生育に関わって
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/09 00:15 UTC 版)
本種は上記のように特殊な生育環境を好むこと、同時にそのような地には通常の植物群落が成立しがたいことなどから多くの関心が向けられてきた。本種の生育状況を具体的に見ると、たとえば宮城県の荒雄岳の片山地獄では以下のようであった。まず噴気孔の周辺には植物群落が存在しない裸地の区域があり、その外側に本種の群落が点在する区域がある。この区域に見られるのは本種の他に苔類であるチャツボミゴケ Jungermannia thermarum、および地衣類であるイオウゴケ Cladonia theiophila が見られ、チャツボミゴケ単独の植生は水流のある地に発達し、本種の群落は単独の場合もあったが多くではこのコケが同時に生えている。他方、本種にイオウゴケを伴う群落もあり、それらではウラジロヨウラクやサラサドウダンなどのツツジ科の低木やススキを伴い、本種の生育はあまりよくなかった。さらにその外側には本種とチャツボミゴケの群落、本種とイオウゴケの群落が谷部分に、そしてそれ一階の部分ではススキと低木からなる植生が広がり、そこに本種もまばらに生育していた。この地で本種の実生を探すと、チャツボミゴケの集団の上に多く見られ、また本種の群落が多く見られる区域の裸地にも見つかったという。 この地でpHを測定したところ、噴気孔周辺では1.3、その周囲の裸地で2.3などであるが外周のススキ群落では3.3以上の数字を示した。そんな中、本種の群落のある区域ではその値は2.6から3程度の範囲で、強い酸性を示していた。 また硫酸イオンの濃度もこれらの分布と直接に関係があり、地域内の谷部の裸地ではその濃度が高く、本種を含む群落の土壌では微量に検出できた。それに対して外周部のススキ群落などではほとんど検出されなかった。このことから硫酸イオンは降水によって洗い流され、谷部に蓄積したことが推定される。その上で本種はその濃度の低い場所に群落を形成し、洗い流されてほとんど残っていない場所にススキや低木が侵入することができるらしい。 このようなことからこの地域での植生の変遷を考えると、以下のようなことが考えられる。まず裸地に最初に侵入できるのは本種とチャツボミゴケであり、チャツボミゴケは水流のある谷部に、本種の方はその近くの位置に群落を形成する。次にススキや低木は降水によって硫酸イオンが流されてpH が低下した場所に侵入してくるが、水流がある地では洗い流されてきた硫酸イオンが蓄積するために侵入することができず、本種を中心とした群落が維持される。
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