土佐くろしお鉄道宿毛駅衝突事故
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土佐くろしお鉄道宿毛駅衝突事故 | |
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衝突した1両目の損傷(事故調査報告書より)
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発生日 | 2005年(平成17年)3月2日 |
発生時刻 | 20時41分頃(JST) |
国 | ![]() |
場所 | 高知県宿毛市駅前町一丁目 |
座標 | 北緯32度55分57.2秒 東経132度42分48.5秒 / 北緯32.932556度 東経132.713472度座標: 北緯32度55分57.2秒 東経132度42分48.5秒 / 北緯32.932556度 東経132.713472度 |
路線 | 宿毛線 |
運行者 | 土佐くろしお鉄道 |
事故種類 | 列車脱線事故 |
原因 | 過労運転 |
統計 | |
列車数 | 1(3両編成) |
乗客数 | 11人(他乗務員2人) |
死者 | 1人(乗務員) |
負傷者 | 11人(内乗務員1人) |
その他の損害 | 車両損壊、建物損壊、宿毛線不通 |
土佐くろしお鉄道宿毛駅衝突事故(とさくろしおてつどうすくもえきしょうとつじこ)は、2005年(平成17年)3月2日の20時41分頃に土佐くろしお鉄道宿毛線宿毛駅で列車が脱線し同駅の駅舎に衝突、脱線・地上に転落した事故である[1][2][3][4]。
事故概要
2005年(平成17年)3月2日20時41分頃、高知県宿毛市の宿毛駅(頭端式構造)構内で、岡山発宿毛行の特急「南風17号」が約113km/hの高速で進入した[1][2][5]。列車はJR四国高知運転所所属の2000系気動車で、先頭から2008,2218,2116の3両編成、乗員2人(運転士1名、車掌1人)と乗客11人の計13人が乗車していた[2][6]。ATS又はEB装置の作動があったとみられるが、概ね95km/h又は概ね85km/hの速度で車止めに突入、そのまま駅舎のエレベーターを破壊、外壁を突き破って地上に転落、さらにテレスコーピング現象によって完全に変形ないし圧壊、原形をとどめず大破し、駅舎も半壊した[1][2][7][5]。この事故により先頭車両の運転席にいた運転士が死亡し、後尾車両にいた車掌が軽傷、乗客10人が重軽傷(重傷1人、軽傷9人)を負った[1][2][8]。
事故直後の救出活動
後刻出発する予定であった普通列車の運転士と宿毛駅近くにいた社員が加わり、乗客の救出等が行われた。先頭車両には乗客が2名いたが、客室扉が大破していたため窓ガラスを割って救出された。
宿毛駅は高架式に建てられており、事故現場であるホームと外部との連絡は階段を使用しなければいけないが、事故の影響で当該階段壁面が崩れ、車両から漏洩した油が階段にも及んでいたため通行が困難となっていた(前述の社員と消防署員は、電柱を上って事故現場に到達した。)[1][2][4]。そのため、負傷者を後刻出発する予定であった普通列車に乗せ(宿毛駅を出発したのは、事故発生から約35分経過した21時16分ころ)、重傷者1人と比較的重傷であった2人は隣駅の東宿毛駅まで、その他の負傷者は病院に近い2駅先の平田駅まで搬送し、それぞれの駅から救急車で病院に搬送された[3][9][10]。
死亡した運転士については、運転席において動かない姿が確認されていたが、車両が大破していたことから、車両からの搬出は事故から3日後の3月5日となった[8][11][12][13]。
事故後の影響
この事故により宿毛線は全線運休となった[3]。同年4月7日に普通列車のみ運転を開始したが、この時点では宿毛駅の改札が使用不能であったため、宿毛駅 - 東宿毛駅間は回送扱いとしバス代行輸送が行われた[14][15]。同年6月13日からは特急列車も運行を開始したが、特急列車の運行も普通列車と同様の形式で行われたため、所定では通過する東宿毛駅に臨時停車の措置が取られた。
同年10月28日に宿毛駅駅舎の復旧工事が完了したことから、11月1日より宿毛駅 - 東宿毛駅間の旅客営業を再開し[16]、同時に特急の東宿毛駅臨時停車も終了した。
調査と対策
運転士は前日まで6日間インフルエンザのため欠勤していたが、当日の点呼では異常が見られなかったとしている[17][18]。事故調査報告書では平田駅出発後に運転を正常に行えなくなる何らかの異常事態が運転士に発生したものと推測し、眠気を催しやすい食事後の乗務であったことなどが指摘されているが、その異常事態が何であったかを特定するには至っていない。
駅手前にある安全装置(保安装置)である自動列車停止装置のATS-SSは、停止信号警報であるロング地上子も、過走防止速照である時素速照地上子も正常に動作して非常制動を掛けた[19][20]。しかし、その設置位置がロング地上子は最高速度対応ではなく、運転士による減速で約51km/h以下に減速される前提の位置に設置されており、また2対の過速度防止速照地上子対は全く根拠のない位置に設置されており、地上子配置及び配置規則が適正なものでなかったため(当初、宿毛線の最高速度は70km/hで計画されていたが、建設中に120km/hに引き上げられた)、最高速で進入してきた列車を停止させることができなかった点が指摘された[21][22][23]。
これを受けて国土交通省は、最高速度100km/h以上の全事業者に対し、行き止まり駅に限ってそれぞれ是正通達を行った[24][25]。なお、行き止まり駅以外は最高速度に対応しない設定が、国交省通達上はそのまま残されている[25]。
事故車両のうち一両目の2008と二両目の2218は原形をとどめないほど大破したため、2005年3月31日付で罹災廃車となり解体処分された[26][27][14]。
この事故を契機に、土佐くろしお鉄道では宿毛駅に過走防止装置としてATS-SS時素式速度照査地上子3対を新設、2対を有効な位置に移設して運行を再開した[28][24][15]。JR四国では、行き止まり式の配線を持つ駅(香川県内では高松駅、琴平駅、愛媛県内では宇和島駅、高知県内では新改駅、徳島県内では徳島駅、鳴門駅、坪尻駅)計7か所を対象に、宿毛駅と同様の過走防止用ATS地上子を増設(駅から離れた場所)することを決めた。また、高松琴平電気鉄道でもこの事故を受けて、ATS装置を時素式速度照査機能付に更新するとともに、行き止まりの配線を持つ駅(高松築港駅、瓦町駅、仏生山駅、一宮駅、琴電琴平駅、長尾駅、琴電志度駅)7か所を対象に、過走防止用地上時素式速度照査地上子(駅構内に照査速度20km/h、15km/h、10km/h、5km/hの4段階で設置)を増設することを決めた。
脚注
- ^ a b c d e 「特急が駅舎へ、運転士死亡・乗客ら10人重軽傷…高知」『読売新聞』読売新聞社、2005年3月3日。オリジナルの2005年3月5日時点におけるアーカイブ。2025年3月15日閲覧。
- ^ a b c d e f 「特急列車、駅舎の壁に衝突 高知・宿毛駅、運転士死亡」『朝日新聞』朝日新聞社、2005年3月3日。オリジナルの2005年3月4日時点におけるアーカイブ。2025年3月15日閲覧。
- ^ a b c 「宿毛駅舎に特急衝突 運転士死亡、10人負傷」『高知新聞』高知新聞社、2005年3月3日。オリジナルの2005年3月5日時点におけるアーカイブ。2025年3月15日閲覧。
- ^ a b 「車止め突破、運転士死亡 特急暴走 乗客ら10人重軽傷」『東京新聞』中日新聞東京本社、2005年3月3日。オリジナルの2005年3月5日時点におけるアーカイブ。2025年5月11日閲覧。
- ^ a b 「宿毛駅特急暴走事故 時速90キロ超で衝突か」『高知新聞』高知新聞社、2005年3月9日。オリジナルの2005年4月6日時点におけるアーカイブ。2025年3月15日閲覧。
- ^ 「宿毛駅特急暴走 平田駅出発後に異常発生か」『高知新聞』高知新聞社、2005年3月3日。オリジナルの2005年3月5日時点におけるアーカイブ。2025年3月15日閲覧。
- ^ 「3両目ブレーキ作動、1・2両目は不明 高知の特急暴走」『朝日新聞』朝日新聞社、2005年3月3日。オリジナルの2005年3月6日時点におけるアーカイブ。2025年3月15日閲覧。
- ^ a b “鉄道事故調査報告書”. 国土交通省. 2022年8月17日閲覧。
- ^ 「階段に特急車両めり込む 宿毛駅の現場」『高知新聞』高知新聞社、2005年3月3日。オリジナルの2005年3月5日時点におけるアーカイブ。2025年3月15日閲覧。
- ^ 「「いつもの場所で減速せず」 暴走列車の乗客」『高知新聞』高知新聞社、2005年3月3日。オリジナルの2005年3月5日時点におけるアーカイブ。2025年3月15日閲覧。
- ^ 「特急衝突事故で死亡の運転士搬出へ…高知・宿毛」『読売新聞』読売新聞社、2005年3月4日。オリジナルの2005年3月6日時点におけるアーカイブ。2025年3月15日閲覧。
- ^ 「くろしお鉄道の特急事故、運転士の遺体を収容」『読売新聞』読売新聞社、2005年3月5日。オリジナルの2005年3月7日時点におけるアーカイブ。2025年3月15日閲覧。
- ^ 「運転士の遺体を収容 くろしお鉄道宿毛駅事故」『朝日新聞』朝日新聞社、2005年3月5日。オリジナルの2005年3月7日時点におけるアーカイブ。2025年3月15日閲覧。
- ^ a b 「運行再開めど立たず 宿毛駅特急暴走から2週間」『高知新聞』高知新聞社、2005年3月17日。オリジナルの2005年3月17日時点におけるアーカイブ。2025年5月11日閲覧。
- ^ a b 「くろ鉄宿毛線7日から運行再開へ ATSも増・移設」『高知新聞』高知新聞社、2005年4月5日。オリジナルの2005年4月8日時点におけるアーカイブ。2025年5月11日閲覧。
- ^ “8カ月ぶりに全面再開 くろしお鉄道、宿毛駅完成”. 47NEWS. 共同通信 (全国新聞ネット). (2005年10月31日). オリジナルの2012年12月5日時点におけるアーカイブ。 2012年8月30日閲覧。
- ^ 「土佐くろしお鉄道事故、50-60キロでホーム突入?」『読売新聞』読売新聞社、2005年3月4日。オリジナルの2005年3月6日時点におけるアーカイブ。2025年3月15日閲覧。
- ^ 「宿毛駅特急暴走から1週間 運転士に異変?」『高知新聞』高知新聞社、2005年3月9日。オリジナルの2005年4月6日時点におけるアーカイブ。2025年3月15日閲覧。
- ^ 「特急「南風17号」、減速せず駅突入判明 高知」『朝日新聞』朝日新聞社、2005年3月3日。オリジナルの2005年3月7日時点におけるアーカイブ。2025年3月15日閲覧。
- ^ 「宿毛駅特急暴走 「ブレーキ」証言に相違」『高知新聞』高知新聞社、2005年3月5日。オリジナルの2005年3月7日時点におけるアーカイブ。2025年3月15日閲覧。
- ^ 「80キロ超すと停車無理 ATS、減速前提に設定」『高知新聞』高知新聞社、2005年3月5日。オリジナルの2005年3月7日時点におけるアーカイブ。2025年3月15日閲覧。
- ^ 「宿毛駅特急暴走 運転士ら当初から危険性認識」『高知新聞』高知新聞社、2005年3月13日。オリジナルの2005年4月8日時点におけるアーカイブ。2025年5月11日閲覧。
- ^ 「最終駅区間は宿毛線が最速 三セク協39社」『高知新聞』高知新聞社、2005年3月18日。オリジナルの2005年3月18日時点におけるアーカイブ。2025年5月11日閲覧。
- ^ a b 「ATSは最速走行想定を 国交省が緊急通達」『高知新聞』高知新聞社、2005年3月30日。オリジナルの2005年4月8日時点におけるアーカイブ。2025年3月15日閲覧。
- ^ a b “線路終端部における安全対策の向上について”. 国土交通省 (2005年3月29日). 2025年3月15日閲覧。
- ^ 「宿毛駅事故現場 車体つぶれ3分の1に」『高知新聞』高知新聞社、2005年3月6日。オリジナルの2005年3月8日時点におけるアーカイブ。2025年3月15日閲覧。
- ^ 「宿毛駅特急暴走 12日ぶりに先頭車両を撤去」『高知新聞』高知新聞社、2005年3月14日。オリジナルの2005年5月26日時点におけるアーカイブ。2025年5月11日閲覧。
- ^ 「宿毛駅特急暴走で本社調査 全国の鉄道49社」『高知新聞』高知新聞社、2005年3月25日。オリジナルの2005年3月26日時点におけるアーカイブ。2025年5月11日閲覧。
関連項目
外部リンク
- 土佐くろしお鉄道宿毛駅衝突事故 - 国土交通省運輸安全委員会
- 宿毛駅構内衝突事故について - 土佐くろしお鉄道 - ウェイバックマシン(2005年10月29日アーカイブ分)
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