マウスピース (金管楽器)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/07/18 04:12 UTC 版)

金管楽器におけるマウスピース(英: mouthpiece)は、金管楽器のパーツのうち、奏者の唇と接して音を発生させる部分のこと。
リム (rim) で囲まれた円形の開口部を持ち、カップ (cup) と呼ばれる半球形もしくは円錐形の空洞を介して、先端の窄まった開口部(スロート)が、バックボア (backbone) と呼ばれる先細りの円筒形の管へと続き、本体のテーパー(リードパイプ)と呼ばれる開口部を通じて楽器本体と接続される。
概要
すべての金管楽器は、音を奏者の唇の振動(アンブシュア)によって気柱、つまり楽器内部の空気を振動させることで生じさせる。具体的には、唇をマウスピースに密着させ、息を吹き込む際に唇で振動音を発生させること(いわゆる「バズィング」)で実現する。ほとんどの楽器のマウスピースは楽器本体から取り外すことができる。これは、楽器をケースに収納しやすくするため、同じ楽器でも音質を使い分けられるようにするためといった目的があり、演奏者のアンブシュアを練習するためにマウスピースのみでの「演奏」が行われる場合がある。
マウスピースの形状の違いは同じ楽器を用いた時の音質の違いにつながり、演奏者のアンブシュアに合わせたり、ある特定の音色を出すため、あるいは演奏スタイル(曲のジャンルや吹き方など)に最適化するために選択される。楽器の特性に応じてマウスピースの形状も異なり、例えば、トランペットやトロンボーンのマウスピースが通常半球形であるのに対し、ホルン(フレンチホルン)のマウスピースは円錐形である。低音楽器では、響きを最大にするために、マウスピースも大きくなる。
形状

- リムの内径
- リムの幅
- リムの輪郭
- リムのエッジ
- カップ
- スロート
- バックボア
- シャンク
マウスピースは楽器の響きに大きな影響を与える。影響を与える主な要素としては、カップの形状、バックボアの形状、リムの内径がある。奏者は自分の演奏スタイルに合ったマウスピースを選ぶことが多く、一般的に高音域を重視する奏者はリムの内径が小さいマウスピースを好み、低音域を重視する奏者はリムの内径が大きいマウスピースを好む。カップの深さも金管楽器の音色に大きく影響し、浅いカップは音を "明るく"、つまり上の倍音がより強調され、深いカップは音を "暗く"、つまり下の倍音が強調される。しかし、これらの効果の現れ方は奏者によって異なり、個人的な要因であることも少なくない。
No. | 要素 | 影響 | 標準的なサイズ (トランペット) |
標準的なサイズ (チューバ) |
---|---|---|---|---|
1. | リムの内径 | 内径が大きいほど低音域の響きが良く、より豊かな音が得られる。内径が小さいほど高音域を出しやすくなる。 | 16 mm (0.63 in) | 32 mm (1.3 in) |
2. | リムの幅 | 広いほど唇への圧力が軽減され持久力が向上するが、柔軟性に劣る。 | 5, 6 or 7 mm (0.20, 0.24 or 0.28 in) | 6 mm (0.24 in) |
3. | リムの輪郭 | リムの輪郭が平らであるほど、リムのエッジが鋭くなる傾向がある(次項参照)。 | 多様 | 多様 |
4. | リムのエッジ | リムのエッジが鋭いと音のコントロールが良くなる。エッジがなめらかだと持続力が増す。 | 多様 | 多様 |
5. | カップの深さ | 浅いカップは高音域を出しやすくなる。深いカップは低音域の響きと豊かな音色に貢献する。 | リムの内径の半分程度 | リムの内径の4分の3から2倍程度 |
5. | カップの形状 | 半球形のカップはより明るく、より響き渡る音色を持つ。円錐形のカップは音の明瞭度が低くなる (下記参照)。 | 半球形 | 半球形または円錐形 |
6. | スロートの輪郭 | 半球形のカップでは、スロートの輪郭が鋭いとより硬く響き渡る音色を、丸みのある輪郭はより深く豊かな音色を生み出す。円錐形のカップでは、滑らかなスロートの輪郭の場合、音の輪郭がはっきりしない。 | 比較的鋭い | 比較的丸い |
6. | スロートの内径 | スロート径が大きいほど音量は大きくできるが、コントロール性は低下する。スロート径が小さいほどコントロール性は向上するが、音量には大きな制限がある。 | 3.6 mm (0.14 in) | 7.6 mm (0.30 in) |
7. | バックボア | 円錐形のバックボアが多いほど音色が豊かになり、円筒形のバックボアが多いほど明るく響き渡る音色が得られる。 | 円筒形が多い | 多様 |
注:本表では、
|
素材
マウスピースの素材は、金属かプラスチックのいずれかに大別され、コストや特性、機能に違いがある。金属製のマウスピースは、他の金属でめっきが施されることがある。
真鍮
金管楽器のマウスピースの多くは、本体と同じく真鍮(ブラス)で作られる。真鍮に用いられる銅には過剰摂取した際に毒性があるため、金や銀のめっきが施されていることが多い[1]。
シルバープレート
シルバープレート(銀めっき)はゴールドプレートに比べてコストパフォーマンスに優れ、音質も安定しているため、金管楽器のマウスピースに一般的に用いられる。銀の有する殺菌効果もある。ゴールドプレートよりもクリアで落ち着いた音色を提供し、明瞭さと遠達性を必要とする演奏スタイルに適していると考える人もいる。変色しやすいため、より多くのメンテナンスが必要となる。変色した場合はポリッシュなどで磨くと輝きを取り戻すことができる。
ゴールドプレート
ゴールドプレート(金めっき)はシルバープレートに比べて高価であるが、シルバープレートの持つアレルギー性がなく、変色しないため定期的な洗浄さえすればメンテナンス性に優れているとも言える。ただし、高価なため一般的にはめっきの皮膜が薄く、摩耗により劣化しやすいとも言える。
プラスチック
プラスチック製のマウスピースは主にポリカーボネートで製作され、さまざまな色で作られる。落としても変形しにくく、金属製のマウスピースよりも安価であることから、単体でバズィングの練習用に利用される機会が多い[2]。また、熱伝導率が低く音程が安定しやすいため、屋外で演奏する際によく使用される他、金属アレルギーを持つ者にも適している[3]。
その他
近年では新たな材質として、ステンレス鋼[4]、チタンあるいは木材[5]が用いられることがある。真鍮製と比べてメッキが不要で身体的に安全であるというメリットがある[6]。
大きさ
マウスピースのメーカーはそれぞれ異なるラベル体系を採用している。一般に数字の大小がマウスピースの大小を表すが、数字が大きいほどマウスピースのサイズが大きいとは限らない。アルファベットの符号も同様で、メーカーによって意味が異なる。業界標準として広く認められているものはない。
関連項目
出典
- ^ Murray, W (1900). “Chronic Brass Poisoning”. Br Med J 1 (2057): 1334–6. doi:10.1136/bmj.1.2057.1334. PMC 2506540. PMID 20759038 .
- ^ “ヤマハ | TMPTR - 演奏サポート用品 - 概要”. jp.yamaha.com. 2025年7月15日閲覧。
- ^ “KELLY MOUTHPIECES(ケリー・マウスピース)”. KELLY MOUTHPIECES(ケリー・マウスピース). 2025年7月15日閲覧。
- ^ “Welcome to LOUDMouthpieces.com. Home of the Best Stainless Steel Mouthpieces in the World.”. www.loudmouthpieces.com. 2016年9月25日閲覧。
- ^ “Home”. numouthpieces.com. 2016年9月25日閲覧。
- ^ Mouthpieces, Giddings. “なぜマウスピースのためのステンレス鋼?”. Giddings Mouthpieces. 2025年7月15日閲覧。
外部リンク
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