日本ファクトチェックセンター
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/10/26 09:11 UTC 版)
| URL | 日本ファクトチェックセンター | 
|---|---|
| 言語 | 日本語 | 
| 運営者 | セーファーインターネット協会 | 
| 営利性 | 非営利 | 
| 開始 | 2022年10月 | 
日本ファクトチェックセンター(にほんファクトチェックセンター[1]、英: Japan Fact-check Center、略称:JFC)は、ヤフーやネット関連企業などで作る一般社団法人セーファーインターネット協会(SIA)が、2022年10月1日に設立したインターネット上の誤情報・偽情報の対策を行なう非営利の機関である[2][3][4]。
SNSなどで配信される真偽不明な情報による社会の混乱を防ぐ試みで、有識者やファクトチェッカーなどがファクトチェック(事実の検証)を行い、実施結果や検証過程などをWebサイトに公開する[5][2][6]。2020年の「総務省プラットフォームサービスに関する研究会」や、産学官民連携の「Disinformation対策フォーラム」において、インターネット上に流通する誤情報・偽情報、特にSNSにおける個人の投稿について、プラットフォーム事業者が対処する必要性が指摘され設立された[2][7]。当面の運営資金はGoogleとYahoo! JAPANが提供するが、独立性を保つために資本関係ではなく寄付である[3][8]。
取り上げる記事は、影響範囲の広さ・深さ・身近さの3軸から選ばれる[3]。設立後3カ月間で行った40本のファクトチェックをのうち、約3分の1が新型コロナ関係であり、特にワクチンに関するチェックが多い[3]。
設立の経緯
2020年に、総務省で行われた有識者会議「総務省プラットフォームサービスに関する研究会」において、ネット上の誤情報・偽情報の問題は、法規制ではなく民間による取り組みの推進が必要だとする報告書が発表された[9][8]。それを受けてセーファーインターネット協会(SIA)が、官庁や有識者、事業者で構成される「Disinformation対策フォーラム」を立ち上げ、2021年7月に「ワクチンデマ対策シンポジウム[10]」を開催するなど、偽情報・誤情報対策に取り組んできた[2][7][8]。
2022年3月に「Disinformation対策フォーラム」が発表した報告書では、次のように書かれている[11][8]。
- 「従来の情報環境においては、新聞やテレビ等の報道機関が日々の取材や発信内容の多重チェックを通じて健全かつ多元的な言論空間を支える役割を担ってきたところ、インターネット上、特に個人が自由に情報を発信するSNS等においては、それに比肩するシステムが未だ不十分であるとの現状認識があり、プラットフォーム事業者の取組を始めとした関係者の協力によりその不足を補うことが重要かつ喫緊の課題であるとの問題意識によるものである。」
 - 「(ファクトチェックのあり方について)プラットフォーム事業者が提供するサービスやシステムに精通しつつ、それぞれ専門性が異なる各分野に適したアプローチをとることが可能な、中立的なガバナンス体制を有する団体によるチェックの充実が図られることが望ましい。」
 - 「偽情報・誤情報対策は誤った情報の流通による被害を抑止することを目的としており、情報の誤りを正すことそのものを目的としているわけではない点に留意が必要である。真偽にかかわらず情報や意見を発信することは個人の自由であり、自由な情報発信は健全かつ活発な情報環境に不可欠である。ファクトチェックの実施により、個人による情報発信の委縮を招くことがないよう、十分な配慮が必要である。」
 
2022年10月1日、2年間の議論により、テクノロジー企業が協力して検証機関を作ることになり、「日本ファクトチェックセンター(JFC)」が設立された[12][13]。ネット上の不確かな情報を中心にファクトチェックを行い、チェック結果や検証過程をnote上の公式WebサイトやYahoo!ニュースで発信する[12][14]。また、デジタル時代の教材開発やオンライン講習などのメディアリテラシー教育、調査研究などを行い、総合的な偽情報・誤情報対策を行なうことを目的とする[2][4][8]。
活動資金
Googleの慈善事業部門「Google.org」が当面の活動資金として2年間で最大150万ドル(約2億1,700万円)、Yahoo!が1年で2,000万円を提供した[2][3]。独立した組織にするため、資本関係ではなく寄付である[2][3]。
今後もプラットフォーマーや情報通信業界などからの資金提供や募金によって運営を行ない、広告収入や有料化は行わないとする[2][3]。
体制、メンバー
ファクトチェックを行なう体制は、「監査委員会」「運営委員会」「編集部」からなる[2][13]。
監査委員会がガバナンス全体の適正性確認や協賛企業等との利益相反チェックなどを行い、監査委員長は宍戸常寿東京大学大学院法学政治学研究科教授が務める[5][4][2]。監査委員会の監修の元、憲法・法律の専門家である運営委員会が、運営ガイドラインの制定や運用状況の監督、ファクトチェック効果の評価、案件や分野選定の評価などを行なう[6][2][4]。運営委員長は京都大学大学院法学研究科教授の曽我部真裕が務め、副委員長は慶應義塾大学大学院法務研究科教授山本龍彦、委員には毎日新聞客員編集員の小川一、元朝日新聞記者で桜美林大学教授の平和博などが参加している[2][4]。
これらの運営委員会の下に検証を行う編集部を置き、運営ガイドラインなどを元にファクトチェック記事を執筆する[5][2]。創刊編集長を務める古田大輔は、メディアコラボ代表、「デジタル・ジャーナリスト育成機構(D-JEDI)」事務局長、「ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)」理事であり、元朝日新聞記者、BuzzFeed Japanの創刊編集長を経て、2020 - 2022年に「Google News Lab」ティーチングフェローとして、記者や学生にデジタル報道セミナーを行った[15][12][2]。
判定基準
ファクトチェックの判定基準は、「正確(誤りがない)」、「ほぼ正確(大部分が正しい)」「根拠不明(根拠が不十分)」「不正確(重要な部分に誤りや欠落、ミスリードがある)」「誤り(全体に間違っているか重大な欠落がある)」の5種である[12][16]。ファクトチェックのガイドラインは、国際ファクトチェックネットワーク(IFCN)の基準を満たすものであり[17]、この検証手法を使えば誰でも同じ判定結果に至るとする[16][18]。
ファクトチェックでは、その真偽の「判定結果」と「動画検証 、画像検証、地理検証 、音声検証」などのオープンソース取材(OSINT)の手法を解説し、検索の仕方や検証ツールも紹介する[19][12][18][20]。「稲田議員と皇室がチマチョゴリを着ている画像」「静岡県で発生した水害の画像」などのファクトチェック記事では、画像検索ツール「TinEye」や「Googleレンズ」を使った合成画像の検証手法を解説した[21]。「WHOが未接種の反ワクを『殺人者』と公式に位置付け」のファクトチェック記事では、ニュースサイト「News Punch」は誤情報を発信していることで有名であり、信頼性の格付けツール「NewsGuard」で最低レベルの「最大限の注意が必要なサイト」に位置づけられていることを紹介した[22]。
批判
報道機関を原則対象外とすることへの批判
2022年9月30日、SmartFLASHの記事がネットに掲載され、SNS上の批判の声「ガイドラインが、最も影響力のある新聞やテレビを第1条で除外し、ネットに限定している点で既にダメ」「第4の権力と言われているテレビ・新聞などマスメディアの権力者と戦わず、何の権力もない弱者と戦う存在意義があるのか?」などが紹介された。さらに、ITmediaライターの井上輝一は、「メディアが発信した情報のファクトチェック」がSNSで行われ、その誤りがしばしば指摘されている現状で、「メディアの書くことは正確なのでそれ以外をチェックします」という方針が反発を買うのは当然であると指摘している。
その他の批判
朝日新聞社出身者のみで主要編集者が占められていることについては設立記者会見等でも偏りがあるという指摘が行われ、SNS上などでも批判が行われた[2][23]。吉田奨事務局長(SIA専務理事)は「経験と能力をみて人材の選定を行なった。偏りについては厳正なガイドラインを制定することで公正性を失わないようにする」とした上で、将来的には多様な人材を揃えるという見解を示している[2]。
ITmediaライターの井上輝一は、今の発信は「多少なりとも情報リテラシーを持っている人」にしか届いていなさそうに見えるにもかかわらず、2022年9月28日に取り上げた「政府が飛行機雲で有害物質を空から散布しているとするケムトレイル陰謀論[24]」は、「調べるまでもなく信じるに値しない話」であり、「このような陰謀論を信じる低リテラシー層がこの記事を含め、ファクトチェック記事を見ることはあるのか」「見たときに科学的、あるいは論理的な説明をもって納得してくれるのか」「やるべきことはオカルトの検証なのか」と指摘している[25]。編集長の古田は、「間違った情報はたくさん流れている。その中でどれを選ぶのか、正解はない」とし、荒唐無稽な陰謀論でも信じる人がいるため、地道なファクトチェックやメディアリテラシーの普及が必要であると述べている[26][8][10]。また、「人それぞれが持つストーリーには解釈があるのでチェックすることはないが、事実部分はチェックする。まずは検証できるところからやっていきたい」とする[3][10][27]。
2024年10月28日付公表の「衆院選の自公過半数割れで石破内閣総辞職? まとめサイトの見出し【ファクトチェック】」[28][29]については、憲法70条の衆議院総選挙後の内閣総辞職規定を無視していて、間違いであると批判された[30]。
2025年2月5日付公表の「週刊文春の新谷学元編集長「(取材対象が)結果的に自殺してもしょうがない」と発言? そのような発言はしていない【ファクトチェック】」[31]については、ABEMAの番組内で「(最悪自殺に追い込んでしまう可能性に)そういう事を心配し始めると何も書けない」などと発言していた事が指摘されている。これに対し「一字一句同じでなければFALSEなのか」「このような信念を持ちながら誤報を長期間放置する文春の報道体制への批判が主題ではないのか」などとネット上や一部の新聞等から批判を受けた。日本ファクトチェックセンターは「発言があったとされる番組は閲覧期間が終了しており、内容を確認できない」としているほか、発信源であるインフルエンサーの田端信太郎氏に事実確認の問い合わせが無かった事など、十分とは言えない調査体制にも疑問の声が上がった[32][33]。
関連項目
- ファクトチェック
 - セーファーインターネット協会
 - オープン・ソース・インテリジェンス(OSINT)
 - TinEye (英語版) - Googleレンズ (英語版) - NewsGuard (英語版)
 - インフォデミック (英語版) - ワクチン忌避 - 陰謀論
 - ブランドリーニの法則 (英語版)
 - バックファイア効果 (英語版)
 - カテゴリー:ファクトチェック_ウェブサイト (英語版)
 - FactCheck.org (英語版) - ポリティファクト - スノープス - Skeptic's Dictionary - 国際ファクトチェックネットワーク(IFCN) (英語版)
 
脚注
出典
- ^ “JFCとは”. 2025年5月20日閲覧。
 - ^ a b c d e f g h i j k l m n o p “「日本ファクトチェックセンター」設立。Googleが150万ドル”. Impress Watch (2022年9月28日). 2022年10月6日閲覧。
 - ^ a b c d e f g h “正しい情報を求めすぎ? 「虚構新聞」信じた学生も…日本ファクトチェックセンター設立から3カ月 存在意義と成果は”. ABEMA Prime (2023年1月5日). 2023年1月9日閲覧。
 - ^ a b c d e “JFCについて”. 日本ファクトチェックセンター(JFC) (2022年9月27日). 2023年1月11日閲覧。
 - ^ a b c “日本ファクトチェックセンター設立 インターネット上の偽情報対策など担う”. 民放online(日本民間放送連盟) (2022年10月5日). 2023年1月25日閲覧。
 - ^ a b “日本ファクトチェックセンター設立,ネット上の誤情報・偽情報を検証”. NHK『放送研究と調査』2022年12月号. 2023年1月25日閲覧。
 - ^ a b “よくあるご質問と回答”. 日本ファクトチェックセンター(JFC) (2022年10月21日). 2023年1月11日閲覧。
 - ^ a b c d e f “グーグル&ヤフーが2億円超も提供 デマに対抗「日本ファクトチェックセンター」の成算は”. J-CASTニュース (2022年9月29日). 2023年1月11日閲覧。
 - ^ “プラットフォームサービスに関する研究会(第19回)” (PDF). 総務省 (2020年7月2日). 2023年1月11日閲覧。
 - ^ a b c “ワクチンデマ対策シンポジウム”. 一般社団法人セーファーインターネット協会 - YouTube (2022年7月15日). 2023年1月11日閲覧。
 - ^ “Disinformation 対策フォーラム 報告書” (PDF). Disinformation 対策フォーラム(2022年3月). 2023年1月25日閲覧。
 - ^ a b c d e “「日本ファクトチェックセンター」が10月開設 ネット情報の真偽を発信 編集部は朝日系”. ITmedia NEWS (2022年9月29日). 2022年10月1日閲覧。
 - ^ a b “セーファーインターネット協会、「日本ファクトチェックセンター」を設立 偽情報・誤情報対策を推進”. Media Innovation (2022年9月29日). 2023年1月25日閲覧。
 - ^ “日本ファクトチェックセンターが、noteを拠点に情報発信をはじめます”. note株式会社 (2022年9月28日). 2023年1月25日閲覧。
 - ^ “古田 大輔(ふるた だいすけ)”. Schoo. 2023年1月11日閲覧。
 - ^ a b “JFCファクトチェック指針”. 日本ファクトチェックセンター (2022年9月27日). 2023年1月11日閲覧。
 - ^ “Japan Fact-check Center”. IFCN Code Of principles. ポインター研究所. 2024年8月5日閲覧。
 - ^ a b “日本ファクトチェックセンターを「スッキリ」が取り上げる 前田裕二「FC自体がFCを受けることも」”. J-CASTニュース (2022年10月7日). 2023年1月25日閲覧。
 - ^ “ファクトチェック:「 ドローンで撮影された静岡県の災害」はAI作成の偽画像”. 日本ファクトチェックセンター (2022年9月28日). 2023年1月11日閲覧。
 - ^ “ホーム”. 日本ファクトチェックセンター. 2023年1月11日閲覧。
 - ^ “ファクトチェック:「稲田議員と皇室がチマチョゴリを着ている画像」は合成”. 日本ファクトチェックセンター(JFC) (2023年1月16日). 2023年1月20日閲覧。
 - ^ “ファクトチェック:「WHOが未接種の反ワクを『殺人者』と公式に位置付け」は不正確”. 日本ファクトチェックセンター(JFC) (2023年1月12日). 2023年1月20日閲覧。
 - ^ アゴラ編集部 (2022年9月29日). “朝日新聞OBの「ファクトチェックセンター」は朝日をチェックせず”. アゴラ 言論プラットフォーム. 2022年10月1日閲覧。
 - ^ “ファクトチェック:「政府が飛行機雲で有害物質を空から散布している」は陰謀論”. 日本ファクトチェックセンター (2022年9月28日). 2023年1月11日閲覧。
 - ^ 井上輝一,ITmedia (2022年9月30日). ““ファクトチェック”はオカルト検証番組のことだったのか?(1/2ページ)”. ITmedia NEWS. 2022年10月6日閲覧。
 - ^ “古田大輔のコメント”. Yahoo! (2022年12月8日). 2023年1月11日閲覧。
 - ^ “情報汚染対策䛾ため䛾 包括的な協力体制に向けて”. メデイアコラボ代表 古田大輔. 2023年1月25日閲覧。
 - ^ https://www.factcheckcenter.jp/fact-check/politics/false-ishiba-pm-resignation/
 - ^ https://x.com/fact_check_jp/status/1850838896151498965
 - ^ https://agora-web.jp/archives/241028211556.html
 - ^ http://www.factcheckcenter.jp/fact-check/media/false-bunshun-shintani-comment/
 - ^ https://news.yahoo.co.jp/articles/f7839a7bea3bcd7348c4d4518816affdd9ff1b87
 - ^ https://agora-web.jp/archives/250206011716.html
 
外部リンク
- 日本ファクトチェックセンター(JFC)
 - JFCファクトチェック指針
 - 日本ファクトチェックセンター(JFC) (@fact_check_jp) - X
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