生物学 生物学の諸分野

生物学

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/17 03:45 UTC 版)

生物学の諸分野

生物学の諸分野は、各論・方法論・理論の視点から分類できる。各論は研究対象によって、方法論は手法によって、理論は普遍化された学説によって分野名がつけられる。ただしいずれの分野も、程度の差はあれ3つすべての性質をあわせもっているため、分類は便宜的なものになる。例えば、細胞生物学、微生物学、生物物理学、生化学。

各論

生物学的階層性と分野の範囲: 分野は代表的なものを示した。

生物学を大きくふたつに分ける場合、個体の内部の生命現象を解析する方向(=広義の生理学)と、個体間・種間・個体と環境など関係を個体の外に求めてゆく方向(=広義の生態学)がある[20]

また、生物学の各論には、生物の系統分類と生物学的階層性という大きな2つの軸があるとされる。前者によって分類する場合、代表的な分野は、動物学植物学微生物学の3つである[2]。それぞれは系統分類にしたがってさらに細分化できる。動物学の下位には原生動物学、昆虫学魚類学、脊椎動物学などがある。同様に、植物学の下には顕花植物学や樹木学など、微生物学の下にはウイルス学細菌学などがある[2]。これらの分野では、生物の特異性・多様性を重視する流れがある。

一方、対象の大きさ、つまり生物学的階層性(すなわち現象[2])を軸にすると、代表的な分野は、分子生物学・生化学細胞生物学発生生物学動物行動学生態学などがある(図)。生態学は生物群の大きさによって個体群生態学、群集生態学などに分けられる他、対象とする場所を重視する場合は森林生態学や海洋生態学、極地生態学などの名称も用いられる。生物学的階層性は生物の分類に対して横断的であり、生物の普遍性が注目される。この軸では個体レベルを境として大きく2つに分けることができる。この視点から諸分野を見ると、個体レベル以下を扱う分野は分子生物学の影響が強く還元主義的な傾向があり、個体レベル以上を扱う分野は全体論的な傾向がある。動物発生学や植物細胞学などの分野は、この2つの軸を考えるとその領域が把握しやすい。

方法論と理論

方法論は各論分野に必要に応じて導入され、実際の研究を発展させるために必須なものである。理論は抽象化により総合的・普遍的な視点を各論に提供する。

最も古くからある方法論の一つは、生物の分類を扱う分類学である。分類は生物学の基礎であり、進化研究の手がかりにもなる。伝統的には形態に注目して分類されていたが、近年では分子生物学の手法を取り入れた分子系統分類がさかんである。生化学は化学的手法、分子生物学は DNA 操作を使う方法論でもある。分子遺伝学逆遺伝学から発展したゲノムプロジェクトバイオインフォマティクスは、新たな方法論として脚光を浴びている。

生物学の理論としては、遺伝学進化学が代表的である。遺伝学は、遺伝子の機能を間接的に観察するという方法論でもある。遺伝進化の理論は、具体的なレベルでは未だ議論があるが、総論としては生物学に必要不可欠な基盤となっている。

歴史展開による分類

生物学の分類として、記載生物学・比較生物学・実験生物学といった類型化もある。記載・比較・実験は上記のように生物学の基本的な手法なので、このような区分は成立しないことが多いが、むしろ歴史的な展開の中での各部分に対してこの名が使われることがある。それも個々の分野名にこの名を被せる例が多い。

記載生物学は、生物の形や構造を把握し、図や文で記載することを行うのを主目的とする。比較生物学はそれによって知られるようになったものを他の生物のそれと比較することから何かをえようとする。実験生物学は記載や比較では得られない知識を、生物を操作することで得ようとする。従って、生物学はこの順番で発展する。ただし記載はあまりにも最低限基本的な操作なので、これを冠する例はない。記載をしなければそれは科学以前である。

たとえば近世から近代の生物学発展の初期、比較解剖学は極めて重要な分野として独立していた。これは発生学に結びついて比較発生学の流れをつくり、両者融合して比較形態学と呼ばれた。しかしこの分野は内部造反的に実験的手法に頼る実験発生学を生み出す。

あいまいになる諸分野の境界

20世紀に入るまで、各分野はそれぞれ独自の手法や観点で異なる対象を研究し、内容の重複はわずかだった。しかし、20世紀後半の分子生物学の爆発的な発展や顕微鏡などの技術発展により、研究分野はさらに細分化されつつも、それらの境界はあいまいになり、分野の名称は便宜的・主観的なものになってきている。例えば、イモリの足の再生を研究し「再生生物学」という名称を使ったとしても、再生にかかわる遺伝子遺伝学分子生物学、その遺伝子が作る化学物質の性質は生化学、再生する細胞の挙動は細胞生物学組織が正確に再生する仕組みは発生生物学、などさまざまな分野が関連する。このような経緯から、「〜学」という古典的な名称を、「〜生物学」や「〜科学」に変えることも多い。


注釈

  1. ^ biologiaはビオロギアと読む。

出典

  1. ^ a b 平凡社『世界大百科事典』第15巻、p.418【生物学】
  2. ^ a b c d e f g h i 生化学辞典第2版、p.725 【生物学】
  3. ^ Aquarena Wetlands Project glossary of terms.の定義に基づく。
  4. ^ Magner, A History of the Life Sciences
  5. ^ a b 『岩波生物学事典』 第四版、p.760
  6. ^ 『岩波生物学事典』p.33【アリストテレス】
  7. ^ 『ブリタニカ国際大百科事典』第11巻、p221【生物学】
  8. ^ 『岩波生物学事典』【生物学】
  9. ^ 『動物誌』は、翻訳が岩波文庫でも出ている。上・下二巻の大部で(アリストテレース『動物誌 上』1998、ISBN 978-4003860113、および『動物誌 下』1999、ISBN 978-4003860120。岩波文庫)
  10. ^ 『ブリタニカ国際大百科事典』第11巻、【生物学】p.220
  11. ^ 『岩波哲学思想事典』岩波書店 1998年 1371頁【プシュケー】。
  12. ^ Fahd, Toufic. “Botany and agriculture”. p. 815. , in Morelon, Régis; Rashed, Roshdi (1996). Encyclopedia of the History of Arabic Science. 3. Routledge. ISBN 0415124107 
  13. ^ Magner, A History of the Life Sciences, pp 133–144
  14. ^ Sapp, Genesis, chapter 7; Coleman, Biology in the Nineteenth Century, chapters 2
  15. ^ Noble, Ivan (2003年4月14日). “BBC NEWS | Science/Nature | Human genome finally complete”. BBC News. http://news.bbc.co.uk/1/hi/sci/tech/2940601.stm 2006年7月22日閲覧。 
  16. ^ Who coined the term biology?”. Info.com. 2012年6月3日閲覧。
  17. ^ 平凡社『世界大百科事典』第15巻、p.418【生物学】
  18. ^ ブリタニカ国際大百科事典』第11巻、p219【生物学】
  19. ^ Avila, Vernon L. (1995). Biology: Investigating life on earth. Boston: Jones and Bartlett. pp. 11–18. ISBN 0-86720-942-9 
  20. ^ 平凡社『世界大百科事典』第15巻、【生物学】p.419






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