ユーシン渓谷
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ユーシン渓谷(ユーシンけいこく)は神奈川県足柄上郡山北町の玄倉川にある渓谷である[1]。丹沢大山国定公園に属し、「丹沢の秘境」と呼ばれる[2][3]。ユーシンは、ユーシンロッジ(休業中)付近の地名である[4][5][6][7]。
古くから新緑や紅葉の名所として知られていたが、後述する「ユーシンブルー」によって注目を集めるようになった。
ユーシンブルー

ユーシンブルーとは、玄倉川上流に位置する玄倉ダムで見られる、エメラルドグリーンやターコイズブルーのような青緑色に輝く水面の通称である。高い透明度の水・十分な水深・白いトーナル岩の地質[8]などの条件により生じる現象と推測されるが、その発色メカニズムの詳細は未解明である。玄倉ダムが開門されて水位が低い場合には、ユーシンブルーを見られないこともある。いつからユーシンブルーと呼ばれるようになったかは不明であるが、2016年夏ごろにSNSなどで認知度が高まり、来訪者が急増した[9]。山北町は商標登録を出願し、地域ブランドとして観光振興に活用している[10]。
玄倉林道
かつてユーシンへのアクセスは山神峠を越えるルートが一般的であったが[11][12]、1947年に玄倉川沿いに全長約9kmの玄倉林道が開通し[4][13]、利便性が高まった。
落石が多発することから、現在は一般車両(自転車を含む)の通行が禁止されており、徒歩での通行に限られている。また、青崩隧道(あおざれずいどう[14])の通行には懐中電灯やヘッドライトが必須である[2]。
玄倉林道沿線は落石・倒木が多く、一時的に通行止めまたは通行注意となることがあり、事前に県西地域県政総合センターが発する通行情報[15]を確認する必要がある。
長期通行止め
玄倉林道は急峻な地形のため、崩落や補修工事により、長期間の通行止めが実施されることがある。
青崩隧道(2号隧道)は2006年7月から2007年2月にかけて行われた安全調査で、トンネル内部にひび割れが見つかり、落盤の危険性があるため、玄倉林道は歩行者を含め完全通行止となった。その後、新青崩隧道が開通し2011年11月に歩行者に限り通行止が解除され、歩行でユーシン渓谷へ行くことができるようになった[16]。
2018年1月17日、玄倉第2発電所付近の林道で大規模な斜面崩落が発生した[17]。 石崩隧道(3号隧道)から洞角隧道(6号隧道)までの区間を歩行者を含めて通行止めとし、2022年3月まで大規模な対策工事が実施された[18]。 2022年3月末に歩行者通行止めが解除されている[19]が、同年4月からは7号隧道より先の玄倉治山運搬路で通行止めとなっている[20]。
2022年10月11日には、仲の沢林道分岐から400mほどの地点で土砂崩れが発生し[21]、全面通行止めとなった。 2024年4月には歩行者の通行規制が解除されている[22]が、同年5月からヘビ小屋隧道(4号隧道)より先が歩行者を含めて通行止めとなった[23]。 2024年11月にユーシンまでの徒歩通行規制が解除された[24]。
玄倉治山運搬路
玄倉林道の7号隧道から先の道は、林野庁関東森林管理局東京神奈川森林管理署[25]が管理する玄倉治山運搬路である[26]。玄倉林道は神奈川県が管理しているが、玄倉治山運搬路は林野庁の管轄であり、担当区間の通行情報をそれぞれが発信している。 ユーシンロッジへ到達するには、玄倉治山運搬路を通る必要がある。 玄倉林道が通行可能でも、玄倉治山運搬路が通行止めとなる場合がある[27] ため、注意が必要である。
ユーシンロッジ
ユーシンロッジは、1970年に神奈川県が設置した県営宿泊施設である[28]。かつては宿泊者に限り、ユーシンロッジまでの玄倉林道を自動車による通行が可能であった[29]。
丹沢登山のベースとして賑わっていたが、前述の隧道ひび割れによる通行止めの影響で、2007年4月から営業休止となった[30]。避難設備としては現在も活用可能である[31]。
2014年7月に神奈川県緊急財政対策として民間移譲が検討された[32][33]が、引き受け手は見つからなった[30]。2015年7月には利活用に関する提案を公募することになり[28][30]、 「西丹沢安全登山協力会」が事業候補者に選定された[34][35]。その後、トイレ改修などが進められたものの[36]、2018年以降の林道通行止めや新型コロナの影響により、2022年時点で関係者間の調整が中断しており[37]、営業再開には至っていない。
ユーシンの名の由来
その名の由来については諸説あるが、大正時代森林管理小屋の番人であった小宮兵太郎が、「谷深くして、水勢勇まし」という意味より湧津と名付けたという説がある[29][38]。
5万分の1地形図(旧版)ではユウシンと記載され、昭和初期にはユウシン休泊所が設置されている[29]。1951年の三保村公史には、涌深と記載されている[29]。
ユーシンロッジ裏、明治薬科大学小屋から先に進んだところにある堰堤橋(昭和34年7月竣工)の銘板には、「幽神沢」の表記があるが、出自は不明である[39]。
ダムと水力発電所
渓谷には玄倉ダム[40]と熊木ダム[41]がある。それぞれ神奈川県企業庁が設置した玄倉第1発電所[42]と玄倉第2発電所[43]で水力発電を行うために供している[44][45]。玄倉第1発電所では、再エネ地産地消の取り組みに合わせて「e.CYCLE丹沢やまきた水力」の愛称が付けられた[46]。
アクセス
小田急線新松田駅またはJR御殿場線谷峨駅から松62系統「西丹沢ビジターセンター」行きの富士急モビリティ路線バスに乗車。丹沢湖畔の「玄倉」で下車。
自動車の場合、東名高速大井松田ICまたは御殿場ICより国道246号を進み、「清水橋」交差点を曲がって神奈川県道76号山北藤野線を中川・丹沢湖方面へ。神奈川県道710号神縄神山線へ分岐し、神縄トンネルを抜けて玄倉へ。玄倉バス停付近の小菅沢沿いに無料駐車場。
湖畔から唯一のアクセス道路となる県営玄倉林道は、車両通行禁止区域。通行には神奈川県庁の許可が必要。
参考文献
- 原田征史、白井源三『神奈川県の山』山と渓谷社、2004年9月20日。ISBN 4-635-02313-3。
- 山北町地方史研究会 編『足柄の文化』18号、1989年2月25日。
- 奥野幸道『丹沢今昔』有隣堂、2004年7月20日。 ISBN 4-89660-186-6。
- ハンス・シュトルテ『続丹沢夜話』有隣堂、1991年1月30日。ISBN 4-89660-096-7。
脚注
- ^ “ユーシン渓谷”. 山北町観光協会. 2025年9月18日閲覧。
- ^ a b 『神奈川県の山』原田 & 白井 2004, p. 25
- ^ 朝日新聞 2015年1月13日朝刊 横浜地方版 29面
- ^ a b 『足柄の文化』山北町地方史研究会 1989, p. 77
- ^ とよた時『丹沢・山ものがたり』山と渓谷社、1991年10月1日、54頁。 ISBN 4-635-17055-1。
- ^ 丹沢渓谷調査団 著、株式会社地平線 編『丹沢の谷 110ルート』山と渓谷社、1995年9月1日、176頁。 ISBN 978-4635180016。176ページ
- ^ 『丹沢今昔』奥野 2004, p. 80
- ^ “玄倉川のトーナル岩とユーシンブルー”. 神奈川県立生命の星・地球博物館. 2025年9月18日閲覧。
- ^ “青の絶景ブランドに 「ユーシンブルー」商標登録 山北町”. カナロコ. 神奈川新聞 (2017年3月23日). 2025年9月15日閲覧。
- ^ “山北町商標「ユーシンブルー」について”. 山北町 (2018年3月29日). 2025年9月15日閲覧。
- ^ 『丹沢今昔』奥野 2004, p. 81
- ^ 『足柄の文化』山北町地方史研究会 1989, p. 80
- ^ 『神奈川県の山』原田 & 白井 2004, p. 29
- ^ 「あおくずれずいどう」の表記も見られる。(『神奈川県の山』原田 & 白井 2004, p. 25)
- ^ “管内林道の通行止め等のお知らせ”. 神奈川県県西地域県政総合センター. 2025年9月15日閲覧。
- ^ 朝日新聞 2013年11月19日 朝刊横浜版 29面
- ^ “県営林道玄倉線の一部 斜面崩落で通行止め「ユーシンブルー」秘境から幻に”. タウンニュース (2018年1月27日). 2025年9月15日閲覧。
- ^ “玄倉林道の歩行者を含めた通行止めについて”. 県西地域県政総合センター (2022年2月2日). 2022年3月25日時点のオリジナルよりアーカイブ。2025年9月18日閲覧。
- ^ “管内林道の通行止め等のお知らせ”. 県西地域県政総合センター (2022年3月31日). 2022年4月5日時点のオリジナルよりアーカイブ。2025年9月16日閲覧。※3月31日には通行止めの記載が削除されている。
- ^ “玄倉治山運搬路の歩行者を含めた通行止めについて(令和4年4月)”. 東京神奈川森林管理署 (2022年4月). 2025年9月16日閲覧。
- ^ “玄倉林道で土砂崩落 県「当面の間、通行止め」”. タウンニュース (2022年10月22日). 2025年9月15日閲覧。
- ^ “玄倉林道通行止め”. 県西地域県政総合センター (2024年4月17日). 2024年7月6日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年9月18日閲覧。※4月17日時点での歩行者通行止めの記載なし。
- ^ “管内林道の通行止め等のお知らせ”. 県西地域県政総合センター (2024年7月3日). 2024年7月6日時点のオリジナルよりアーカイブ。2025年9月16日閲覧。
- ^ “ユーシン渓谷へ続く道の通行について”. 山北町観光協会 (2024年11月22日). 2025年9月15日閲覧。
- ^ “東京神奈川森林管理署”. 関東森林管理局. 2025年9月16日閲覧。
- ^ “通行止め情報”. 県立秦野・西丹沢ビジターセンター. 2025年9月16日閲覧。
- ^ “玄倉川沿い「下山できません」林野庁、丹沢登山者に注意”. カナロコ. 神奈川新聞 (2022年4月29日). 2025年9月16日閲覧。
- ^ a b “ユーシンロッジの利活用に関する提案を募集します”. 神奈川県産業労働局観光部観光企画課 (2015年7月28日). 2019年1月10日時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年8月13日閲覧。
- ^ a b c d 『神奈川県の山』原田 & 白井 2004, p. 27
- ^ a b c “西丹沢・ユーシンロッジ 利活用策の提案を公募”. カナロコ. 神奈川新聞 (2015年8月15日). 2015年8月13日閲覧。
- ^ “ユーシンロッジを利用するには”. 神奈川県観光課 (2016年4月7日). 2018年4月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年8月13日閲覧。
- ^ “神奈川県緊急財政対策本部”. 神奈川県総務局財政部財政課 (2014年2月7日). 2020年3月10日時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年8月13日閲覧。
- ^ “県民利用施設の見直しに関する説明資料”. 神奈川県総務局財政部財政課. 2015年8月13日閲覧。
- ^ “ユーシンロッジの利活用に関する事業候補者の選定について”. 神奈川県産業労働局観光部観光企画課 (2016年1月15日). 2016年3月25日時点のオリジナルよりアーカイブ。2025年9月19日閲覧。
- ^ “「ユーシン」をブランドに 登山者グループ ロッジ再建へ名乗り”. タウンニュース (2016年1月30日). 2025年9月19日閲覧。
- ^ “西丹沢安全登山協力会の投稿”. Facebook (2017年3月20日). 2025年9月19日閲覧。
- ^ “県有施設の見直しに係る整理について”. 神奈川県政策局・総務局 (2022年3月1日). 2025年9月19日閲覧。
- ^ 『続丹沢夜話』シュトルテ 1991, pp. 45–49
- ^ “山行記録: ユーシンで野営”. ヤマレコ. 2025年7月31日閲覧。
- ^ “玄倉ダム”. 神奈川県企業庁企業局利水電気部利水課. 2025年9月17日閲覧。
- ^ “熊木ダム”. 神奈川県企業庁企業局利水電気部利水課. 2025年9月17日閲覧。
- ^ “発電所詳細表示>玄倉第一”. 電力土木技術協会. 2015年8月13日閲覧。
- ^ “発電所詳細表示>玄倉第二”. 電力土木技術協会. 2015年8月13日閲覧。
- ^ “玄倉第1・第2発電所”. 神奈川県企業庁企業局利水電気部利水課. 2025年9月17日閲覧。
- ^ 『続丹沢夜話』シュトルテ 1991, p. 83
- ^ “日本初、県営水力が地域のICT教育を充実<e.CYCLE/神奈川県山北町>”. まち未来製作所 (2024年1月25日). 2025年9月17日閲覧。
関連項目
外部リンク
座標: 北緯35度26分47.7秒 東経139度7分1.4秒 / 北緯35.446583度 東経139.117056度
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