助六が本舞台へ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/01/03 23:17 UTC 版)
ここで河東節の実演はすべて終了する。ここまでで幕が開いてから一時間経っている。女形が「やんや、やんや、」と褒めちぎり、助六は「どうでんすな。どうでんすな。」と得意満面で舞台中央に出る。 江戸町内の庶民は銭湯で入浴していた。大浴場に新たに入るときに、先客に対して「(自分の体は)冷えもんでござい」と挨拶するという礼儀があった。それを真似て助六は「冷えもんでござい」と言いながら長椅子に腰を掛ける。と、居並ぶ傾城十何人が一斉に「吸いつけ煙管(きせる)」を助六に手渡すではないか。次々と手渡される煙管を助六は両手で受け取る。意休はそれをじっと見ている。うらやましいのか。意休は居並ぶ傾城たちに、自分も吸いつけ煙草が欲しいと言うが、誰一人それに応じない。煙草はみな助六にやってしまったからだ。即ち、すべての傾城が、助六に対して間接的に接吻を望むのである。 「煙管の雨が、降~るようだ!」「(意休に対して)煙草の用なら一本貸して進ぜよう」 長椅子に腰をかけた助六は、なんと自分の左足の指の間に煙管をはさみ、意休にそれを吸わせようとするではないか。意休は動ぜず、反対に説教をする。助六はそれを聞かずに「エエ、つがもねえ」(初代團十郎の出身地・山梨県の方言。ああ馬鹿らしい、くだらないの意)。反対に意休に対して、女に振られてもなお執着する姿は、あたかも蛇のようで気色が悪いとからかう。
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