。この値を使うと Δ H ⊖ ≈ 76 ( ln K 1 − ln K 2 ) kJ/mol {\displaystyle \Delta H^{\ominus }\approx 76\left(\ln K_{1}-\ln K_{2}\right){\text{ kJ/mol}}} となる。 さて、誤差の伝播(英語版)は、ΔH⊖の誤差が (ln K1 − ln K2) の誤差の約76 kJ/mol倍、またはln K値の誤差の約110 kJ/mol倍になることを示している。例えば、各ln Kの誤差がσ ≈ 0.05であると仮定する。ΔH⊖の誤差は約5 kJ/molになる。このように、個々の安定性定数が精度よく決定されたにもかかわらず、このようにして計算されたエンタルピーには大きな誤差が生じることになる。 そうすると、エントロピーはΔS⊖ = 1/T(ΔH⊖ + RT ln K)から得られることになる。この式では、第2項の誤差は第1項の誤差に比べて無視できる程度である。拡大率は76 kJ/mol ÷ 298 Kなので、対数での誤差が0.05の場合、ΔS⊖の誤差は17 J/(K mol)のオーダーとなる。 平衡定数が3つ以上の温度で測定された場合、ΔH⊖の値は直線的なフィッティングによって得られる。この場合、標準エンタルピーの誤差は幾分小さくなるが、それでもかなりの程度にまで拡大される。
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