焼入れ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/04 03:55 UTC 版)
適用
鋼種
炭素を含む鉄は、炭素含有量により、0.02%以下のものが鉄(純鉄)、0.02 - 2%のものが鋼、2%以上のものが鋳鉄と分類される[157]。焼入れは、一部鋳鉄に対しても行われるが、主に鋼に対して行われる。鋼は、炭素を主として含む炭素鋼と、性質改善のため炭素以外の元素も特別に加えられた合金鋼に分けられる[158]。
炭素鋼のうち、炭素含有量が0.25%以下を低炭素鋼、0.25 - 0.6%を中炭素鋼、0.6%以上を高炭素鋼などと呼ぶ[159]。焼入れの対象となるのは0.3%以上の中炭素鋼からで、低炭素鋼を焼入れする場合は浸炭焼入れの適用となる[160]。
また、一般に炭素鋼は、炭素含有量0.6%以下のものを構造用鋼として、0.6%以上のものを工具鋼として使用される[158]。日本では、構造用鋼は一般構造用と機械構造用に分けられ、日本工業規格(JIS)の一般構造用圧延鋼材と機械構造用炭素鋼鋼材がそれぞれに対応する[158]。一般構造用圧延鋼材は特に熱処理せずにそのまま使用されることを前提としており、機械構造用炭素鋼鋼材は焼入れを含めた熱処理をされることを前提としている[159]。
工具用鋼は、炭素含有量0.6 -1.5%の炭素工具鋼、炭素工具鋼に合金元素を加えた合金工具鋼、タングステンなどさらに多くの合金元素を加えた高速度鋼の大きく3つに分類される[161]。工具鋼の場合は、高い硬さを利用するために、焼戻しする場合も組織はマルテンサイトのままにして利用される[162]。また、変形や割れなどを避けるため、組織の炭化物が球状化した状態で焼入れする必要がある[163]。そのため焼入れ前には球状化焼なましが行われる[163]。
合金鋼は、合金元素の総量が5%以下のものを低合金鋼、5 - 10%のものを中合金鋼、10%以上のものを高合金鋼と呼ぶ[164]。また、用途別に見ると、構造用合金鋼、合金工具鋼、特殊用途用合金鋼に大別される[159]。焼きを深くまで入れたいときなどに焼入れ性の良い合金鋼が使用される[165]。
前述の通り、A3線あるいはA1線から30 - 50℃高い温度を焼入れ温度とするのが普通だが、高合金鋼使用の場合はさらに高く焼入れ温度を設定する[166]。これは、クロムやモリブデン、タングステン、バナジウムといった合金元素を十分にオーステナイトに固溶させるためで、このような高合金化したオーステナイトの焼入れ焼戻しにより、耐熱性の高く硬い組織が得られる[166]。高速度鋼などでは鋼の溶融温度に近いような1200 - 1300℃を焼入れ温度にする[167]。
鋳鉄は、熱処理せずにそのまま使用するか、応力除去焼なましをして使用する場合が多い[168]。ただし、球状黒鉛鋳鉄のFCD450にオーステンパ処理したものは良好な機械的性質が得られる[169]。オーステンパ処理した球状黒鉛鋳鉄をオーステンパ球状黒鉛鋳鉄と呼び、JISでも規定されている[170]。普通焼入れや表面焼入れなども限定された用途だが適用される[171]。また、鋼を鋳物とした鋳鋼では、内部応力の除去や組織の微細化などの前処理が必要だが、基本的には一般的な鋼材と同様に熱処理がされ、合金鋼鋳鋼などは調質して使用される[172][168]。
製品例
耐摩耗性が要求される軸受や工具、強度と靱性の両立が要求される機械構造用部品や搬送用部品などに焼入れが適用される[173]。実際の製品の例として、以下のような部品や製品で焼入れ処理が施されている[174][175]。
- 自動車のエンジン、パワーステアリング、トランスミッションの部品
- オートバイのチェーンリング
- 農業機械の刈刃、
- スパナ、ドライバーなどの手工具
- エンドミル、ドリル、バイトなどの切削工具
- ねじ切りダイスや深絞り加工機のポンチなどの塑性加工工具
経済規模は、日本金属熱処理工業会の統計によると、2013年の焼入焼戻しの年間加工金額総計は約280億円で、2010年から2013年までの金額の推移をみると、約250億円から約280億円の間で推移している[176]。
注釈
- ^ 本記事では、日本工業規格[1]、学術用語集[3]に準じて「焼入れ」の表記で統一する
- ^ 加工品全体が焼入れ温度に達してから冷却するまでの時間を保持時間と呼ぶ場合もある[40]。
- ^ a b TTT図は、ある温度まで非常に急冷させた後に一定温度に保持し、変態の開始、進行割合、終了の時間とその一定温度の関係を示したもの[49]。CCT図は、一定速度で冷却させて、変態の開始、進行割合、終了の時間と温度の関係を示したもの[49]。実際の冷却はある速度を持っているので、CCT図の方が実際に近い[50]。ただし、等温焼入れを行う場合は、TTT図が条件設定に利用される[51]。また、連続冷却の場合でも実際の冷却は一定速度にはならないので、CCT図も実際の冷却とは異なっている[51]。このように、TTT図もCCT図も、実際の現象と離れた点を含む注意点がある。
- ^ 冷却方法ではなく、高周波焼入れのような表面焼入れなどと区別して普通焼入れとも呼ぶ
- ^ あるいは、ソルバイト組織を得る焼入焼戻しに限って調質と呼ぶ場合もある[77][79]。
- ^ 日本刀の特徴である刀身の反りは、この焼曲りによるものである[147]
出典
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