キューピッドによって結ばれるマルスとヴィーナスとは? わかりやすく解説

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キューピッドによってむすばれるマルスとビーナス【キューピッドによって結ばれるマルスとビーナス】

読み方:きゅーぴっどによってむすばれるまるすとびーなす

原題、(イタリア)Venere e Marte uniti da Amore》⇒ビーナスとマルス


キューピッドによって結ばれるマルスとヴィーナス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/10/28 14:31 UTC 版)

キューピッドによって結ばれるマルスとヴィーナス
イタリア語: Marte e Venere uniti dall'amore
英語: Mars and Venus United by Love
作者 パオロ・ヴェロネーゼ
製作年 1570年ごろ
種類 油彩キャンバス
寸法 205.7 cm × 161 cm (81.0 in × 63 in)
所蔵 メトロポリタン美術館ニューヨーク
本作品と同様の寓意画と考えられている『ヴィーナスとマルス、キューピッド』。1570年ごろ。サバウダ美術館所蔵。
X線撮影。
現在の展示と額縁。

キューピッドによって結ばれるマルスとヴィーナス』(キューピッドによってむすばれるマルスとヴィーナス、: Marte e Venere uniti dall'amore, : Mars and Venus United by Love)は、イタリアルネサンス期の画家パオロ・ヴェロネーゼが1570年ごろに制作した絵画である。油彩。主題はギリシア神話女神アプロディテアレスローマ神話ヴィーナスマルス)の結婚を描いた神話画、ないし戦争に対する愛の勝利を描いた寓意画である[1][2]。ヴェロネーゼを代表するヴィーナスの絵画であり、1570年代に制作した絵画の中で最大の作品の1つである[3]神聖ローマ皇帝ルドルフ2世スウェーデン女王クリスティーナオルレアン・コレクションを経て、現在はニューヨークメトロポリタン美術館に所蔵されている。

制作背景

ヴェロネーゼが本作品を制作した経緯は不明である。1621年までにルドルフ2世が所有したことが知られており、おそらくルドルフ2世か、あるいはその父マクシミリアン2世によって委託されたと考えられている[3]。かつては『知恵と強さの寓意』(Wisdom and Strength)および『美徳と悪徳の間の選択』(The Choice Between Virtue and Vice)とともに、ルドルフ2世のために制作された3点の神話画連作の1つと考えられていたが、現在では否定的である[3]

作品

ヴェロネーゼは庭園内で抱き合うヴィーナスとマルスを描いている。軍馬から降りたマルスは兜を脱ぎ、黄金の鎧と青のマントを身にまとったまま、ヴィーナスのそばの大理石の台座に座っている。ヴィーナスは白いシュミーズを脱いで背後の壁にかけ、豊かな裸体を露わにしているが、マルスは自らのマントでヴィーナスの下半身を覆っている。ヴィーナスの左手はマルスの肩を抱き、右手は自らの胸を掴んでおり、胸からは母乳が流れている。背景にはサテュロス人像柱に支えられたエンタブラチュアの壁があり、画面右奥ではマルスの軍馬がつながれている。画面下に描かれた2人のプットーのうち、画面左下のプットーは恋人であるヴィーナスとマルスのをリボンで結びつけている。これに対して画面右下のプットーはマルスの剣で軍馬を制止している。画家の署名は大理石の台座にある[2]

画家はマルスとヴィーナスの結婚に寓意的な意味を与えている。リボンで結ばれた2人の足は、ヴィーナスの情熱がマルスの武装を解いて家庭と馴染ませることを表している。ヴィーナスの胸から流れる母乳は多産や養育の効果を表し、また娘ハルモニア(調和)の誕生を暗示している[1][3]。対して馬は動物的な情欲の象徴であり[1]、プットーがマルスの剣で軍馬を制止することは情欲の抑制を表している[2][3]。これらの図像によってヴェロネーゼは愛と戦争の結合と調和、愛の文明化の寓意としてマルスとヴィーナスを描き、結婚と多産を称賛している[3]

近年のX線撮影による科学的調査は、ヴェロネーゼが制作の途中で多くの変更を加えたことを明らかにした[3]。もともとヴィーナスの顔は右側を向いてマルスを見下ろしていたが、左側に向きが変更されている。ヴィーナスの肩や首、右腕の位置が細かく調整され、左脚がより適切な位置に移動されている。マルスの右腕もより後ろの位置に再配置されている。画面左下のプットーはすでに描かれていたドレーパリー英語版の上に新たに描かれている[3]

額縁

現在の額縁はおそらく1530年から1540年ごろにヴェネツィアで製作されたもので、ポプラ材に彫刻で装飾されている。額縁のモールディングは、フリーズの四隅に配置したアカンサスの葉の装飾の内側に、楕円形の花のメダリオンのレリーフ装飾が施されている。額縁の深い外形はおそらく建築用の天井モールディングとして生まれたことによる。側面には未完成の部分がある[3]

来歴

本作品はルドルフ2世のコレクションに含まれていた、ヴェロネーゼの他の3点の神話画『知恵と強さの寓意』および『美徳と悪徳の間の選択』、『ヘルメスとヘルセ、アグラウロス』(Hermes, Herse and Aglauros)とともに、プラハの宮殿で飾られていた。絵画はルドルフ2世の死後の1621年のインベントリに記載されたが、1648年のプラハの戦い英語版で略奪されスウェーデンに渡った。その後は女王クリスティーナ、ローマのオデスカルキ家、オルレアン・コレクションなどに所属し[3]、1798年に第3代ブリッジウォーター公爵フランシス・エジャートン、第2代ゴア伯爵ジョージ・グランヴィル・レヴェソン=ゴア、第5代カーライル伯爵フレデリック・ハワード からなるコンソーシアムに売却された[2][3]

翌年、絵画はノーフォークブートン英語版の貴族ヘイスティングス・エルウィン英語版が購入し、1806年にフィリップス英語版で売却した。絵画は初代ウィンボーン男爵アイヴァー・ゲスト英語版によって購入される1866年までロンドンにあり、1903年5月23日にクリスティーズで6,300ポンドで売りに出され、1909年にアッシャー・ヴェルトハイマー(Asher Wertheimer)が購入した。ヴェルトハイマーは翌年、T. J. ブレイクスリー(T. J. Blakeslee)を通じてメトロポリタン美術館に売却した[2][3]

ギャラリー

脚注

  1. ^ a b c 『神話・美の女神ヴィーナス 全集 美術のなかの裸婦1』p.109。
  2. ^ a b c d e Veronese”. Cavallini to Veronese. 2020年8月30日閲覧。
  3. ^ a b c d e f g h i j k l Mars and Venus United by Love”. メトロポリタン美術館公式サイト. 2020年6月7日閲覧。

参考文献

  • 『神話・美の女神ヴィーナス 全集 美術のなかの裸婦1』中山公男監修、集英社(1980年)

外部リンク



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