ガンブルツェフ山脈とは? わかりやすく解説

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ガンブルツェフ‐さんみゃく【ガンブルツェフ山脈】

読み方:がんぶるつぇふさんみゃく

Gamburtsev Mountain Range南極大陸内陸部南極高原氷床下にある山脈1958年旧ソ連探検隊地震波による探査によって発見された。2007年から第4回国際極年一環レーダー探査が行われ、厚さ5キロメートルの氷の下にある、標高4500メートル長さ1200キロメートルに及ぶ山脈であることがわかった


ガンブルツェフ山脈

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/27 04:10 UTC 版)

ガンブルツェフ山脈
所在地 南極大陸東部
位置 南緯80度30分00秒 東経76度00分00秒 / 南緯80.50000度 東経76.00000度 / -80.50000; 76.00000座標: 南緯80度30分00秒 東経76度00分00秒 / 南緯80.50000度 東経76.00000度 / -80.50000; 76.00000
延長 約1200 km
ガンブルツェフ山脈
ガンブルツェフ山脈の位置[1]
プロジェクト 山
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ガンブルツェフ山脈(ガンブルツェフさんみゃく、Gamburtsev Mountain Range[2])とは、南極大陸東部のドームA付近にある、氷河の下に完全に閉ざされた山脈である[3]。日本語ではガンバーツェフと表記することもある[4]ソビエト連邦の地質学者グレゴリー・A・ガンブルツェフ英語版の名にちなんでこの名がつけられた[1][5]英国南極観測局英語版(BAS)のファウスト・フェラッチオリは、この山脈を「地球上で最も未解明な山脈」と表現する[6]

概要

ガンブルツェフ山脈は南極氷床の数百メートルから数キロ下に隠れており[注 1]、長さは約1,200キロメートル[10]、標高は数千メートル程度とされ[注 2]、山脈の規模はアルプス山脈とほぼ同程度の大きさと考えられている[6][11]。風や雪や水による浸食がほとんどなく鋭い峰々をしていて、深い渓谷が交差するように走っている[7]

起源

ガンブルツェフ山脈は、18億〜11億年前のコロンビア大陸パノティア大陸の時代に形成された山脈の上に立っているとみられている[6]ゴンドワナ大陸の分裂期にあたる約2億5000万年前に山脈が形成されたと考えられる[6]。山脈は後に浸食されたが、下のマントルの中に約32キロの深さにまで及ぶ根が残った[6]。その後巨大なリフトが形成され、地球内部の熱が、長く活動を休止していた根の物質を温めた[6]。熱を帯びた物質は膨張してマントルの中を上昇、インド亜大陸が南極大陸から分裂し現在の位置まで北上を開始した約1億年前に山脈は再び隆起を始めた[6]。また、東南極氷床始新世にガンブルツェフ山脈から滑り落ちて形成された[3]。そして約3400万年前には南極氷床が形成され、山脈全体が氷で覆われた[6]。この氷床がなければ、山脈は浸食されてほとんど何も残らなかった可能性もある[6]

観測史

発見

1958年に行われた第3次ソビエト南極探検英語版の際に観測された地震波を元に山脈の存在が確認された[1][12]。しかし発見当初は、およそ10ヶ所程度で地震波が観測されただけで、山脈の詳細については未知のものであった[12]

1974年合同調査

1974年スコット極地調査機関英語版アメリカ国立科学財団デンマーク工業大学英語版による合同調査が行われた[12]。レーダー探査によって調査が行われたが、調査範囲があまりに広く、山脈の立体構造を把握するには至らなかった[12]

南極ガンブルツェフ地方(AGAP)計画

氷床部分を除いた南極大陸の地表部分。

2007年から2009年にかけての国際極年英語版の一環として、ガンブルツェフ山脈の情報収集を目的とするいわゆるAGAP計画(Antarctica's Gamburtsev Province project)という国際計画が実施された[13]。この計画は南極大陸内部に設置された2つのキャンプを拠点に、アメリカイギリスイタリアオーストラリアカナダ中国ドイツ日本フランスロシアから派遣されたスタッフによって行われた[11][8][14]。氷床上空で飛行機から地中レーダー探査を行い、氷床下にある地表のかたちを観測した[11]。この調査のために調査隊が飛行した距離は延べ120,000キロメートル、東南極氷床の内の約20%を探検した[11]。氷床上に20以上の地震計を設置し、氷床を伝わる地震波の測定も行われた[15]

観測結果

2009年1月25日に観測計画の完了が発表された[11]。レーダー探査による氷床内部の観測結果によると、ガンブルツェフ山脈がそれまで考えられていたよりもはるかに起伏の激しい山脈であることが分かった[11][16]。またこの調査によって得られたデータにより、山脈がプレートテクトニクスの活動によって形成され、南西から北東方向に広がっていることが分かった[17]。氷床下に池や川が200以上存在することも確認され、これらが南極氷床の動きに影響を及ぼしていることも分かった[9]。今後の調査目標は、氷床に穴をあけ山脈の土壌のサンプルを採取することである[18]

注釈

  1. ^ 氷床の厚さの数値については資料によって数値が食い違っている。ナショナルジオグラフィックが2011年に報道したところによると約5キロ[6]AFPの2011年報道[7]BBCの2006年報道[3]によると3キロ、アメリカ国立科学財団[8]や英国南極観測局[9]の発表によると4キロとなっている。
  2. ^ 山脈の標高についても資料によって数値が食い違っている。ナショナルジオグラフィック2011年報道では最高峰が約4,500メートル[6]、ナショナルジオグラフィック2010年報道では標高およそ2,600メートル、BBCの2009年報道では2,800メートル[11]、BBCの2006年報道では3,400メートル[3]サイエンティフィック・アメリカンの2008年報道[10]やAFPの2011年報道[7]では2,700メートル、国立極地研究所の発表では標高約1,000メートルから約2,400メートル[4]となっている。

出典

  1. ^ a b c Australian Antarctic Data Centre (2000年1月1日). “Gamburtsev Subglacial Mountains” (英語). Australian Government, Antarctic Division. 2006年12月15日閲覧。
  2. ^ デジタル大辞泉の解説”. コトバンク. 2018年4月30日閲覧。
  3. ^ a b c d Jonathan Amos (2006年12月13日). “Survey targets 'ghost' mountains” (英語). BBC. http://news.bbc.co.uk/2/hi/science/nature/6145642.stm 2006年12月15日閲覧。 
  4. ^ a b 南極氷床下に千四百万年間凍結保存された氷床形成初期の氷河地形”. 国立極地研究所. 2011年12月21日閲覧。
  5. ^ 20 лет открытию Полюса недоступности Антарктиды: Метеорология и Гидрология. 1979, №3. Гидрометеоиздат.” (ロシア語). Arctic and Antarctic Research Institute. 2007年3月10日時点のオリジナルよりアーカイブ。2007年1月26日閲覧。
  6. ^ a b c d e f g h i j k Richard A. Lovett (2011年11月17日). “解明が進む“幻の山脈”ガンブルツェフ”. ナショナルジオグラフィック ニュース. National Geographic. 2023年11月27日閲覧。
  7. ^ a b c 南極の氷河の下にあるガンブルツェフ山脈、起源の謎を解明”. AFPBB news. AFP (2011年11月18日). 2011年12月29日閲覧。
  8. ^ a b "U.S.-led, International Research Team Confirms Alps-like Mountain Range Exists under East Antarctic Ice Sheet" (Press release) (英語). National Science Foundation. 24 February 2009. 2010年1月11日閲覧
  9. ^ a b The science overview - Antarctica's hidden world” (英語). British Antarctic Survey. 2012年1月2日閲覧。
  10. ^ a b Robin E Bell (2008年11月12日). “Dispatches from the Bottom of the Earth: An Antarctic Expedition in Search of Large Mountains Encased in Ice” (英語). Scientific American. 2008年11月12日閲覧。
  11. ^ a b c d e f g 'Ghost peaks' emerge from the ice” (英語). BBC (2009年2月25日). 2009年2月25日閲覧。
  12. ^ a b c d What we know about the Gamburtsevs” (英語). British Antarctic Survey. 2011年12月19日閲覧。
  13. ^ Jonathan Amos (2008年10月14日). “Expedition set for 'ghost peaks'” (英語). BBC News. 2011年12月17日閲覧。
  14. ^ 金尾政紀准教授(地圏研究グループ)が"Antarctic Service Medal of the United States of America"を受賞しました”. 国立極地研究所. 2011年12月21日閲覧。
  15. ^ THE EXPLORATION OF THE SUBGLACIAL GAMBURTSEV MOUNTAINS” (PDF) (英語). British Antarctic Survey. 2012年1月30日閲覧。
  16. ^ 南極、幻の山脈:ガンブルツェフの全貌”. ナショナルジオグラフィック ニュース. National Geographic (2010年1月25日). 2016年6月12日閲覧。
  17. ^ Jonathan Amos (2009年12月18日). “Data to expose 'ghost mountains'” (英語). BBC. http://news.bbc.co.uk/2/hi/science/nature/8420837.stm 2009年12月18日閲覧。 
  18. ^ Researchers Unravel Origins of Antarctica's Ice-Covered Mountains” (英語). The Earth Institute Columbia University (2011年11月17日). 2011年12月17日閲覧。

関連項目

外部リンク



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