勲章 歴史

勲章

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/08 14:14 UTC 版)

歴史

ディエゴ・ベラスケスラス・メニーナス(部分)。ベラスケスの服にサンティアゴ騎士団の紋章が描き込まれている。ベラスケスが騎士に叙せられた後加筆されたとも云われている。

勲章の起源は中世ヨーロッパの騎士団: Chivalric order: Ordre de chevalerie: Ritterorden)の制度にあるとされている。12世紀、十字軍の遠征に際して編成された騎士団ではメンバーが、騎士団ごとに色や意匠が定められた十字架型の記章を、その騎士団に所属していることを示す標章としてマントに付けるようになった。「騎士団」或は「特定の騎士の地位」を意味するオーダー(: order: ordre: Orden)が、その騎士団の標章のことも示すようになった。

十字軍時代の騎士団は異教徒と戦うための宗教的なものであったが、13 - 14世紀になると世俗的騎士団が君主によって設立されるようになった。世俗的騎士団は団員であることが名誉であるという性格のものであり、加入が認められるということは君主による恩恵であった。君主は自分を支える有力貴族で騎士団を構成し、名誉と特権を与えることにより彼等を手懐けた。つまり騎士団の制度は君主による支配システムの一環であり、騎士団員であることは支配階級の一員であることを意味していた。騎士団員すなわち支配階級であることを示す騎士団勲章は栄誉の証しとなった。このようなわけで、現存する最古の騎士団勲章であるガーター勲章を含む、この時代の勲章には定員があり、与えられる対象は主に王侯貴族であった。その後国家が拡大すると、君主や国家が栄典を与える対象を軍人、政治家、役人、経済人、文化人へと広げる必要が生じ、それら対象者のために等級が増やされた。また、身分の低い者や小さな功績・栄誉を対象として、騎士団勲章と同様の形式であるが、勲爵士団を構成せず功績に対して授与される、メダル等のデコレーションが現れた。[4]

そして、現代では芸能人、スポーツ選手等や社会奉仕活動等あらゆる分野が対象となっている。

東アジアでは、中国魏晋南北朝時代に発達した官吏の品階制度に伴い、や実際に就いている官職の称号(職事官)や官品の等級を示す称号(散官)とは別に、国家に対する勲功を顕彰する「勲官」という称号が与えられるようになった。周辺諸国でもその影響を受け、律令制期の日本では勲位という十二等の数字で示される勲功称号が生じている。しかしこれらはいずれも称号であって、近代西欧の勲章のような標章が伴うものではなかった。

日本では平安時代以降、勲位の制度が廃れたが、中世以降の武家社会では、勲功を挙げたものに対して主君が所領の付与とは別に、「感状」と呼ばれる表彰の書き付けを与えたり、自身が所有する甲冑などの武具、茶器などの手回り品、衣服などを下賜する慣行が見られた。こうした品は勲章と同じように勲功を記念する標章として子孫代々に受け継がれ、先祖の勲功を示す証拠として用いられた。

明治に至り、国家に対する勲功を表彰する制度として勲位が復活されるとともに、西欧の制度に倣って勲章の授与が始められた(その後の歴史については後の節において述べる)。日本の叙勲制度では勲章とは別に記念の品が恩賜されるほか、ヨーロッパでは受章者が死亡すると騎士団勲章の章飾は返還が義務付けられていたが[注 5][10]、日本では名誉の証しとして子孫に受け継がれるなど、武家社会における表彰の名残もある。


  1. ^ ドイツ語では“Orden”と“Ehrenzeichen”を併せてOrden und Ehrenzeichenと称する。
  2. ^ 但し、イギリスではそれらのほとんどが1993年の制度改正で廃止されている[3]
  3. ^ 勲爵士と訳される言葉には他に英語の“Companion”がある。
  4. ^ 法令上は正式なものではない場合もある。
  5. ^ イギリスでは、デコレーションと同様に、遺族による保持が認められるようになったのは第二次世界大戦後である。しかし、一部のものは現在でも返還が義務付けられている[9]
  1. ^ 岩倉・藤樫 第1章
  2. ^ 造幣局百年史 p 101
  3. ^ Duckers Chapter 13
  4. ^ a b c 小川 第II部
  5. ^ 例:小川 P 93 と 君塚 P 16
  6. ^ 栄典制度の在り方に関する懇談会(第2回)議事録(平成12年11月21日)
  7. ^ 小川 p 122
  8. ^ 小川 p 95
  9. ^ 君塚 補論
  10. ^ 君塚 p26
  11. ^ 略小勲章の一覧
  12. ^ 独立行政法人 造幣局 : 略小勲章
  13. ^ 農事功労章”. 在日フランス大使館 (2005年1月26日). 2010年11月6日閲覧。
  14. ^ a b フランス農事功労章受章者協会 (MOMAJ) - <フランス農事功労章 創設の歴史>[リンク切れ]
  15. ^ 衆議院議員 中川昭一 公式サイト : 活動報告(フランスより農事功労章(コマンドゥール)受賞の一コマ)[リンク切れ]
  16. ^ “中川農相、フランスの農事功労章受章 - 東京”. フランス通信社. (2006年5月27日). https://www.afpbb.com/articles/-/2061715?pid=586462 2010年3月11日閲覧。 
  17. ^ Welcome” (フランス語). Encouragement Public. 2023年3月16日閲覧。
  18. ^ 陶芸文化、世界に 島田在住の道川さんにフランス社会功労奨励章”. あなたの静岡新聞. 静岡新聞社. 2023年3月16日閲覧。
  19. ^ 本学卒業生のインド映画女優・舞踊家 板倉リサ氏が、「フランス社会功労奨励章」コマンドゥール(旧 3等・「現」大冠付金章)を受勲されました。”. 武蔵野大学. 2023年3月16日閲覧。
  20. ^ 本学大学院修士課程に在籍中の池田有沙さんが 最年少23歳で仏社会功労 奨励勲章の月桂樹銀賞受賞しました”. 桐朋学園音楽部門. 2023年3月16日閲覧。
  21. ^ 卒業生幕田魁心氏フランス社会功労月桂冠奨励勲章受章/お知らせ”. 書道研究所 大東文化大学. 2023年3月16日閲覧。
  22. ^ 小川 第II部 第6章
  23. ^ Guy Stair Sainty (1991). The Orders of Saint John. The American Society of The Most Venerable Order of the Hospital of Saint John in Jerusalem 
  24. ^ a b Guy Stair Sainty (1991). The Orders of Saint John. The American Society of The Most Venerable Order of the Hospital of Saint John in Jerusalem 
  25. ^ Order Pro Merito Melitensi”. 2020年8月29日閲覧。
  26. ^ 那珂馨『勲章の歴史』雄山閣出版、1973年、203頁。NDLJP:11894505/133 
  27. ^ 那珂馨『勲章の歴史』雄山閣出版、1973年、204頁。NDLJP:11894505/134 
  28. ^ 1967年(昭和42年)、佐藤栄作に贈られた物。国立公文書館所蔵(請求番号:寄贈01877100)。
  29. ^ a b Implementing Rules and Regulations of Executive Order 236 of Executive Order 236”. 2018年7月21日閲覧。
  30. ^ Republic Act No. 646”. 2018年7月21日閲覧。
  31. ^ President Aquino's speech at the International Assembly of the Knights of Rizal”. フィリピン共和国政府. 2016年3月24日閲覧。






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