八月の声を運ぶ男
出典: フリー百科事典『ウィキペディア（Wikipedia）』 (2025/08/23 15:06 UTC 版)
| 戦後80年ドラマ 八月の声を運ぶ男 |
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|---|---|
| ジャンル | 単発ドラマ |
| 原案 | 伊藤明彦『未来からの遺言 - ある被爆者体験の伝記』 |
| 企画 | 松本太一（WOWOW） |
| 脚本 | 池端俊策 |
| 演出 | 柴田岳志 |
| 監修 | 井原義ニ（医療監修） |
| 出演者 | 本木雅弘 阿部サダヲ 尾野真千子 石橋静河 田中哲司 伊東蒼 |
| 声の出演 | 木野花 |
| 音楽 | 清水靖晃 |
| 国・地域 |  日本 |
| 言語 | 日本語 |
| 時代設定 | 1972年 |
| 製作 | |
| 制作統括 | 加茂義隆（WOWOW） 尾崎裕和（NHK） 熊野律時（NHK） |
| プロデューサー | 松本太一（WOWOW） 森井敦（東映京都撮影所） |
| 制作 | NHK、WOWOW |
| 放送 | |
| 放送チャンネル | NHK総合テレビジョン |
| 映像形式 | 文字多重放送 |
| 音声形式 | ステレオ放送 |
| 放送国・地域 | 日本 |
| 放送期間 | 2025年8月13日 |
| 放送時間 | 22:00 - 23:29 |
| 放送分 | 89分 |
| 回数 | 1 |
| 公式ウェブサイト | |
『八月の声を運ぶ男』（はちがつのこえをはこぶおとこ）は、日本のテレビドラマ。千人以上の被爆者の声を録音したことで知られる元長崎放送記者・伊藤明彦をモデルとし、伊藤明彦の著書『未来からの遺言 - ある被爆者体験の伝記』を原案としている。高度経済成長期の1970年代の日本を舞台として、主人公のジャーナリストが被爆者たちの声を採集する過程で、ある被爆者と運命的な出逢いを果たす物語を描く[1]。2025年（令和7年）8月13日にNHK総合テレビジョンで放送された[2]。主演は本木雅弘[1]。
あらすじ
1972年、日本。長崎県の放送局出身のジャーナリスト・辻原保は、高度経済成長を遂げた時代の流れに逆行するかのように、重い録音機を抱えて、全国に散らばる被爆者を訪ね、被爆者たちの声の採取を行っている[3]。原子爆弾の傷跡はまだ深く、辻原の活動は誰からも理解されない[4]。全国を訪ね回る旅費の捻出のためにキャバレーのアルバイトで下働きをこなしており、活動は過酷さを極める[5]。そんな中、辻原は被爆者の1人、九野和平と運命的な出逢いを果たす。九野は重度の被爆症状に苦しみ、生活保護を受給して生活している[5]。九野の語る被爆者体験に、辻原は大きな衝撃を受けてゆく[4]。しかし、久野の語る彼の姉の話が不確かなものであることから、やがて辻原は、九野の言葉に次第に疑問を抱き始める[6][7]。
キャスト
- 辻原 保
- 演 - 本木雅弘[8]（幼少期：宇陽大輝[9]）
- 主人公[5]。長崎県の放送局出身のフリーのジャーナリスト。全国の被爆者たちの声の採取を行っている[3]。モデルは伊藤明彦[10]。
- 九野 和平
- 演 - 阿部サダヲ[3]
- 長崎原爆の被爆者。重度の被爆障害を患い、困窮した生活を送っている[5]。
- 恵木 幸江
- 演 - 尾野真千子[3]
- 辻原が通う被爆者団体の事務員[3]。
- 立花 ミヤ子
- 演 - 石橋静河[3]
- 辻原が働くキャバレーのホステス[3]。かつて辻原の取材を受けた被爆者（声：木野花）を母に持つ[5]。
- 中元 重子
- 演 - 安部聡子[2]
- 辻原が訪ねる被爆者の1人[2]。
- 白井 三郎
- 演 - 奥田洋平[2]
- 辻原が働くキャバレーの店長[2]。
- 鳥海所長
- 演 - 国広富之[2]
- 辻原が通う被爆者団体の所長[2]。
- 賀川 満
- 演 - 田中哲司[3]
- 辻原の長崎の放送局時代の同僚[3]。
- 九野の姉
- 演 - 伊東蒼[3]（幼少期：鈴木礼彩[11]）
- 九野を献身的に支える姉[5]。
スタッフ
- 原案 - 伊藤明彦『未来からの遺言 - ある被爆者体験の伝記』[4]
- 企画 - 松本太一（WOWOW）[12]
- 作・脚本 - 池端俊策[10]
- 演出 - 柴田岳志[4]
- 音楽 - 清水靖晃[4]
- 医療監修 - 井原義ニ[13]
- 製作統括 - 加茂義隆（WOWOW）、尾崎裕和（NHK）、熊野律時（NHK）[4]
- プロデューサー - 松本太一（WOWOW）、森井敦（東映京都撮影所）[4]
- 制作・著作 - NHK、WOWOW[14]
製作
戦後80年となる2025年に、戦争の惨禍に改めて目を向け、戦後の日本を見つめ直すことで、未来について考える契機とすることを目的で放映されたドラマである[15]。原案の『未来からの遺言』は、被爆者千人以上の声を録音したことで知られる元長崎放送記者・伊藤明彦のルポルタージュである[1]。伊藤明彦は長崎の入市被爆者であり、長崎放送に入社後、被爆地のジャーナリストの使命感として被爆証言の記録を信念とし、1970年に退社後は全国の被爆者約2千人を訪ね歩き、千人以上の音声証言を収録した[16]。その内の長崎で被爆者男性との出逢いの実話を著した作品が、『未来からの遺言』である[17]。
この作品は長期にわたって絶版であったが、2012年に岩波現代文庫版で復刊された。ドラマプロデューサーの松本太一（WOWOW）はSNSでこの復刊を知り、岩波版を読んで、伊藤の生きざまに感動したことで、ドラマ化の構想を開始した[12][18]。しかし、目に見えない「声」を集める物語であることや、約半世紀前の1970年代を舞台とすることで制作費の増加につながるため、ドラマ化は容易ではないと考えられていた[18]。
2023年に映像産業振興機構で制作者向けの企画セミナーが開催された際に、脚本家の池端俊策が講師を務めていたことで、松本が池端にドラマ化の企画を持ちかけたところ、「とても面白い」と想像以上の手応えが得られた[18]。その後、WOWOWが他局の番組制作に注力し始めたこともあり、NHKの企画募集に応募した結果、ドラマ化が実現した[18]。
池端は当初は、直接関わるつもりはなかったが、松本から「企画が通ったら脚本をお願いしたい」と依頼されていたことで、脚本を担当するに至った[18]。自身も被爆地である広島出身であり、伊藤の執念に強く惹かれたことも、その理由であった[18]。タイトルも池端自身により決定された[18]。
また、池端の小学校時代の同級生の体の弱い少女がおり、後年にその少女が体内被曝者であるにもかかわらず、そのことを言わなかった経験から、「大きな不幸を背負った人は寡黙だ」と考えられ、そうした寡黙な人々の声を後世に残そうと奔走した人物の切実な体験を描くことも狙いとされた[19]。
評価
著作家・イラストレーターの吉田潮は、主人公の辻原保の行動力と精神力、その辻原を演じた本木雅弘の抑揚をきかせながらも信念を体現した演技、被爆者の九野和平の複雑な心情を十分に表現した阿部サダヲの力量、その九野が20以上の病気を患っていることで、原爆の非道さが再認識される点などを評価しており、惨い話や痛ましい話に対して耳を閉ざし、心地よい美談や武勇伝だけを聞こうとする現代人に対して、「戦争を対岸の火事としかとらえていない現代人に、戦争がどれだけ残虐で無意味で虚しいことかを想像できるか、疑問を突きつけてくる作品」と語っている[5]。
原案の書籍は地道な印象のある取材活動であるにもかかわらず、ミステリータッチの起伏のある脚本に仕上げた、池端俊策の脚本家としての力量を評価する声もある[6]。
脚注
- ^ a b c 川口安子「被爆者1000人の声録音 ドラマ化 元長崎放送記者 モデルに 本木雅弘さん主演 8月にNHK」『西日本新聞』西日本新聞社、2025年4月5日、朝刊、25面。
- ^ a b c d e f g “八月の声を運ぶ男”. 日本放送協会 (2025年). 2025年8月23日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j “主演・本木雅弘、戦後80年ドラマ『八月の声を運ぶ男』8月放送。被爆者の声を集め続けたジャーナリスト・伊藤明彦の実話を元に 阿部サダヲ、石橋静河、伊東蒼、尾野真千子、田中哲司ら出演。8/13NHKにて放送”. 婦人公論.jp. 中央公論新社 (2025年6月1日). 2025年8月23日閲覧。
- ^ a b c d e f g “戦後80年ドラマ「八月の声を運ぶ男」キービジュアル公開【NHK公式】”. 日本放送協会 (2025年7月23日). 2025年8月23日閲覧。
- ^ a b c d e f g 吉田潮 (2025年8月15日). “「八月の声を運ぶ男」吉田潮レビュー 被爆者の「声」を未来に遺そうとする男の奮闘記が、現代人に突きつける疑問”. ステラnet. NHK財団. 2025年8月23日閲覧。
- ^ a b 旗本浩二「試写室 八月の声を運ぶ男」『読売新聞』読売新聞社、2025年8月13日、東京朝刊、30面。
- ^ 碓井広義 (2025年8月20日). “戦後80年ドラマ「八月の声を運ぶ男」は「被爆者とは何か」「被爆を伝える意味とは何か」という難テーマに挑んだ”. 日刊ゲンダイDIGITAL. 株式会社日刊現代. 2025年8月23日閲覧。
- ^ “本木雅弘主演・戦後80年ドラマ『八月の声を運ぶ男』、阿部サダヲ、尾野真千子ら共演キャスト発表”. クランクイン!. ローソンエンタテインメント (2025年5月22日). 2025年8月23日閲覧。
- ^ キャロット [@carotte_1979] (14 August 2025). “辻原保（#本木雅弘 さん）幼少期役 出演いたしました。”. Instagramより2025年8月23日閲覧.
- ^ a b 川口安子「本質を伝える「フィクション」ドラマ「八月の声を運ぶ男」作・脚本の池端俊策さんに聞く 被爆の伝承「重いけど、日本人のノルマ」文化・エンタメplus」『西日本新聞』西日本新聞社、2025年7月25日、朝刊、11面。
- ^ “鈴木礼彩 NHK 戦後80年ドラマ「八月の声を運ぶ男」”. 株式会社アヴァンセ (2025年8月10日). 2025年8月23日閲覧。
- ^ a b 川口安子「被爆太郎になった男 伊藤明彦と千人の声 継承 過去と未来をつなぐ「伝声管」」『西日本新聞』西日本新聞社、2025年4月24日、朝刊、9面。
- ^ “NHK戦後80年ドラマ「八月の声を運ぶ男」”. エヌ・エー・シー (2025年8月10日). 2025年8月23日閲覧。
- ^ “八月の声を運ぶ男”. テレビドラマデータベース. 2025年8月23日閲覧。
- ^ “【NHK戦後80年関連番組】私たちの未来について考えるきっかけ”. 日本放送協会 (2025年8月13日). 2025年8月23日閲覧。
- ^ 蓑川裕之「被爆80年ナガサキ 被爆者の「声」集め続けた元長崎放送記者 故伊藤さんモデルにドラマ 8月・NHK 本木雅弘さん主演」『長崎新聞』長崎新聞社、2025年5月7日、1面。
- ^ 蓑川裕之「被爆80年ナガサキ 故伊藤さんの功績に光 被爆者の「声」集め続けた元長崎放送記者 著書基にドラマ、講談… 体験「継承」へ迫る」『長崎新聞』長崎新聞社、2025年6月29日、1面。
- ^ a b c d e f g 井上知大「NHKドラマ「八月の声を運ぶ男」NHKドラマ「八月の声を運ぶ男」被爆体験「語り継ぎ」に焦点」『毎日新聞』毎日新聞社、2025年7月26日、東京夕刊、5面。
- ^ “本木雅弘主演戦後80年ドラマ『八月の声を運ぶ男』NHKで8月放送へ 脚本は池端俊策が担当”. リアルサウンド. blueprint (2025年4月4日). 2025年8月23日閲覧。
外部リンク
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