世俗主義 世俗倫理

世俗主義

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/06/09 09:18 UTC 版)

世俗倫理

ホリオークは1896年の著書『イギリスの世俗主義(English Secularism)』で世俗主義を次のように定義した。

世俗主義とは、純粋に人間の顧みるべき問題に基づく人生の義務規範である。そして神学が明確でない、不十分である、頼りにならない、信じがたいと感じる大部分の人を対象とした義務規範である。その基本的な信念は次の三つである。(1)現実的な手段による人生の改善(2)科学は人にとって有益な神だ(3)良いことをなすのは良いことだ。

ホリオークは世俗主義と世俗倫理が宗教的な問題に関わってはならないと考え、強い自由思想と無神論から区別した。この点でイギリスの政治思想家チャールズ・ブラッドローと意見が合わなかった。この意見の不一致は、反宗教運動が必要でないか望ましくないと考える人と、それが必要であると考える人の間で対立し、世俗主義運動を分裂させた。

世俗主義に対する議論

世俗主義の支持者はながらく、近代以降の世俗主義の高まりとそれに並行した宗教の凋落が、啓蒙主義によって人々が宗教と迷信から離れ科学と合理主義の方向を向いたことの不可避的な結果だと主張していた。世俗主義の反対者は世俗的な政府が、それによって解決する以上の問題を引き起こし、したがって宗教的な政府がより望ましいと主張する。一部のキリスト教徒の反対者はキリスト教国の方がより良い信教の自由を与えることができると主張する。証拠として彼らはデンマークフィンランドアイスランドノルウェーを挙げる。それらの国々は教会と国家の繋がりに憲法で言及しているが、より進歩的自由主義的であると認められている。例えばアイスランドは20世紀前半に妊娠中絶を合法化した初期の国の一つであった。フィンランド政府はモスクの建設に資金提供している。世俗主義の支持者はオランダや近年のスウェーデンから反証を挙げる。スウェーデンは2000年に国教を廃止したが、どちらの国も社会的、政治的に進歩的である。またスカンジナビア諸国の社会は世界でもっとも世俗的で、信仰を持っていると答える人が最も低い地域であることを指摘する(無宗教#国別の調査)。この問題は近年、ノルウェーでルーテル派の国教を廃止するかどうかの議論でも取り上げられた。

何人かの近年の評論家は世俗主義を反宗教、無神論、悪魔信仰と混同して批判した。世俗主義という語はアメリカ合衆国の宗教右派からは軽蔑語として用いられている。ベネディクト16世は進行中の世俗化が現代社会の根本的な問題であると宣言して、世俗主義と道徳相対主義をくじくことを教皇政治の目標とした。世俗国家の目的は宗教的に中立であることだが、評論家は宗教の特定の面の抑圧であると主張している。表面上、世俗主義は他の宗教の干渉から守るために、あらゆる宗教を等しく抑圧する。世俗主義の有名な反対者ウィリアム・コノリーは「世俗主義は、宗教的多様性の繁栄を許すための、公共とプライベートな領域を分けるたんなる境界線だけでない。それはそれ自身で無情な追放の運び屋でもある。そして問題のある習慣を人々から隠すような「宗教」の新しい定義を放出する」と述べた。

マルクス主義のような一部の政治哲学は国家や社会に対する宗教のあらゆる影響が好ましくないと考える。旧東ヨーロッパ共産圏諸国のようにその信条を受け入れた国では、信教の自由は当局の認可やさまざまな規制を条件としていた。教会の教義は非宗教的な法律や社会主義のような公式の原則に合致しているかどうか監視されていた。皮肉にも、これは公共の安全と安定のために行われたのだが、これらの政府はしばしば権力を維持するために残忍性も見せた。大粛清文化大革命クメール・ルージュの活動は完全に無神論的な政権の道徳性について頻繁に引用される例である。西側の民主国家では、通常これらの例は完全な信教の自由を侵害していたことを認める。一部の世俗主義者は国家が宗教と全く独立していなければならず、宗教的な機関は政府の干渉から全く自由でなければならないと考えている。政治的な支持を全く持たない教会は「フリー・チャーチ」と呼ばれる。一部の世俗主義者は国が宗教を支援すること(例えば税の免除、「信仰に基づく」教育やチャリティーへの援助)を認めるが、一つの宗教を国教として定めてはならず、戒律の遵守やドグマの立法化をしてはならないと主張する。

論者




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