画面アスペクト比
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映画のアスペクト比
スタンダードサイズ
横縦比が1.375:1または1.33:1の画面サイズのこと。かつての映画の標準サイズだった。
エジソンが採用した横縦比は1.33:1(4:3)で、以来サイレント映画時代は1.33:1だった。トーキー映画の出現で一時期はサウンドトラックによって画面が削られたために1.19:1なども使われたが、1932年に映画芸術科学アカデミーによって1.375:1(4.135:3)に定められ、これが標準となった。そのためアメリカではアカデミー比(Academy ratio)と呼ばれる。ごく最近の映画でも、IMAX映画では1.33:1を採用している(後述)。
(アナログ)テレビ放送の標準画面は1.33:1(4:3)である。
ビスタサイズ
ビスタビジョンサイズとも。横縦比が1.66:1程度の横長の画面サイズのこと。パラマウント映画社が開発したビスタビジョン(VistaVision)方式で得られるもので、撮影時に35mmネガフィルムを横に駆動させる「ビスタビジョンカメラ」を用いてスタンダードサイズの2倍以上の画面面積を使って撮影し、上映用プリントを作成する際には縦駆動のポジフィルムに縮小焼きつけする。その際、スタンダードサイズの画面にレターボックス状態で焼き付けて横長の画面を得る。スタンダードの2倍の面積の画像を縮小することで鮮明な画質を得られるが、1961年以降はフィルムの性能が向上したために撮影時にフレームを確認しながらポスト処理でマスキングする方式に移行した。かつての横駆動ビスタビジョンは、後年にジョン・ダイクストラが「ダイクストラフレックス」として特撮用カメラとして再利用し、その基本性能の良さが再評価された。
ヨーロッパビスタ(1.66:1)とアメリカンビスタ(1.85:1)の2種類がある。日本映画においては大映(現:角川映画)が初めて採用し、アメリカンビスタサイズが用いられることが多い。ハイビジョン放送の画面は1.78:1(16:9)でこの2つの中間である。
スコープサイズ
シネマスコープサイズとも。横縦比がおおよそ2:1以上の横長の画面サイズのことをいう。20世紀フォックス社の登録商標である「シネマスコープ」[注釈 1]の略称である「シネスコ」と呼ばれることが多く[1]、ビスタビジョンより横長の画面の総称としても用いられることが多い(アメリカではワイドスクリーンと呼ばれる)。
劇映画では、ハリウッドによる1953年のアメリカ映画、『聖衣』がシネマスコープの最初の作品[2]。
日本では、1956年12月に新東宝が初めて採用し、「シネパノラミック方式“大シネスコ”」として『明治天皇と日露大戦争』(公開:1957年4月29日)の制作を開始し、「日本最初の大シネスコ遂に出現!」のコピーが新聞各紙に踊った。しかし、その公開前に東映が『鳳城の花嫁』を「東映スコープ」として急遽完成させ、日本初のシネマスコープ映画として公開(1957年4月2日)した。続いて日活が「日活スコープ」、東宝が「東宝スコープ」、松竹が「松竹グランドスコープ」として採用[2]。新東宝も「新東宝スコープ」として制作を続けた。当初、大型映画として画質の良いビスタビジョンを採用した大映も制作費削減のために「大映スコープ」として採用した。
シネマスコープ
横縦比は2.35:1(12:5)。アナモルフィックレンズを使用して左右を圧縮し1.37:1の横縦比でフィルムに記録し、上映時には左右を復元して横長の画像を得る。開発当初の横縦比は2.66:1だったが、第1作『聖衣』は2.55:1であった。もともとは光学サウンドトラックを用いず、パーフォレーションの外側に記録された磁気サウンドトラックで4トラックサラウンドでの上映されることが前提だった。光学サウンドトラックは省略されていたために2.66:1の縦横比となった後、光学サウンドトラックが追加され、縦横比が2.35:1に変更された。アナモルフィック・レンズ特有の問題として歪曲収差がある。レンズの改良や左右幅を圧縮した原版フィルム(インターポジなど)を直接作成出来るデジタルプロセス導入までは画質低下の要因であった。
65mmフィルムを使用したトッドAO方式も同時期の1953年に登場した。それはシネマスコープとの画質の差は歴然であった。そのため、フォックスは55.625mmフィルムを使用し、それを35mmに縮小焼き付けをする「シネマスコープ55」という方式を開発し、『王様と私』など一部の映画で使用したが、画質面でトッドAOに勝てず、カメラも高額であったため、短期間で終焉を迎えた。
テクニラマ
横縦比は2.35:1。テクニカラー社の登録商標。ビスタビジョンと同じく35mmフィルムを水平方向に送って撮影するテクニラマカメラにアナモルフィックレンズを装着して撮影し、縦駆動の35mmポジフィルムに焼き付け、上映時に左右を復元して横長の画像を得る。ビスタビジョンと同じく収録面積が通常の2倍以上あるため画質は非常に鮮明である。テクニラマカメラはビスタビジョンカメラで代用可能。
パナビジョン
Panavision。横縦比は2.35:1から2.4:1。米国パナビジョン社の登録商標。パナビジョン社製のアナモルフィックレンズを使って撮影されたものを「パナビジョン」と称する。
スーパースコープ
RKO製品。スーパー35の原型。35mmのフィルムでスタンダード撮影し、上下をトリミングしてワイドスクリーンの画を得る方式。収録面積が少ないため画質は悪い。
テクニスコープ
スタンダードサイズのフレームを上下に二分割して横長のネガを撮影し上映プリント作成時に左右を圧縮して焼きつけ、シネマスコープと同様に上映し横長画像を得る。撮影用ネガを節約出来、記録映画を中心に用いられた。収録面積が少ないため画質は悪い。
スーパー35
フィルムの左右幅も一杯に使用し、ビデオ化の際の監督の意図と画質を両立させたフォーマットである。
右の画像のように本来はフィルムにはサウンドトラックが付けられている。焼き付け作業を効率化するために通常の撮影時には使用しないサウンドトラックの部分も空けて撮影されるが、スーパー35では撮影時にそのサウンドトラック部分まで使い、大きな映像で撮影する。
そのまま使用すればアスペクト比はサイレント時代のスタンダードサイズと同等になる[注釈 2]が、実際にはジェームズ・キャメロン監督作品で顕著に行われている通り、ソフト化の際にテレビサイズとビスタ、スコープなどワイドスクリーン画面の両方を同時に得るなどの目的で画面上下/左右が切り捨てられることが多かった[注釈 3]。
21世紀に入ってトリミング無く用いられるケースが増加している。パナビジョン製アナモルフィックレンズをスーパー35mm用カメラに装着して撮影する例がある一方、デジタルシネマカメラ撮影に対抗し、スーパー35画面の縦幅を3/4に縮小した“3perfo(3パーフォレーション)”、さらにテクニスコープに準じて2パーフォレーション分を使いスコープサイズを得る“2perfo(2パーフォレーション)”といった、フィルム面積を最大限に用いつつテレビのワイド化にも適合した新方式も登場した。2010年代には「全編フィルム撮影」と謳った作品であっても例外なく現像後のフィルムからデジタル変換するデジタル・インターミディエイトのプロセスを経るようになり、機材・フィルムの改良とも相俟って、小さなコマでも画質の保持が可能になった。またこれらスーパー35系列のフォーマットは無駄になる未露光部分が無いので、フィルムの使用量を減らし予算軽減にも寄与している[注釈 4]。
その他の大画面映画
70mmフィルム
撮影時に、65mmネガフィルムを使う規格と、ビスタビジョンカメラにアナモルフィックレンズを使う規格がある。
65mmネガフィルムを使う規格には、サウンドトラックを付加して70mmにしたトッドAOやスーパーパナビジョン70、さらに撮影時1.25:1のアナモルフィックレンズで圧縮するウルトラパナビジョン70があり、スーパーパナビジョンのアスペクト比は2.06:1、ウルトラパナビジョンは2.75:1である。
ビスタビジョンカメラを使って撮影する規格はスーパーテクニラマ70と呼ばれ、ビスタビジョンカメラに1.5:1のアナモルフィックレンズを装着して撮影する。70mmプリント時のアスペクト比は、2.06:1となる。
フィルム解像度の向上で、1970年代後半以降の70mm映画は35mmシネマスコープネガで撮影し、70mmポジフィルムに焼き付けるものが多い。当時の35mmフィルムは磁気4トラックが上限で、70mm映画で標準であった高音質な磁気6トラックのサウンドも魅力のひとつで、ブローアップ上映が多く行われた。
70mmフィルム映画の種類は次の通り。
- スーパーテクニラマ70
- 詳細は「en:Super Technirama 70」を参照
- テクニカラー社が開発した。横駆動テクニラマのカメラにアナモルフィックレンズをつけて撮影し、後に70mmのフィルムに焼き付ける方式。日本では大映が映画『釈迦』(1961年)で最初に採用したが、焼き付けに手間が掛かることなどから現在では使われていない。なお日本ではテクニラマカメラが使えず、大映がパラマウント社から購入したビスタビジョンカメラで代用した。
- トッドAO・スーパーパナビジョン70
- 詳細は「en:Todd-AO」を参照
- 65mmネガに撮影し、上映プリントは6本のサウンドトラックを持つ70mmポジに焼き付ける。スーパーテクニラマ方式に比べて手間が掛からないのが特長。
- ウルトラパナビジョン70
- 詳細は「en:Ultra Panavision 70」を参照
- トッドAO方式によく似ていて、65mmネガで撮影して70mmプリントを得るのは同じだが、アナモルフィックレンズで左右を圧縮して撮影するところが違う。アメリカMGMが『愛情の花咲く樹』と『ベン・ハー』を撮影するためにパナビジョン社と共同で「MGMカメラ65」として開発した。
- ディメンション150
- 65mmフィルムを使い、70mmに焼き付けする方法は従来と同じだが、人間の視野角の限界である150度までスクリーンを歪曲させて、観客を包み込むような巨大スクリーンで上映する方式。特殊な超広角レンズを使い撮影、上映時にはやはり特殊なレンズを使い、歪曲したスクリーンでも歪みを抑えている。『パットン大戦車軍団』『ウエスタン』などで使用された。
- シネラマ
- 詳細は「en:Cinerama」を参照
- そもそもは後述のように3本のスタンダード35mmフィルムを同期させ、これを湾曲したスクリーンに上映して巨大画像を得ていたが、取り扱いが煩雑になるうえ設備も複雑なものが求められるという欠点があった。このため上記「スーパーパナビジョン70」のシステムを応用して、アナモルフィックレンズを付けたスーパーパナビジョン70方式のカメラで撮影して左右圧縮し、上映時に左右を伸長させて巨大横長画面を得るという方式に替わった。
IMAX
横縦比は1.44:1だが70mmフィルムを横走りで使うことにより70mm映画よりも大きい画面サイズに記録し、専用の劇場「IMAXシアター」で上映を行う。シネラマ以上の巨大な画面は一定の評価を得ておりその画像は非常に鮮明で、とても小さなディテールまで認識することができるため、特に「映像」を主とするエデュケーションコンテンツを得意とする。
シネラマ
厳密には、アスペクト比の規格ではなくスクリーンサイズの規格である。規格は縦9m以上、横25m以上の湾曲したスクリーンである。横縦比は約2.88:1。
初期のシネラマは、図のように同時駆動させた3台の映写機で映写する方式だった[2]。同時駆動させた3台のカメラで撮影された映像を3台の映写機で投影する方式。1955年から1964年まで、帝国劇場において『これがシネラマだ』を初めとして数々の作品で話題をさらったが[2]、非常に高いコストが掛かることや3本のフィルムの境目が見えやすいことにより衰退。中央のカメラを除く左右のカメラは交差しているため、人物同士が向かい合っている場面を横から撮影すると2人ともカメラを向いた状態になるという、構図上の欠点も問題であった。
中期シネラマはスーパーシネラマと呼ばれ、65mmフィルムで撮影した映像を3本のスタンダードフィルムに焼き付け直す方式が取られた。撮影時の問題は解消されたものの、フィルムのつなぎ目の問題は解消されず、プリントにも手間がかかり、衰退した。『西部開拓史』などで使用。
後期シネラマは、70mmフィルムを使用して同じ規格のスクリーンに投影した。70mm版の『これがシネラマだ』も存在する。後期シネラマの第1作は、スタンリー・クレイマー監督の『おかしなおかしなおかしな世界』、代表作としてはスタンリー・キューブリック監督の『2001年宇宙の旅』がある[3]。日本においては、東京帝国劇場、テアトル東京、中日シネラマ、シネラマ名古屋、OS劇場といった、シネラマスクリーンの上映館があったが、すべて廃館となった。
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