法の支配 法の支配の概要

法の支配

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/09/07 01:33 UTC 版)

「法の支配」とは、統治される物だけでなく統治する側もまた、より高次の法によって拘束されなければならないという考え方である[1]大陸法的な法治主義とは異なり、法の支配では法律をもってしても犯しえない権利があり、これを自然法憲法などが規定していると考える[1]

  • 法の支配における「法」[注釈 1] とは、全法秩序のうち、「根本法」と「基本法」のことを指す[2]
  • 法の支配は、歴史的には、中世イギリスの「法の優位」の思想から生まれた英米法系の基本原理である[3]
  • 法の支配は、専断的な国家権力の支配、すなわち人の支配を排し、全ての統治権力を法で拘束することによって、被治者の権利ないし自由を保障することを目的とする立憲主義に基づく原理であり、自由主義民主主義とも密接に結びついている[3]
  • 法の支配は、極めて歴史的な概念で、時代や国、論者により異なる様相を呈する多義的な概念である点に留意が必要である[3]

注釈

  1. ^ lawは、ラテン系フランス語起源の単語の多い英語には珍しく、イングランドを支配したヴァイキングデーン人の用いた古ノルド語の「置かれた物」という言葉が語源。それが掟(オキテ)、法という意味となった。イングランド東部にはデーン(北海帝国)支配時代の慣習法などの残ったデーンロー地方がある。
  2. ^ 政治学の項参照。
  3. ^ コーク卿の『英国法提要』・『判例集』は、現在でも法の支配に関する不朽のテキストとされ、ウィリアム・ブラックストンの『イギリス法釈義』は、このコークの法思想を19世紀に継ぐべく書かれた、英国法の体系的なコメンタリーである。イギリスの植民地であったアメリカにおいては、不文法(非成文法)である英国法を知る手段は限定されたものであった中で、『英国法提要』・『イギリス法釈義』はアメリカの法曹に広く読まれるテキストとなり、アメリカ法に強い影響を与えることになる。
  4. ^ 「古き国制」の思想は、古くはジョン・フォーテスキューが主たる論者であり、後にエドマンド・バークの「時効の憲法」(prescriptive Constitution)の思想に引き継がれていくが、バークの時代は法の支配の衰退期とされている。
  5. ^ 庶民といっても、騎士(Knights)と一定の資産を有する「市民」(Burgesses)のことを指す。
  6. ^ 憲法典のないイギリス法の訳語としては、端的に「統治構造」と訳すべきとの者もいる。
  7. ^ 成文憲法典を持つ国では、最高法規である憲法に違背した制定法は無効とされ、裁判所が合憲性を判断する違憲審査制がとられているが、成文憲法典のないイギリスでは当然のことながら違憲審査制はない。成文憲法典のある国での違憲審査制の下では、合憲性判定の基準となる「憲法」は憲法典に限られ、基本法である実質的意義の憲法全てが含まれるわけではないとするのが通説である。
  8. ^ 明治十四年の政変の項を参照。

出典

  1. ^ a b 宇野p58
  2. ^ a b c d 芦部信喜『憲法(新版補訂版)』岩波書店、5頁
  3. ^ a b c d e f g h 芦部信喜『憲法(新版補訂版)』岩波書店、14頁
  4. ^ プラトン著・森進一池田美恵加来彰俊訳『法律(上)』(岩波文庫)255頁
  5. ^ 佐藤幸治『憲法(第3版)』77頁、阪本昌成『憲法理論Ⅰ』59頁
  6. ^ Wormuth, Francis. The Origins of Modern Constitutionalism, page 28 (1949).
  7. ^ 佐藤幸治『憲法(第3版)』77頁
  8. ^ 上掲『現代イギリス法辞典』54頁
  9. ^ 上掲『現代イギリス法辞典』71頁
  10. ^ 上掲『現代イギリス法辞典』142頁
  11. ^ 別冊ジュリスト『英米判例百選(3版)』(有斐閣)90頁
  12. ^ 上掲『現代イギリス法辞典』8頁
  13. ^ a b アメリカ大使館資料室「アメリカ早わかり」『米国の中央政府、州政府、地方政府の概要』 (PDF)
  14. ^ 上掲『現代イギリス法辞典』51~65、127頁
  15. ^ 上掲『現代イギリス法辞典』55頁
  16. ^ 上掲「現代イギリス法辞典」75頁
  17. ^ 上掲『現代イギリス法辞典』66頁
  18. ^ 阪本昌成『憲法理論Ⅰ』59頁
  19. ^ 上掲樋口・129頁
  20. ^ 芦部『憲法(第3版)』岩波書店、15頁など
  21. ^ 佐藤幸治『憲法(第3版)』81頁
  22. ^ 佐藤幸治、田中成明『現代法の焦点』有斐閣リブレ、1987年
  23. ^ 第154回国会「参議院憲法調査会」第2号
  24. ^ 「持続可能な開発のための2030アジェンダ」を採択する国連サミット”. 外務省. 2016年11月30日閲覧。






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