個体群生態学 個体群生態学の概要

個体群生態学

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/24 23:05 UTC 版)

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一種類の生物を対象とすることで、種生態学と共通するが、種生態学が広くその種の性質や、分布や行動を研究対象にするのに対して、個体群生態学は特定地域の個体全体を対象に、個体数に絡んだ問題を対象に据える傾向がある[1]。もちろん、両者を厳密に区別することは難しい。日本においては、森下正明内田俊郎が創始者であるとされている。

個体群生態学の扱う諸問題

個体群は、ある特定地域の範囲内に生息するある種の生物の個体の総体である[2]。このとき、ある範囲というのは、対象とする種によって考えなければならない。少なくとも、その中でその種の生活が成立する範囲を考えるべきであるが、たとえば繁殖時に集合する動物であれば、その時期には、生活する範囲より、遙かに狭い区域で、十分な個体数を確保できる場合がある。

個体群には個体数あるいは個体群密度、死亡率齢構成などの様々な性質があり、それらは個体群生態学の研究対象である。しかし、個体数は、それ自身が野外では把握の難しいものであり、様々な方法が開発されている。

個体群を構成する各個体間には、一定の関係がある。それによって個体群内の個体の分布様式も変化する。あるいは、個体の分布様式から、個体間の関係を調べる場合もある。

互いに関係を持つ複数種を扱うのは、群集生態学であるが、それを個体群間の関係として扱う場合、個体群生態学の扱う範疇にはいる。

個体数推定

ある生物が、実際にどれだけの個体数があるのかを知ることは、野外では意外に困難なものである。それを行うことを個体数推定という。

全体を肉眼で確認できる場合でも、物陰に隠れる個体を探したり、移動によって同じ個体を複数回数えるなど、間違いの生じる原因は数多い。実際には見えないことの方が多いから、推定するにも特別な方法をとらなければならない。

たとえば湖のある種の魚がどれだけ生息しているかを考えてみる。一番確かなのは水を抜くなりして、間違いなく全個体を確認することである。しかし、それが可能な場所は少ないし、その場合でも、攪乱がひどくて、継続調査をすることができなくなるだろう。

比較的小さい湖で、地形が複雑でなく、条件が一様ならば、網ですくうことで、一定割合の個体を捕獲できるかもしれない。その場合、捕獲率がわかれば、そこから全個体数の推定ができる。

もし、捕獲率がわからなくても、繰り返し捕獲することで、推定が可能である。同じ網を使えば、全個体に対する捕獲率はほぼ一定のはずで、捕獲した魚を別の池にでもおいておけば、捕獲するたびに母集団が減少するから、捕獲数は減少する。この減少割合から、全個体数の推定ができる。

捕獲したものをまた湖に戻さなければならない場合、何らかの標識をつけてから湖に戻すことで、推定できる方法もある。次回の捕獲時に、標識をつけたものがどれだけ混じっているかがわかれば、前回の捕獲数から全個体数が推定できる理屈である。この方法は、標識再捕獲法と呼ばれ、様々な場面で利用される。

その他、対象に応じて、様々な推定方法があり、どれが使えるかは、慎重に判断しなければならない。標識法は、その中では重要な技法で、捕獲した全個体それぞれ別々の標識をつければ、個体識別できるので、より多くの情報が入手できる。

個体群成長

個体群を構成する個体の数を、個体群の大きさと見れば、個体数の増加は個体群の成長と見なすことができる。
個体群成長は、理屈は比較的簡単であり、しかも害虫の増殖の問題等、実用的側面もあることから、古くから理論的、実験的研究の対象となってきた。 生物は、その種によって、様々な方法で繁殖するが、種ごとに繁殖方法が決まっている以上、その増加を計算するのは簡単なことである。大体、親が産む子の数は一定であるので、世代ごとに一定の倍率で増加する。これを計算すると、いわゆる幾何級数的増加となり、とてつもない数が出現する。そのおもしろさから、ねずみ算のように、よく、計算にまつわる面白い話題として伝えられたものである。

実際には、野外では生物の個体数は、長期的にはほぼ一定に保たれていると考えられる。部分的には増加が見られても、それは一定数に落ち着くという見当が得られる。この原因は、個体数が増えれば、餌が少なくなる、互いの存在がじゃまになる、老廃物が蓄積するなど、個体数増加にとって不利な条件がそろってくるからである。これら、密度の増加によって増殖を低下させられることを密度効果という。密度効果を加味すれば、個体群成長は、密度の低いときは高く、密度の増加に従って速度を落とし、最終的には一定数に達してそれ以上は増加しなくなるものと考えられる。 ただし、個体群密度が低くなると、配偶相手の探索や交尾が困難になる他、個体間の協力関係が低下するなど、アリー効果が低下する場合も多く、一概に低密度の時に個体群成長が最大になるとは限らない。

個体群成長を数学的に扱うための基礎となるのがロジスティック式である。これは、1838年ピエール=フランソワ・フェルフルストが人口増加のモデルとして発表したものである。 グラフにすれば、個体数は指数曲線的に増加した後、次第になだらかに定数に近づく、シグモイド曲線を描く。


  1. ^ ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典. “個体群生態学”. コトバンク. 株式会社DIGITALIO. 2022年2月6日閲覧。
  2. ^ 日本大百科全書(ニッポニカ). “個体群”. コトバンク. 株式会社DIGITALIO. 2022年2月6日閲覧。


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