旧車
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/19 18:49 UTC 版)
「旧車」という語がいつ製造された車両を指すのかは、各個人や年齢層によって様々な解釈が存在しており、明確な線引きは事実上存在しない。本項ではそれらの定義に関しても解説する。
定義と同義・類義語
年式の古い車両を「クラシックカー」「ヒストリックカー」[1] などと呼ぶ。どの程度古い車を対象とするかは、製造年代による分類や、「製造されてから○○年以上経った車両」と判断する考え方がある。クラシックカーを用いた公道ラリーを行っている団体のFédération Internationale des Véhicules Anciens (FIVA) では、「生産されてから25年以上経ったもの」を基準としており[1]、FIVAに加盟する日本クラシックカークラブでは1919年から1945年までに生産された車両を主に扱っている[1]。
製造年代によって異なった呼称が使用されることもあり、特に1919年から1930年に製造されたものをヴィンテージカーと呼ぶ場合が多く[注 1]、欧米の自動車愛好家にとってはこの時期に生産された自動車こそが「特定の年代に作られた良いもの(=ヴィンテージ)」という認識が存在していると考えられる(日本では一例として、東京都が1945年(昭和20年)までに製造された自動車をヴィンテージカーとし、自動車税の減免を行っている[2]。さらに古く、第一次世界大戦前に生産された自動車はベテランカーと呼ばれる[注 2]。
このほか、1970年代中期以上前に製造された車を「オールドタイマー」、1970年後期以降のものを「ヤングタイマー」とする呼称もある[3]。オールドタイマーは、旧車愛好者向け雑誌のうちの一つのタイトル(『Old-timer』)にもなっている。
日本における定義
日本で用いられる「旧車」「ノスタルジックカー」といった言葉については、年式に明確な線引きは存在しない。 そのため各個人や専門誌、販売業者などの主観によって、また、ジェネレーションギャップによっても違いが出る。日本における「ヒストリックカー」は、生産台数、生産者や歴代所有者の知名度、有名な出来事・事件・事故との関連、モータースポーツでの活躍歴など、特別に歴史的価値があるものに限定されることがあるが、これも基準が明確ではない。日本クラシックカー協会が主催するイベントの参加基準では、原則的に1975年までに生産された車両としており(2013年現在)[4]、日本車を中心とした自動車愛好家にとっての目安の一端が伺われる。また、サイドカーや一部トライクなど、現在の日本社会において一般的ではない車種も旧車に含まれる場合がある。特殊な例では、しばしばシーラカンスとも例えられる、非常に古い設計のまま近年まで製造され続けていた車種[5]や、生産終了した車種を復刻したレプリカなどを含むかどうかで判断が分かれる。
愛好家
こうした車を好む人々は、生産当時からのオーナーを除き、専門店にて整備済みの中古車を購入したり、未整備の車を購入し自分でレストアしたりすることで車両を入手する。また、経年劣化による故障や問題が発生しやすく、頻繁なメンテナンスを必要とする。修理用の部品は自動車メーカーでの製造が終了し在庫もないものがほとんどなため、町工場などへ特注もしくは自作する、愛好家間で手持ちの部品を売買・交換する、といった手段で融通する場合が多い。こういった情報交換や親睦を目的として、愛好家同士のオーナーズクラブ(例:旧車会[注 3])も存在し、旧車を用いたレースや走行会などが行われることもある。また、そのような車を専門に扱う販売店も全国各地に存在する。
1960 - 1970年代の車は、その当時若者であった世代が所有しているケースが多く見られる。しかしオーナー自身の高齢化や車両の維持が困難なこともあり、諸々の事情から手放す場合も増えている。1980年代の車も、当時所有していた(あるいは幼少期、家族など身近な人が所有していた)オーナーが、近年改めて同じ車種を購入するケースが見られる。これらのケースとはまた違った動機として、より若い世代が自身の年齢より古い年式の車に魅力を感じ、所有するという需要も存在している。
そのほか、1974年(昭和49年)の法改正で全てのガソリンの無鉛化が決定したため(牛込柳町鉛中毒事件を参照)、無鉛化以前に生産された車両の中には燃料を有鉛ガソリンに限定しているものもある。対象車種の場合、無鉛対応エンジンへの載せ替えか無鉛化対策品のバルブシートに打ち換えることが好ましいが、すべてのガソリンが無鉛化された現在、それらの対策が取れない場合は、ガソリンに含まれているバルブシートの汚損や摩耗を防ぐ添加剤や市販のガソリン添加剤に頼る他はない。
補修・カスタム時の現行車両部品の活用
近年、メンテナンス性(経年劣化と部品供給の不安の軽減。その性質上、問題は年々深刻化する傾向を持つ)や日常での使い勝手の向上(基本性能、エアコンやATの装備など)を目的にスワップチューニング(現行車のエンジン・トランスミッション及び制御系統、場合によってはサスペンションにまで手が及ぶ)や大掛かりなボディ補強を行うケースがある。そしてそのような車両は時にチューニング雑誌などで特集され、『OPTION2』の「エボリューションQ」のように当該車両をクローズアップした雑誌記事も存在する。そしてそのような車両をコンプリートカーとして販売する専門店も存在するほか、そこまで大掛かりな作業でなくとも現行車の部品を補修・カスタムに活用するケースは多い。
- ^ 小学館 - 大辞泉 "ビンテージカー" 項目、プログレッシブ英和中辞典 "vintage car" 項目
なお、「ヴィンテージ」とは元来ブドウの収穫に対する言葉で、ブドウの収穫の質・量ともに良かった年のものを「特定の年に作られた良いもの」という意味で使用される。これらが派生してワインを含め、車やジーンズ、ギターなど、ある特定の年代の「よき時代」に生産された物が、長い年月を経ても高い評価を受ける「年代物」といった意味で使用される。 - ^ 欧米の自動車は、自動車史黎明期の1900年代以降、常に進歩・改良が続いており、それらを指標に、乗用車ではクラシックカーについて数年から10年単位での細かなカテゴライズがみられる(ベテラン期とヴィンテージ期の間に、第一次世界大戦直前の「エドワーディアン期」を含めたり、ヴィンテージ期の後に1930年代の「ポスト・ヴィンテージ期」を含めるなど)。第二次世界大戦後の自動車では多くの近代的設計が普遍化し、大戦直前期の過渡的な流線型から、ボディとフェンダーが一体化した広幅の「フラッシュサイドボディ」(ポンツーン・ボディ)へのデザイン合理化、前輪独立懸架の広範な普及、1930年代まで多く見られた木骨構造のボディから全鋼製ボディへの移行、油圧式ブレーキの一般化、量産車エンジンのサイドバルブ式からOHVへの移行などが進んだ。欧米先進国の自動車は、1920年代後期から1950年代初頭にかけて漸進的にこれらの技術進歩を遂げたため、時代の変化を編年的に著述しやすい。これに対して日本では自動車産業の本格的な勃興自体が1930年代と遅く、技術やスタイリングで極度に立ち遅れていたため、各自動車メーカーでは1940年代末期から1950年代中期にかけてこれらの新技術を一気に取り入れていた。ことに1953年 - 1955年頃を境に、それ以前のモデルと以降のモデルとで著しい技術断絶が生じている傾向がある。
- ^ これとは区別し、主に成人で構成される暴走族の一形態「旧車會」について警察庁による実態の把握が行われているが、原則として漢字の旧字体を用いない報道機関などでは両者の表記を混同する傾向も少なくない。
- ^ その自動車の価値に関して無知・無関心であるか、経済的な理由から前所有者が廃車にしてしまうため。
- ^ 極例を示せばトヨタ・2000GTや「ハコスカ」GT-Rなど。
- ^ 例えばハチロク。
- ^ カローラシリーズ、カムリ、プリウス、シビック、アコード、マーチ(欧州名・マイクラ)、三菱・ランサーなど。
- ^ 外国人から見れば「日本に行けば欲しい部品が安く買える」という構図になる。
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