SI接頭語
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/22 23:01 UTC 版)
使用法
デカの綴り
「デカ」の英語表記は、SI公式文書によれば、decaのみである[12]。しかし、アメリカ合衆国においてはNISTがその表記をdekaに定めており[13]、同国においてのみ用いられている表記である。
単独使用の禁止
- 接頭語記号を単独で用いることはできない。
不適の例:周波数は G である。(「周波数は 1 GHz である。」とする。)
不適の例:M 1 ( 1 × 106 とする。)
- 接頭語の名称を単位 1 の名称すなわち”one"という言葉に結合して使うことはできない。
不適の例:one mega 、日本語の場合の不適例: 一メガ または 1 メガ
キログラムの特例
キログラムはSI基本単位の中で唯一接頭語がついており、グラムはその質量の1000分の1として定義されている。しかし、SIでは二重接頭語(合成接頭語)は認めていないので、接頭語はキログラムではなくグラムに対して付けられる。
SI接頭語の書体
接頭語記号は、その前後の文章の様式[注 9]にかかわらず、単位記号と同様に立体で表記され、接頭語記号と単位記号の間に空白を空けずに記載する[16]。
特に、マイクロ (µ) が、しばしば、µ を斜体にして「µ」(例えば、µm)と書かれることがあるが誤りであり、正しくは「 µm 」としなければならない(マイクロ#表記)。
通常のギリシャ文字としての μ(U+03BC
GREEK LETTER SMALL MU, μ)は表示環境によっては斜体で表示されるため、マイクロを示すには µ(U+00B5
MICRO SIGN, µ)を用いる方が良い。
SI接頭語の厳格性
SI接頭語は、厳格に10 の整数乗を意味しているもので、2のべき乗を示すために用いてはならない(例えば、1キロビットは 1000 ビットであって、1024 ビットではない)[17]。
2のべき乗を表すために、別途に、キビ(Ki)= 1024、メビ(Mi)= 1048576 などが定められており(2進接頭辞)、それらを用いるべきである。
接頭語とべき乗との関係
接頭語を付加した単位記号のべき乗について、国際単位系の国際文書は次のように規定している[14]。
接頭語の記号を単位記号に結合して作られたグループは、元の単位の倍量および分量を表す新しい不可分な単位記号を形成し、それらを正または負の指数でべき乗することができる。また、他の単位記号と組み合わせて合成単位記号を形成することもできる[18] |
べき乗を用いた単位の記法は、代数学における次の記法と一見似ているが、SI接頭語+単位記号が「新しい不可分な単位記号を形成」する点で異なる。
代数学の記法例: 4ab3 = 4 × a × b3 ≠ 4 × (a × b)3
接頭語を付した単位の記法例: 4 km3 = 4 × (k × m)3 ≠ 4 × k × m3[注 10]
以上の規定は、簡便に「接頭語は常にべき乗に優先する」と理解してもよい。例えば “km2” は「平方キロメートル」であって「キロ平方メートル」ではない。3 km2 は 3000000 m2 であって 3000 m2 ではないし、もちろん9000000 m2 ではない。
SI接頭語は通常は1000倍ごとのステップとなるが、2の累乗を伴う場合は 1000000(100万)倍ごと、3の累乗を伴う場合は1000000000(10億)倍ごとのステップとなる。
103毎の倍数の推奨
SI接頭語は103毎の倍数となっているものを使用することが推奨される。したがって 1 hm(ヘクトメートル)よりも 100 m とする方がよい。この推奨の例外として実用的に使われている単位にはセンチメートル、立方センチメートル、ヘクトパスカルなどがある。なお、ヘクタール (hect-are)とデシベルは非SI単位であるのでこの例外にも該当しない[注 11][注 12]。
日本では上記の例以外でヘクト・デシ・センチの接頭語を使うことは科学や技術の分野を含めてほとんどないが、国によってはデシメートルが使用されている。
リットルはSI単位ではないが,体積の単位としてしばしば用いられる。このため,リットルと同じ大きさの体積をSI単位を用いて表すために dm3(立方デシメートル)がしばしば用いられる(L=10-3 m3=(10-1 m)3=dm3)。
二重接頭語の禁止
かつては二重接頭語、すなわち複数の接頭語を並べて使用する(「合成接頭語」という。)ことが行われていた。しかしSI導入のときから二重以上の接頭語の使用は禁止され、SI接頭語は単独で用いなければならない[19]。
かつての使用例には次のものがある。1番右のものが現在使われる単位である。
- 1 µmm(マイクロミリメートル)または 1 mµ(ミリミクロン)→ 1 nm(ナノメートル)
- 1 µµF(マイクロマイクロファラド)→ 1 pF (ピコファラド)
- 1 hkm(ヘクトキロメートル)→ 100 km (100キロメートル)
- 1 kMc (キロメガサイクル)→ 1 GHz(ギガヘルツ)
- 1 mmm(ミリミリメートル)→ 1 µm(マイクロメートル)
使われなくなったSI接頭語
かつて使われていた接頭語に「ミリア」(myria, 104) があったが、SIが導入される以前の1935年に廃止された(さらにミリオ (myrio, 10−4) があったとも言われる)。それは、これらの接頭語が3の倍数の累乗のパターンに入っていないことや、これらの接頭語に1文字で割り当てられる記号がない(m は既に使われており、のちに M, µ も使われた。一応ミリアの記号として2文字のmyはあったが)こと、そしてあまり用いられていなかったことのためである。
実際に使用されるSI接頭語の例
- 時間: 秒、ミリ秒、マイクロ秒、およびそれより小さなものは使用される。秒よりも大きな時間には通常は分、時などや指数表記が使用される。また、秒にSI接頭語を付けて「キロ秒」、「メガ秒」のように使うこともできる。
- 長さ: キロメートル、メートル、センチメートル、ミリメートル、およびそれ以下のものが使用される。しかしメガメートル、ギガメートル、およびそれ以上のものが使用されるのはまれである。その大きな長さ(距離)を示すときには天文単位(約150 Gm)、光年(約9.46 Pm)、パーセク(約30.9 Pm)が使用されている。天文単位は非SI単位であるがSI併用単位である。
- ^ 日本国語大辞典、第12巻(せき-たくん)、p.44、1976年4月15日第1版第2刷発行、では、「接頭語」を主見出しにしている。
- ^ 広辞苑 第4版、p.1447、1991年11月15日第4版第1刷発行、においては、「接頭辞」を主見出しにしている。
- ^ ただし、文脈上明らかな場合は、単に「接頭語」と記述している。
- ^ インターネット百科事典ウィキペディアでは、2005年7月から2022年6月までは「SI接頭辞」となっていた。
- ^ 計量法では「接頭語の記号」と規定している。
- ^ ただし計量法では、SI接頭語と組み合わせることができない。
- ^ 計量法上は、特殊の用途のみに用いることができる単位であり、規定の仕方から、SI接頭語と組み合わせることができない。またアールはSI併用単位ではない。
- ^ 国際単位系国際文書では、数字の 1 を「単位 1 の記号」とみなす場合がある。
- ^ この「文章の様式」とは、欧文における立体やイタリック体、斜体のことである。
- ^ SI接頭語の「k」は代数学の変数とは異なり、乗法の単独の要素とはなり得ないが、ここでは説明上、便宜的に記述している。
- ^ ヘクタール(ha)は歴史的にはh(接頭語のヘクト)とアール(a)の組み合わせであるが、現在ではSI単位ではなく、SI併用単位となっている非SI単位である。
- ^ デシベル(dB)は由来としては、d(接頭語のデシ)とベルとの組み合わせであるが、現在では独立したSI併用単位となっている。
- ^ 市民のオーギュスト・サヴィニアン・ルブロンが提案した。
- ^ SI国際文書第9版(2019) p.112
- ^ 計量単位令 別表第四 - e-Gov法令検索
- ^ 計量単位規則 別表第三 - e-Gov法令検索
- ^ SI国際文書第9版(2019) 2.3.4 組立単位、 p.106
- ^ 難かしい公式も樂に覺えられる算術うた繪本(わかもと物識繪本第2輯)、1937年4月
- ^ いいことする? メートル法單位のページの写真
- ^ SI接頭語、追加決定 SI接頭語の名称と記号の決まり方、産総研 計量標準総合センター、2022年11月
- ^ 計量法 第5条第1項
- ^ 計量単位令 第4条第1号 キログラム、分、時、度(角度の計量単位の度に限る。)、秒(角度の計量単位の秒に限る。)、平方メートル、立方メートル、毎秒、毎分、毎時、毎メートル、キログラム毎立方メートル、平方メートル毎秒、キログラム毎秒、キログラム毎分、キログラム毎時、立方メートル毎秒、立方メートル毎分、立方メートル毎時、デシベル、回毎分、回毎時、気圧、質量百分率、質量千分率、質量百万分率、質量十億分率、質量一兆分率、質量千兆分率、体積百分率、体積千分率、体積百万分率、体積十億分率、体積一兆分率、体積千兆分率及びピーエッチを除く。
- ^ 計量単位令別表第5、項番1~4
- ^ 計量単位令別表第5、項番5~10
- ^ http://www.bipm.org/utils/common/pdf/si_brochure_8.pdf (PDF) の94ページ以降、http://www.bipm.org/utils/common/pdf/si_brochure_8_en.pdf (PDF)
- ^ The International System of Units (SI) (PDF) , NIST Special Publication 330, 2008 Edition, p.iii, 第3段落
- ^ a b SI国際文書第9版(2019) p.112
- ^ SI国際文書第9版(2019) p.105、p.112、p.120
- ^ SI国際文書第9版(2019)、 p.112
- ^ SI国際文書第9版(2019) p.112右端注記
- ^ 英語による原文:The grouping formed by a prefix symbol attached to a unit symbol constitutes a new inseparable unit symbol (forming a multiple or sub-multiple of the unit concerned) that can be raised to a positive or negative power and that can be combined with other unit symbols to form compound unit symbols.
- ^ SI国際文書第9版(2019)、p.112、複数の接頭語記号を並置して作られる接頭語記号、すなわち合成接頭語記号を使用することはできない。同様に、合成接頭語名称を使用することも許されない。
- ^ a b c ケン・オールダー、万物の尺度を求めて、p.117、早川書房、2006-03-31初版発行、ISBN 4-15-208664-5
- ^ Culture: Weights and Measures Text 6. Finally, kilometer and myriameter shall be the lengths of 1,000 and 10,000 meters, and shall designate principally the distances of roads.
- ^ Consultative Committee for Units (CCU) Report of the 24th meeting 11. DISCUSSION ON THE POSSIBLE EXTENSION OF THE AVAILABLE RANGE OF SI PREFIXES, pp.23-25, Report of the 24th meeting(8-9 October 2019) to the International Committee for Weights and Measures
- ^ You know kilo, mega, and giga. Is the metric system ready for ronna and quecca? Science,By David Adam,2019-02-14
- ^ Extending the available range of SI prefixes Richard J. C. Brown, Head of Metrology, National Physical Laboratory, UK
- ^ Consultative Committee for Units (CCU) Report of the 25th meeting p.12,p.14, 21-23 September 2021
- ^ SI接頭語の範囲拡張について 産総研、計量標準総合センター、2022-04-13
- ^ International Committee for Weights and Measures Proceedings of Session II of the 110th meeting p.18, 18-20 October 2021
- ^ 臼田孝 (2022年3月16日). “ギガより大きい1クエタ、ナノより小さい1クエクトは何桁の数字? 今年、「新しい数え方」が登場します!”. ブルーバックス. 2022年8月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年8月8日閲覧。
- ^ a b 10の30乗、新呼称「クエタ」 単位飾る新語、データ増に対応(日本経済新聞 2022年8月14日、2022年9月23日閲覧)
- ^ “Draft Resolutions of the General Conference on Weights and Measures (27th meeting)”. BIPM. 2022年3月22日閲覧。
- ^ 臼田孝 (2022年4月18日). “今年登場する新しい数え方「クエタ」や「ロント」は誰がどう決めた? 候補が限定される厳しい命名条件とは?”. ブルーバックス. 2022年8月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年8月8日閲覧。
- ^ “地球の重さは「6ロナグラム」 計量単位に接頭語4種追加”. AFP. 2022年11月19日閲覧。
- SI接頭語のページへのリンク