トンネル電界効果トランジスタとは? わかりやすく解説

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トンネル電界効果トランジスタ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/03/15 14:10 UTC 版)

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トンネル電界効果トランジスタ(トンネルFET、TFET)は、現在は実験段階にあるトランジスタ。その構造はMOSFETと非常によく似ているが、基本的なスイッチング機構は異なっており、低電力エレクトロニクスに対する有望株である。TFETは、従来のMOSFETのように反転層の形成によるスイッチングではなく、障壁を介して量子トンネリングを変調することによりスイッチングする。このため、MOSFETのドレイン電流のサブスレッショルド振幅を室温で約60mV/decade(正確には300Kで63 mV/decade[1])に制限していたキャリアの熱分布であるマクスウェル=ボルツマン分布の裾にTFETは制限されない。この概念はIBMで研究を行っていたチャンらにより提案された[2]。Joerg AppenzellerとIBMの彼の共同研究者は、MOSFETの60mV/decadeの制限より小さいサブスレッショルド振幅が可能であることを初めて実証した。彼らは2004年にチャネルがカーボンナノチューブであり、わずか40mV/decadeのサブスレッショルド振幅であるトンネルトランジスタを作成したと報告している[3]

2015年、カリフォルニア大学サンタバーバラ校のKaustav Banerjeeをリーダーとするチームは、原子的レベルに薄いMoS2を活性チャネル、ゲルマニウムをソース電極とする垂直構造を作製することでトンネルトランジスタを実証した。これはわずか3.9mV/decadeの最小サブスレッショルド振幅であり、室温でドレイン電流の4桁の領域において平均30mV/decadeを示し、0.1Vでスイッチングすることができる[4][5][6]

理論的研究により、論理回路においてMOSFETの代わりに低電圧TFETを用いることでかなりの低消費電力化を実現することができることが示されている[7]

仮定のTFETとMOSFETデバイスのドレイン電流 vs ゲート電圧。TFETは小さな電圧でより高いドレイン電流を得ることができるかもしれない。

従来のMOSFETでは、63 mV/decadeが電力スケーリングの基本限界である。オン電流とオフ電流の間の比(特にサブスレッショルドリーク - 電力消費の主要な要因の1つ)は、スレッショルド電圧とサブスレッショルドスロープの間に比により与えられる。例えば

基本的な横TFETの構造

デバイス動作

このデバイスは真性領域に電子の蓄積が起こるようにゲートバイアスを印加することにより動作する。十分なゲートバイアスにおいては、真性領域の伝導帯がP領域の価電子帯に並ぶとき、バンド間トンネリング(band-to-band tunneling, BTBT)が起こる。P型領域の価電子帯からの電子が真性領域の伝導帯にトンネリングし、電流がデバイスを横切って流れる。ゲートバイアスが減少すると、バンドの位置がずれて電流が流れなくなる。

基本的な横TFET構造のエネルギーバンド図。電子がソース価電子帯からチャネル伝導帯にトンネリングできるために十分なゲート電圧が印加されると、デバイスは「オン」になる。

試作段階

IBMのグループが、MOSFETの60mV/decade限界を下回る電流振幅が可能であることを初めて実証した。2004年、彼らはカーボンナノチューブのチャネルでサブスレッショルド振幅がわずか40mV/decadeであるトンネルトランジスタを報告している[8]

2010年までに異なる材料系で多くのTFETが作製されてきたが[7]、主流な応用に要求される駆動電流で急峻なサブスレッショルドスロープを示すものはまだない。

今後

非常に急峻なドーピング・プロファイルの必要性など、横TFET構造に関連するいくつかの課題を克服するために、二重ゲート薄体量子井戸間TFET構造が提案されている。しかし、このようなデバイスは、デバイス構造中の大きな垂直電界によるゲートリークに悩まされるおそれがある[9]

理論・シミュレーション

2013年に行われたシミュレーションでは、InAs-GaSbを用いたTFETでは理想的条件下で33mV/decadeのサブスレッショルド振幅が可能であることが示された[10]

脚注

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  1. ^ DeMicheli, G.; Leblebici, Y:;Gijs, M.; Vörös, J. (2009). "Nanosystems Design and Technology." Springer. doi:10.1007/978-1-4419-0255-9
  2. ^ Chang, L. L., and L. Esaki. "Tunnel triode—a tunneling base transistor." Applied Physics Letters 31.10 (1977): 687-689
  3. ^ Appenzeller, J. (2004-01-01). “Band-to-Band Tunneling in Carbon Nanotube Field-Effect Transistors”. Physical Review Letters 93 (19). doi:10.1103/PhysRevLett.93.196805. http://link.aps.org/doi/10.1103/PhysRevLett.93.196805. 
  4. ^ Sarkar, Deblina; Xie, Xuejun; Liu, Wei; Cao, Wei; Kang, Jiahao; Gong, Yongji; Kraemer, Stephan; Ajayan, Pulickel M. et al. (2015-09-30). “A subthermionic tunnel field-effect transistor with an atomically thin channel” (英語). Nature 526 (7571): 91–95. doi:10.1038/nature15387. ISSN 0028-0836. http://www.nature.com/doifinder/10.1038/nature15387. 
  5. ^ Tomioka, Katsuhiro (2015-09-30). “Condensed-matter Physics: Flat transistor defies the limit” (英語). Nature 526 (7571): 51–52. doi:10.1038/526051a. ISSN 0028-0836. http://www.nature.com/doifinder/10.1038/526051a. 
  6. ^ “Flat Tunneling Transistor Operates at 0.1 V”. EE Times. 2015. https://www.eetimes.com/document.asp?doc_id=1328443& 
  7. ^ a b Seabaugh, A. C.; Zhang, Q. (2010). “Low-Voltage Tunnel Transistors for Beyond CMOS Logic”. Proceedings of the IEEE 98 (12): 2095–2110. doi:10.1109/JPROC.2010.2070470. 
  8. ^ Seabaugh (September 2013 2013). “The Tunneling Transistor”. IEEE. 2019年1月閲覧。
  9. ^ Teherani, J. T.; Agarwal, S.; Yablonovitch, E.; Hoyt, J. L.; Antoniadis, D. A. (2013). “Impact of Quantization Energy and Gate Leakage in Bilayer Tunneling Transistors”. IEEE Electron Device Letters 34 (2): 298. doi:10.1109/LED.2012.2229458. 
  10. ^ Device Simulation of Tunnel Field Effect Transistor (TFET). Huang 2013

トンネル電界効果トランジスタ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/25 09:27 UTC 版)

トンネル効果」の記事における「トンネル電界効果トランジスタ」の解説

ヨーロッパ研究プロジェクトにより、ゲートチャネル)を熱注入ではなく量子トンネリング制御することにより、ゲート電圧を ~1 ボルトから 0.2 ボルト低減し電力消費量100分の1以下に抑えた電界効果トランジスタ実証された。このトランジスタVLSIチップ英語版)にまでスケールアップすることができれば集積回路電力性能効率大きく向上させることができる。

※この「トンネル電界効果トランジスタ」の解説は、「トンネル効果」の解説の一部です。
「トンネル電界効果トランジスタ」を含む「トンネル効果」の記事については、「トンネル効果」の概要を参照ください。

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