進化論 進化論と自然科学

進化論

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/23 21:10 UTC 版)

進化論と自然科学

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社会進化論

19世紀後半にハーバート・スペンサーは自然選択説を社会に適用して、最適者生存によって社会は理想的な状態へと発達していくという社会進化論を唱え、ヘッケルは国家間の競争により、社会が発達していくという社会進化論を唱えた。スペンサーは生物は下等から高等へと進歩していくというラマルクを高く評価していたと言われており、進化に目的や方向性はないと考えるダーウィニズムではないと思われる。その主張は優生学とも異なる。その例によくあげられるナチズムは進化論の原理原則とは対立しており、関連付けるのは不可能である。

以下のナチズムの主張は進化論とは全く相容れない。

  • 人為的に他民族を絶滅し、固定化する→分化、多様性や変異の否定
  • 優等人種であるアーリア人と劣等人種であるユダヤ人の生殖では前者の形質が後者に劣ってしまう→適者生存の否定
  • 進化の原動力は意志→適応や順応などの否定

20世紀後半には、エドワード・オズボーン・ウィルソンがその著作『社会生物学』(1975)のなかで、進化論的社会生物学が将来、人間についての社会科学に大きな影響を及ぼすだろうという展望を述べて、大論争をひきおこした。その初期の批判のなかには、ウィルソンや社会生物学の主張をナチズムにむすびつけたものもみられたが、論争を通じて、そうした批判は誤解にもとづくものであることが次第にあきらかになった。この論争の経緯については、社会学者ウリカ・セーゲルストローレがその著作『真理の擁護者たち』(邦訳『社会生物学論争史』)のなかで詳細かつバランスよくまとめている。

進化論と宗教

創造論聖書クルアーンといった経典内の創造主による創造を主張する。創造論については多くの説があるため、項目参照のこと。

「生物は進化する」というテーゼは現在では学会で科学的仮説として受け入れられているが、宗教や国によっては信仰的、社会的に受け入れられているとは限らず、アメリカには進化論裁判の例がある。アメリカ合衆国の南部などいくつかの州では、プロテスタントの一部に根強い聖書主義の立場から進化論が否定されている。ケンタッキー州には、進化論を否定する創造博物館が建てられている。

カトリック教会では1996年10月にローマ教皇ヨハネ・パウロ2世が、「進化論は仮説以上のもので、肉体の進化論は認めるが、人間のは神に創造されたもの」だと述べた。つまり、人間の精神活動の源泉たる魂の出現は、進化論的過程とは関係ないとする限定つきで、進化論をキリスト教と矛盾しないものと認めた。1950年の回勅「フマニ・ゲネリス」(en:Humani generis)でも、生物としての肉体の起源の研究である限りは許容されているが、この回勅の時点では、進化論は未証明の学説とされ否定的に扱われており、進化論を既に実証されたものとして扱う立場が批判されている[9][10]。1958年に刊行されたフランシスコ会訳『創世記』の解説では、進化論が誤りであることが明らかになった、という記述がなされている[11]。その後ヨハネ・パウロ2世の次の教皇ベネディクト16世は「進化論は全ての問いに答えていない」と否定的な認識を示した。しかしさらに次の教皇フランシスコは「神は、自然の法則に従って進化するように生物を創造した」と進化論は創造論と矛盾しない見解を示した[12]

近年アメリカ合衆国のいくつかの州において、創造論が明確に学校教育に持ち込まれようとしている。1980年代には裁判で創造論の理科教育への持ち込みを禁ずる判決が出された。そのために、「神による創造を科学的に解明する」運動が創造科学として湧き上がった。しかし創造科学も創造論と同様に科学ではなく宗教であるという連邦裁判所の判決が下された。 米世論調査企業ギャラップ(Gallup)が2010年2月11日に発表した調査結果によると、進化論を信じていると答えた米国人は40%であり、過去10年間に行われた調査においても、44-47%の人が、神が過去1万年ほどの間に、人間を現在のような形で創造したと信じていると答えている。

その後、創造科学運動は、宇宙や生命を設計し創造した存在を認めるインテリジェント・デザイン説(ID説)を公教育に取り入れようとする動きがある。インテリジェント・デザインでは、極めて精妙な生物の細胞や器官のしくみを例に挙げて、「複雑な細胞からなる生体組織が進化によってひとりでにできあがったとは考えられない。従って創造に際しては『高度な知性』によるデザインが必要であった」といった主張がなされている。また創造科学と同様に創造論に科学的根拠を持たせようと試みているが、運動の中心は「くさび戦術」と呼ばれるものである。これはインテリジェント・デザインの科学的妥当性を立証するのではなく、進化論の不十分な点、まだ説明できない生物の現象を強調する。ジョージ・W・ブッシュは「平等のために進化論のみならずインテリジェント・デザインも学校の理科の時間に教えるべきだ」と述べたが、翌日報道官が撤回した。2005年11月、カンザス州教育委員会は多数決の結果ID説の立場を採り、進化論を「問題の多い理論」として教える科学教育基準を採決した。この決定にあたり、ID説を支持する創造科学者たちを批判するために作られたパロディ「空飛ぶスパゲッティ・モンスター教団」が登場し、ネット世論を大いに沸かせた。インテリジェント・デザインはペンシルベニア州ドーバー学区における裁判で、宗教であり科学ではないと指摘された。

保守的なイスラム教でも進化論は否定される。イスラーム原理主義の方針をとるアラブ イスラーム学院のウェブサイトには進化論を否定する文章が掲載されている[13]。実態は変態に近いと言えるポケットモンスターの進化もハラーム扱いを受け、カードを交換して収集するポケモンカードゲームの遊び方がイスラムで禁じられる賭博にあたるとされたことも併せて、保守的なイスラム諸国ではポケモンのゲームやグッズの販売制限が行われるに至った。詳しくはポケットモンスター#関連事件・批判の「イスラム諸国」の欄を参照。トルコエルドアン政権は2017年、公立学校の義務教育課程で進化論を教えないことを決めた。「進化論の理解には哲学的な素養が必要で、児童・生徒には難し過ぎる」との理由を挙げているが、世俗主義者からは批判が出ている[14]

なお、イスラム系新宗教バハイ教のアブドゥル・バハーも書簡の中で進化論を否定している[15]

エホバの証人も明確に進化論を否定している。

創造論においては、生物の遺伝による変化は認められている。たとえば、色の黒い人からは黒い子供が生まれ、背の高い人の子供は背が高くなることが多いとか、トラライオンは共通の先祖を持ち、一方は縞のある個体群に分かれ、一方はたてがみをもつ個体群に分かれたので、両者は姿が似ており、先祖は同じであろうとか、その程度の考え方は認めている。(つまり創造説を取るが、現生の生物数百万種が一度に創造されたのではなく、ある程度は共通の先祖にさかのぼりうるとしているのである。エホバの証人は、全ての陸上生物はノアの時代の大洪水によって全て滅びたと信じており、ノアの箱舟に乗せられた一つがいずつのみが生き残ったと信じている。その場合、哺乳類だけでも4000種以上もある、全ての陸上動物を一種類ずつ、大型タンカー程度の大きさの箱舟に乗せることなど、物理的に不可能である。よって、すべての種を一つがいずつ乗せたのではなく、ある程度の共通の先祖にあたる動物たち数百種を一つがいずつ乗せたのであるとしていて、現生動物はそれらの子孫たちであるとしている。ただしその場合、たかだか5000年のうちに任意の数百種一つがいずつの動物たちが、現在見られるだけの多様性と個体数に増えていることになり、むしろ進化論者以上に、速い速度での種の変化を支持している事になる。)ただしそのような変化は「進化」ではないとし、例えば、魚類両生類に、爬虫類鳥類になるといった構造器官が根本から変わるような進化は否定している。(ただし、そのような変化と進化の境界線は明確にはしていない。)

法輪功では、進化論否定が中国共産党批判と結びつけて展開されており「大紀元時報」には進化論を否定する記事が掲載されている[16]

このようにアブラハム系を中心として諸宗教からの反対を受けてきた歴史のある進化論であるが、オカルトニューエイジの分野では教義そのものへの取り込みが行われてきた。意識や霊的性質(霊性)の進歩・向上を「進化」と呼称するのが代表的な例である。ルドルフ・シュタイナー[17]ブラヴァツキー夫人のように、著書のなかで神秘学的な教義に基づいた人類進化の過程を記した人物もいる[18]

生物学者の中には敬虔な信仰を持つものもおり、その一部は生物の進化を神の創造の過程と見なしている。この中には遺伝学者テオドシウス・ドブジャンスキー、現代では分子生物学者フランシス・コリンズなどが挙げられる。また他の一部は理神論を信じ、生物の進化と信仰を両立させている。


  1. ^ 『岩波生物学辞典第4版』
  2. ^ リドレー, マーク 著、松永俊男、野田春彦、岸由二 訳「だれが進化を疑うのか」、チャーファス, ジェレミー編 編『生物の進化 最近の話題』倍風館〈ライフサイエンス教養叢書9〉、1984年(原著1982年)。ISBN 4563039276 
  3. ^ Ridley, Mark (2004). Evolution. Blackwell Publishing. ISBN 1405103450 
  4. ^ Barton,Nikolas H., Briggs,Derek E.G., Eisen,Jonathan A., Goldstein,David B. & Patel,Nipam H. 著、宮田隆、星山大介 訳『進化 分子・個体・生態系』メディカル・サイエンス・インターナショナル、2009年(原著2007年)。ISBN 9784895926218 
  5. ^ ドーキンス, リチャード 著、垂水雄二 訳『進化の存在証明』早川書房、2009年(原著2009年)。ISBN 9784152090904 
  6. ^ 2003年11月号『科学』1月号巻頭言 石川統(放送大学(生物学)・東京大学名誉教授)
  7. ^ シリーズ進化学・編者の言葉 岩波書店
  8. ^ 養老孟司、茂木健一郎「原理主義を超えて」『スルメを見てイカがわかるか!』角川書店、2003年、p.100-124頁。 
  9. ^ 『フマニ・ジェネリス』聖ピオ十世会による訳、副題やセクション名の部分は原文にはない)
  10. ^ バチカン公式サイト内の英語版テキスト
  11. ^ フランシスコ会訳聖書「創世記」(1958年12月発行)に付された 創世記解説 には「しかしながら、科学者の考え出す「歴史」は、往々にして誤っていることがある。特に人間の進化については、後に誤りであることが判明した。」とある
  12. ^ 「神は生物を進化するよう造った」 現ローマ法王も肯定 朝日新聞2014年10月30日12時32分
  13. ^ イスラームは、進化論についてどう考えているのでしょうか?
  14. ^ “トルコの学校、消える「進化論」 反イスラムだから?世俗派は反発”. 『朝日新聞』朝刊. (2017年7月24日). http://www.asahi.com/articles/DA3S13052560.html 
  15. ^ 第四部 人間の起源と能力と状態について
  16. ^ 【党文化の解体】第2章(16)「進化論の注入は、無神論と闘争哲学の普及のため」
  17. ^ 高橋巖訳『アカシャ年代記より』国書刊行会、1994年
  18. ^ 大田俊寛『現代オカルトの根源 - 霊性進化論の光と闇』筑摩書房〈ちくま新書〉、2013年。ISBN 978-4-480-06725-8 


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