シューアの補題
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/27 21:16 UTC 版)
数学において、シューアの補題(シューアのほだい、英: Schur's lemma)[1]とは、群の表現や代数の表現に関する基本的できわめて有用な定理である。群の場合には、シューアの補題は M と N が群 G の有限次元既約表現加群であり、φ が群の作用と可換な M から N への線型写像とすると、φ は可逆であるか、または φ = 0 である、となる。重要な場合が、M = N で φ が自己準同型のときに起きる。シューアの補題は、イサイ・シューアの名前に因んでいる。彼はこの補題を使い、大直交性定理を証明し、有限群の表現論の基礎を確立した。シューアの補題は、リー群やリー代数へ一般化されており、多くの部分はジャック・ディクスミエによるものである。
代数 A 上の既約加群 M, N の間の A-準同型写像 ρ: M → N の場合、シューアの補題を一言でいうと、準同型写像 ρ は、同型か、または、零準同型であるとなる。特に、ρ ≠ 0 かつ k が代数的閉体で既約加群 M と N が k 上有限次元であれば、M から N への k-準同型写像は ρ のスカラー倍に限ること意味する。
文脈
シューアの補題は有限群の表現論と半単純加群の多元環の研究の基礎の1つである。
有限次元 n のベクトル空間 E における群 G の表現は、G から E の自己同型全体からなる一般線型群 GL(E) への写像 ρ である。1896年の論文[2]においてフェルディナント・ゲオルク・フロベニウス (Ferdinand Georg Frobenius) により開拓されたこの手法は大成功である。
3年後、ハインリッヒ・マシュケ (Heinrich Maschke) はすべての表現は既約表現の直和であることを証明した[3]。表現 (E, ρ) が既約であるとは、部分空間 E と {0} が相異なりかつ G のすべての元 g に対し自己同型 ρ(g) により不変な部分空間がその2つしかないことをいう。マシュケの定理は K の標数が G の位数を割り切らなければ G のすべての表現は既約表現の直和であるという定理である。したがって有限群のすべての表現を知ることはその既約表現を知ることに帰着し、他の表現はそれらの直和として得られる。
シューアの補題は次の重要な結果の証明に本質的な技術的補題である:既約表現は指標により識別でき、これらの指標は pairwise に直交する。このアプローチは有限群の理論に重要な結果をもたらす。これにより最終的に単純群の分類ができるが、位数が奇数のすべての有限群は可解であるというウィリアム・バーンサイドの予想のような結果の証明もできる。この結果はトンプソン (Thompson) が1970年にフィールズ賞を受賞した理由である。
この補題は他の文脈においても有用であるが表現の場合が最も重要である。
加群の言葉による定式化
ρ が R-加群の準同型写像であるという条件は、すべての m, n ∈ M と r ∈ R に対し、
シューアの補題
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/07/15 14:18 UTC 版)
T を群 G の代数的閉体上における有限次元既約表現とすると、すべての T(g) と可換な変換は恒等変換の定数倍に限られる。
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