オルトメタル化とは? わかりやすく解説

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オルトメタル化

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/08/23 01:46 UTC 版)

オルトメタル化(オルトメタルか、Directed ortho metalation、略称:DoM)とは、アリールリチウム中間体を経て求電子剤指向性メタル化基(direct metalation group、以下DMG基と略する)のオルト位に選択的に置換する、芳香族求電子置換反応のことである[1]。DMG基は通常ヘテロ原子を含んでおり、リチウムとヘテロ原子の相互作用がオルト配向性の要因となる。DMG基としては、メトキシ基、第三級アミノ基、やアミドなどが用いられる。

概要

一般的な原理を下の式に示す。まず、DMG基を導入した芳香族化合物1は、凝集体となっているn-ブチルリチウムのようなアルキルリチウム((R-Li)n)と示される)と相互作用して、中間体2となる。この際DMG基はルイス塩基、リチウムはルイス酸として働く。強い塩基性を持つアルキルリチウムは最も近い位置にあるオルト位のプロトンを引き抜き、アリールリチウム中間体である3を得る。なおこの際、酸塩基相互作用は維持されている。ここで求電子剤を加えると、求電子置換反応が起き、イプソ位に導入されると同時に、リチウムイオンが脱離する。

Scheme 1. オルトメタル化

一般的な活性化基が導入された求電子置換反応では、オルト位とパラ位に同時に求電子剤が置換されるのに対して、当反応を用いると位置選択的にオルト位のみに置換することができる。

Scheme 2. DoMの応用 (ref. Snieckus 1990)

当反応は、1940年頃にゲオルク・ウィッティヒ[2]ヘンリー・ギルマン[3]によって別々に発見された。

利用

オルトメタル化は伝統的にベンジルアミンや第三級アニリンに対して応用される[4]。また当反応は下の図[5]に示したように、エナンチオピュアなベンジルアミン類の合成にも応用できる[6]。この反応では、tert-ブチルフェニルスルホキシドのオルトリチオ化が起こる。芳香族リチウム中間体が求電子剤であるイミンに接近する際、イミンに導入された嵩高いトシル基が不斉誘導の要因となる。

Scheme 3. DoMの応用 ref. Fur 2006

他の応用として、嵩高いtert-ブチル基をオルト位に選択的に導入する反応にも利用できる[7]。(下図参照)リチオ化の段階は芳香族求核置換反応であり、続く芳香族求電子置換反応により、スルホキシドを得る。最後の段階では、求核剤としてtert-ブチルリチウムを加えて再度芳香族求核置換反応をして、アニオン中間体が生成している。

Scheme 4. DOM 応用 ref. Clayden 2006

また、オルトメタル化は鈴木・宮浦カップリングと組み合わせたワンポット合成にも応用できる[8][9]

Directed ortho Metalation-Boronation and Suzuki-Miyaura Cross Coupling of Pyridine Derivatives

チオフェノール誘導体

オルトメタル化は、チオフェノール類から立体障害の大きい配位子を合成する反応にも応用されている[10][11][12][13][14]

関連する反応

メタル化は、必ずしもリチウム中間体を経由する、あるいはオルト配向性であるとは限らない。下式に示したように、N,N-ジメチルアニリンTMEDATMPナトリウム塩、ジ-tert-ブチル亜鉛を加えることでメタ位がジンケート化した錯体であり、安定な結晶である中間体2を得る。この錯体に求電子剤であるヨウ素を加えると、N,N-ジメチルアミノ-3-ヨードアニリンが生成する[15][16] 。つまり、この反応においてはDMG基に対してメタ位に優先的に求電子剤が置換することになる。

Directed Meta Metallation

脚注

  1. ^ Directed ortho metalation. Tertiary amide and O-carbamate directors in synthetic strategies for polysubstituted aromatics Victor Snieckus Chem. Rev.; 1990; 90(6); 879-933. Abstract
  2. ^ G. Wittig et al. Chem. Ber. 1940, 73, 1197
  3. ^ Relative Reactivities of Organometallic Compounds. XX.* Metalation Henry Gilman, Robert L. Bebb J. Am. Chem. Soc.; 1939; 61(1); 109-112. (Article) doi:10.1021/ja01870a037
  4. ^ J. V. Hay And T. M. Harris "Dimethylamino-5-methylphenyl)diphenylcarbinol" Org. Synth. 1973, volume 53, 56. doi:10.15227/orgsyn.053.0056
  5. ^ ヨードベンゼンn-ブチルリチウムとエナンチオピュアな(S)-tert-butyl tert-butanethiosulfinateを加えて反応させ、スルホキシドを得る。再度n-ブチルリチウムを加えて求電子剤であるイミンを加えることで、オルトメタル化反応が進行する。スルホキシドはラネーニッケルによる水素化反応で除く。tsはトシル基、eeは鏡像体過剰率を示す
  6. ^ ortho-Metalation of Enantiopure Aromatic Sulfoxides and Stereocontrolled Addition to Imines Nicolas Le Fur, Ljubica Mojovic, Nelly Plé, Alain Turck, Vincent Reboul, and Patrick Metzner J. Org. Chem.; 2006; 71(7) pp 2609 - 2616; Abstract
  7. ^ Contra-Friedel–Crafts tert-butylation of substituted aromatic rings via directed metallation and sulfinylation Jonathan Clayden, Christopher C. Stimson and Martine Keenan Chemical Communications, 2006, 1393 - 1394 Abstract
  8. ^ Directed ortho Metalation-Boronation and Suzuki-Miyaura Cross Coupling of Pyridine Derivatives: A One-Pot Protocol to Substituted Azabiaryls Manlio Alessi, Andrew L. Larkin, Kevin A. Ogilvie, Laine A. Green, Sunny Lai, Simon Lopez, and Victor Snieckus J. Org. Chem.; 2007; 72(5) pp 1588 - 1594; (Article) doi:10.1021/jo0620359
  9. ^ まず、出発原料であるニコチンアミドsec-ブチルリチウムによりリチオ化され、ホウ酸トリイソプロピルとの反応によりボロン酸エステルを得る。これをピナコールと反応させ、ヨードベンゼンテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)との反応によりカップリング生成物を得る。
  10. ^ Directed ortho-lithiation of lithium thiophenolate. New methodology for the preparation of ortho-substituted thiophenols and related compounds Garret D. Figuly, Cynthia K. Loop, J. C. Martin J. Am. Chem. Soc.; 1989; 111 pp 654-658; (Article) doi:10.1021/ja00184a038
  11. ^ Ortho-Lithiothiophenol Equivalents: Generation, Reactions and Applications in Synthesis of Hindered Thiolate Ligands Eric Block, Venkatachalam Eswarakrishnan, Michael Gernon, Gabriel Ofori-Okai, Chantu Saha, Kaluo Tang, Jon Zubieta J. Am. Chem. Soc.; 1989; 111 pp 658-665; (Article) doi:10.1021/ja00184a039
  12. ^ Directed lithiation of arenethiols Keith Smith, Charles M. Lindsay, Gareth J. Pritchard J. Am. Chem. Soc.; 1989; 111 pp 665-669; (Article) doi:10.1021/ja00184a040
  13. ^ 2-Phosphino- and 2-Phosphinyl-benzenethiols: New Ligand Types Eric Block, Gabriel Ofori-Okai and Jon Zubieta J. Am. Chem. Soc.; 1989; 111 pp 2327-2329; doi:10.1021/ja00188a071
  14. ^ Co-complexes of ortho-dilithiated thiophenol or 2-trimethylsilylthiophenol with lithiated TMEDA molecules: synthesis, crystal structures and theoretical studies (TMEDA = N,N,N′,N′-tetramethylethylenediamine) Alexandra Hildebrand, Peter Lönnecke, Luminita Silaghi-Dumitrescu, Ioan Silaghi-Dumitrescu and Evamarie Hey-Hawkins Dalton Transactions; 2006; 967-974; doi:10.1039/B511827A
  15. ^ Directed meta-Metalation Using Alkali-Metal-Mediated Zincation David R. Armstrong, William Clegg, Sophie H. Dale, Eva Hevia, Lorna M. Hogg, Gordon W. Honeyman, Robert E. Mulvey Angewandte Chemie International Edition Volume 45, Issue 23 , Pages 3775 - 3778 2006 doi:10.1002/anie.200600720
  16. ^ ヘキサン溶媒下で常温にて反応を行う。錯体2において、Zn-C結合の長さは203.5pmで芳香環に対し平行、Na-C結合の長さは269pmで芳香環に対し76°傾いている

オルトメタル化

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/07/18 09:54 UTC 版)

メタラサイクル」の記事における「オルトメタル化」の解説

メタラサイクルは、アリルホスフィンアミン等のアレン含有ドナーリガンドの環化によってもしばしば生じる。初期の例としては、IrCl(PPh3)3の環化による四員環IrPCCを含むIr(III)ヒドリド形成挙げられるパラジウム(II)及び白金(II)は、長い間アゾベンゼンベンジルアミン、2-フェニルピリジンのようなオルトメタル化芳香族リガンド考えられてきた。これらの反応は、ソープ・インゴールド効果を含む置換効果による影響強く受ける。アリル置換基を欠くリガンドは、メチル基活性化によりシクロメタル化されることがあり、その初期の例としてはメチルホスフィンリガンドの内部酸化付加がある。メタラサイクル形成は、分子C-H活性化過程阻害するこのため、オルトメタル化に抵抗性を持つ特殊なピンサー錯体リガンド開発された。

※この「オルトメタル化」の解説は、「メタラサイクル」の解説の一部です。
「オルトメタル化」を含む「メタラサイクル」の記事については、「メタラサイクル」の概要を参照ください。

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