メアリー・グリッグス・バーク
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メアリー・グリッグス・バーク
Mary (Livingston) Griggs Burke |
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生誕 | 1916年6月20日 ミネソタ州セントポール |
死没 | 2012年12月8日 (96歳没) ニューヨーク州マンハッタン |
墓地 | ミネソタ州ラムゼー郡ミネソタ州セントポールオークランド墓地 |
教育 | サラ・ローレンス大学(学士) コロンビア大学(修士) |
職業 | メアリー・アンド・ジャクソン・バーク財団名誉理事長 |
団体 | メアリー・アンド・ジャクソン・バーク財団 |
配偶者 | ジャクソン・バーク |
親 |
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受賞 | 勲二等瑞宝章 |
公式サイト | http://burkecollection.org/ |
メアリー・グリッグス・バーク (1916年6月20日 – 2012年12月8日)は、アメリカ合衆国の日本美術収集家である。彼女はその生涯で50年以上にわたって日本美術を収集し、バーク・コレクションと呼ばれる日本国外の個人としてはもっとも広範囲にわたる日本美術のコレクションを築き上げた。氏のコレクションは膨大なものであったため、マンハッタンのアッパー・イースト・サイドにある自宅隣のアパートメントの専用の一室に収蔵され、専属の学芸員も配置されていた。1985年にはコレクションの一部が東京国立博物館で展示されたが、同館で欧米人の日本美術コレクションが展示されたのはこれが初めてのことであった。氏の死後、バーク・コレクションはメトロポリタン美術館とミネアポリス美術館に引き継がれた。
来歴
メアリーはメアリー・リヴィングストン・グリッグスの名で1916年6月20日にミネソタ州セントポールで生まれた[1]。父はセオドア・W・グリッグス、母はメアリー・スティール・リヴィングストンである[1]。母は初代ミネソタ州知事のヘンリー・ヘイスティングス・シブリーの大姪にあたり[2]、母方の祖父であるクロフォード・リヴィングストンと父方の祖父であるチョウンシー・グリッグスはいずれもセントポール市政初期の指導的立場にあり、銀行業と鉄道業で財を成したという[1][2]、いわばエスタブリッシュメントの家系に産まれた[3]。彼女の育ったセントポールの邸宅はヴィクトリア様式で、多数の18世紀フランス美術品があったが、母は1902年に日本を訪れたことがあり、コレクションにはわずかながら日本の美術品があったほか、ウィスコンシン州の別荘に日本庭園を造園していたという[1]。メアリーの日本美術の原体験は、母が所有していた松の枝の絵があしらわれた黒絹の綿入れを幼少期に見たことであったという[4]。また、親族はおしなべて芸術に対する造詣が深く、祖母はアマチュア画家、伯父は学生時代に日本人留学生と誼があり、その娘のアメリカ留学の世話をしたお礼に「白衣観音図」を贈られている[5]。同作は、辻曰く初期水墨画の重要文化財級の名品であり、1983年にバーク・コレクションに加わっている[5][6]。
1938年にはサラ・ローレンス大学で学士号を取得し、その後コロンビア大学で臨床心理学の修士号を取得した[1]。1955年には書体デザイナーのジャクソン・バークと結婚した[7]。なお、ジャクソン・バークは1975年に死去している[1]。
氏がはじめて日本を訪れたのは1954年のことで、知人のヴァルター・グロピウスの勧めによるものであった[1]。建築家の吉村順三の案内で各地の庭園を見学し、この訪日が氏の日本美術収集のきっかけになった[3]。最初のコレクションは1956年に購入した源氏物語図屏風であり[8]、その後バーク夫妻は1963年から本格的に日本美術を収集し始めた[1]。収集対象は浮世絵から始まり、次第に日本画、書跡、彫刻、漆器、染織品、陶芸と広がっていき[9]、最終的には合計約1,000点、紀元前3000年頃から19世紀にかけておよそ5,000年にわたる時代を網羅する、日本国外では有数の日本美術コレクションを築き上げた[1]。また、収集品の一部には中国、韓国の美術品も含まれている[1]。1965年にはコレクションを保管・展示するためにマンハッタンのアッパー・イースト・サイドにある自宅隣のアパートメントの専用の一室にギャラリーを設置し、専属の学芸員も配置されていた[8][1]。1979年には彫刻ギャラリーと茶室が増設された[8]。ギャラリーの内装は日本美術の展示に適するよう日本的なデザインがあしらわれており、古橋矢須秀がデザインに携わっている[10]。2008年時点では非公開のギャラリーとして、知人や研究者らの事前予約制によってのみ公開されていた[8]。また、1972年には日本美術の収集・管理等のためにメアリー・アンド・ジャクソン・バーク財団を設立し、メアリーは2008年まで理事長を、2012年に死去するまで名誉理事長を努めており、ジャクソンも1975年に死去するまで副理事長を務めていた[11]。
メトロポリタン美術館で1976年から1995年にかけて理事を、1995年から2012年にかけて名誉理事を務めている[12]。また、1985年にはコレクションの一部が東京国立博物館で展示されたが、同館で欧米人の日本美術コレクションが展示されたのはこれが初めてのことであった[1]。1987年には日本国政府から勲二等瑞宝章を授与された[9]。
2012年12月8日にニューヨーク州マンハッタンのアッパー・イースト・サイドにある自宅で死去した。享年は96歳であった[1]。氏が遺したコレクションは、2006年に事前に発表されていた通りメトロポリタン美術館とミネアポリス美術館に分割され[1][2]、2015年3月16日には両館共同でそれぞれへの遺贈の詳細を発表した[13][14]。2024年現在、メトロポリタン美術館に約400点、ミネアポリス美術館に約600点が所蔵されている[15]。
バーク・コレクション
バーク・コレクションの分野は浮世絵、日本画、書跡、彫刻、漆器、染織品、陶芸など広範にわたり[9]、点数にして約1,000点、金額にして数千万ドル相当、紀元前3000年頃から19世紀にかけておよそ5,000年にわたる時代を網羅する、日本国外では有数の日本美術コレクションであった[1]。コレクションの特色として、収集対象が日本美術一本に絞られており、かつ分野・時代ごとに日本美術のおおよその流れを総覧できるような構成になっており[16]、収集品の選択について美術史家の辻惟雄は、日本美術への理解度は日本人収集家に決して劣らず、やや地味ながらも趣味のよいラインナップが特色であると評している[17]。
辻惟雄はバーク・コレクションについて、仏像に関しては飛鳥時代から奈良時代にかけてのものは「豊富とは言い難い」と述べつつも、平安時代後期から鎌倉時代にかけてのものは天部形立像(平安時代後期)や伝快慶作不動明王像、伝快慶作地蔵菩薩像など、辻曰く「重要文化財クラス」のものを多数収蔵していると述べ、アメリカの日本彫刻コレクションとしてはボストン美術館に次ぐ規模だと評価している[18]。また、絵画についても鎌倉時代以降が充実していると述べ、彼女が特に南北朝時代・室町時代の水墨画に強い関心を寄せていたことが伺えると評している[18]。また、コレクション全体の3割は江戸時代の浮世絵と南画であり[8]、辻も近世以降、時代にして安土桃山時代、江戸時代以降のコレクションはそれ以前よりもさらに充実していると評している[19]。
脚注
注釈
出典
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o Fox, Margalit (2012年12月18日). “Mary Griggs Burke, Japanese Art Connoisseur, Dies at 96”. New York Times 2025年8月20日閲覧。
- ^ a b c Ashenmacher, Will (2012年12月8日). “Renowned art collector, St. Paul native Mary Griggs Burke dies at 96”. Pioneer Press 2013年1月3日閲覧。
- ^ a b 辻 2006, p. 28.
- ^ バーク 2005, p. 20.
- ^ a b 辻 2005, p. 14.
- ^ バーク 2005, p. 22.
- ^ “Jackson Burke, designer of type”. The New York Times. (1975年6月2日) 2016年12月17日閲覧。
- ^ a b c d e 婦人画報 2008, p. 70.
- ^ a b c “MASTERPIECES OF JAPANESE ART FROM THE MARY GRIGGS BURKE COLLECTION – The Metropolitan Museum of Art”. 2015年4月2日時点のオリジナルよりアーカイブ。2025年8月20日閲覧。
- ^ バーク 2005, pp. 29–30.
- ^ “Burke Collection|Mary and Jackson Burke Foundation”. Mary and Jackson Burke Foundation. 2025年8月28日閲覧。
- ^ “The Metropolitan Museum of Art archives”. 2025年8月28日閲覧。}
- ^ “Masterpieces of Japanese and Korean Art from Renowned Mary Griggs Burke Collection Donated to Metropolitan Museum of Art and Minneapolis Institute of Arts through Landmark Bequests”. Metropolitan Museum of Art. (2015年3月16日) 2015年3月16日閲覧。
- ^ “Metropolitan Museum and Minneapolis Institute to Share Large Collection of Asian Art”. New York Times. (2015年3月15日) 2015年3月16日閲覧。
- ^ サライ 2024, p. 26.
- ^ 辻 2006, pp. 28–29.
- ^ 辻 2006, p. 30.
- ^ a b 辻 2006, p. 29.
- ^ 辻 2006, pp. 29–30.
参考文献
- 日本経済新聞社 編『ニューヨーク・バーク・コレクション展 : 日本の美三千年の輝き』日本経済新聞社、2005年。全国書誌番号:21000777。
- 辻惟雄『バーク・コレクションの香気』、12-19頁。
- メアリー・グリッグス・バーク『バーク・コレクション――その成り立ち』、20-34頁。
- 「特集 外国人が愛したニッポン メアリー・グリッグス・バーク」『サライ = Serai』第36巻第7号、小学館、2024年、26頁、全国書誌番号: 00075201。
- 「特集 琳派からRINPAへ メアリー・グリッグス・バーク」『婦人画報』第1263巻、ハースト婦人画報社、2008年、70頁、全国書誌番号: 00001812。
- 辻惟雄「ニューヨーク・バーク・コレクション 日本に恋した女性の蒐集」『うえの』第562巻、上野のれん会、2006年、28-30頁、全国書誌番号: 00001812。
外部リンク
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