平均への回帰
(回帰効果 から転送)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/08/17 16:35 UTC 版)
概要
平均への回帰は、極端な値が得られた対象から再度値を得ると平均に近づく傾向がある、という統計学的な現象である[1]。具体例として「テストの点が低かったグループにもう一度(同難度の)テストを受けさせると彼らの平均点が上がる(=学年平均に近づく)」「大きいエンドウ豆を選別して継代すると、次世代は親世代より小さくなる(=エンドウ豆の平均サイズに近づく)」が挙げられる(⇒ #例)。
平均への回帰は統計学で説明でき、選択バイアスの一種ともいえる(⇒ #原理)[2]。もともとは先祖返りに似た植物の遺伝特性と(誤認して)見出された現象であり、後に統計学的な現象であることが解明された(⇒ #歴史)。標本の取り方によって起こる統計学的な現象であるため、対象が植物・人・機械・その他何であっても起こる。意図せず平均への回帰をおこしてしまい分析の解釈を誤ることがしばしばある(回帰の誤謬)。 回帰分析の語源となったが、これとは異なる概念である。
例
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再テストの点数
生徒たちが中間試験と期末試験を受ける。中間試験で特別に高得点だった生徒たちに注目して調べると、(たぶん期末試験でも得点は高い方だろうが)一般に中間試験のときよりは平均点に近い(平均からの偏差がより小さい)結果になる。それは、中間試験で働いた「幸運」(偶然)が、期末試験では必ずしも働かなかったからである。逆に、期末試験で特別に高得点だった生徒たちについて調べても、中間試験での平均からの偏差は期末試験のそれより一般に小さい。また、低得点の生徒たちで調べても同じ傾向が見られる。
親の知能と子の知能
特異に学業成績優秀な両親から生まれた子どもは、両親の成績と比較して学業成績はより平均に近くなる可能性が高い。(同時に遺伝的な能力の観点から、平均よりも成績が良い可能性も高い。)
原理
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回帰とは元来、生物データから見出された現象であり、その最初はフランシス・ゴルトンにより1877年に発表された種子の重量に関する結果である。ゴルトンは7組のスイートピーの種子(種子の重量は組により異なるが、組の中では同じにした)を栽培し比較したところ、以下のことを見出した:
- 子世代の種子重量は親世代と同じく正規分布に従い、また子世代種子の平均直径を親の平均直径に対してプロットすると直線に近い関係がある(現在でいう線形回帰が適用できる)。
- しかし、子の平均直径は親の直径と比較すると、より全体の平均直径に近づく傾向がある(回帰)。
彼は初めこの直線の勾配を「復帰係数」[注 1]と呼んだ(いわゆる先祖帰りのような生物的現象と考えた)。その後この効果は生物的なものでなくデータの扱いの結果であることを発見し、その名を「回帰係数」[注 2]と変更した。この結果は「有利な形質をもつ個体が生存して子孫を残し、代を重ねるごとにその形質は顕著になる」という当時の進化に関する考えと矛盾するように見えて注目された。実際にはこの種子の大きさは遺伝による部分より偶然的変動が大きかったということである。彼はさらに研究を重ね、1888年に「相関」[注 3]という言葉を使い、これを表す定数(相関係数)に
回帰の誤謬[注 4]とは、平均回帰に気づかずにデータの収集と解釈を行い、さも科学的根拠があるような誤った結論(改善効果があった、悪化が見られる、等)を出してしまうことをいう。
有名な例には統計学者ホレース・セクリストの著書「The Triumph of Mediocrity in Business」(ビジネスにおける平凡さの勝利、1933年)がある。ここでは「競合するビジネスの利益率には時間平均に近づく傾向がある」という「経営学の法則」を示すために、膨大なデータを集めたが、実際のところ平均回帰の一例(あるいは盛者必衰の理?)を示したにすぎない。
よくありがちな誤謬には次のようなものがある。ある薬が成績を増すかどうかをテストしたい。まず生徒にテストをさせ、点数が最下位10%だった生徒たちに薬を与え、再度別のテストをさせる。すると平均成績が顕著に上がったという結果が得られる。しかしこれは薬の効果について何もいったことにならない。この例では薬なしの比較対照実験も可能だが、どちらの場合も同じことが起きるということがわかるだろう。
脚注
出典
- ^ a b
平均への回帰は "The term is... used to label the phenomenon that a variable that is extreme on its first measurement will tend to be closer to the centre of the distribution for a later measurement.” と説明される。
(徳永 2001, p. 335) - ^
平均への回帰は一種の selection bias と見なすこともできる。
(徳永 2001, pp. 336–337) - ^
平均への回帰は ... 1889年に F. Galton (F.ゴールトン)により見出された。
(徳永 2001, p. 335)
注釈
参考文献
- 徳永, 章二 (2001). “統計解析,特に回帰解析をめぐる3つの話題ー平均への回帰,Multilevel models,ポアソン回帰ー”. 日本救急医学会雑誌. 12 (7): 333–342.
関連項目
- 平均への回帰のページへのリンク