レーティッシュ鉄道アルブラ線・ベルニナ線と周辺の景観 レーティッシュ鉄道アルブラ線・ベルニナ線と周辺の景観の概要

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レーティッシュ鉄道アルブラ線・ベルニナ線と周辺の景観

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/11/13 03:36 UTC 版)

レーティッシュ鉄道
アルブラ線・ベルニナ線と
周辺の景観
スイスイタリア
アルブラ線、ラントヴァッサー橋の景観
英名 Rhaetian Railway in the Albula / Bernina Landscapes
仏名 Chemin de fer rhétique dans les paysages de l’Albula et de la Bernina
面積 152 ha (緩衝地域 109,386 ha)
登録区分 文化遺産
登録基準 (2), (4)
登録年 2008年
公式サイト 世界遺産センター(英語)
使用方法表示

アルブラ線

レーティッシュ鉄道はスイスのグラウビュンデン州を中心に様々な路線を抱えている同国最大級の私鉄である[注釈 2]。そのうちのアルブラ線はクールサンモリッツを結ぶ路線で、開通は1904年のことである[2][3]。アルブラ線は89kmの路線だが[4]、世界遺産に登録されているのはトゥジス英語版からサンモリッツまでの67km(支線含む)で、687m(トゥジス)から1,819m(アルブラ峠)までの高低差を最急勾配35で走行する[2]。開通時に狭軌世界最長だったアルブラ・トンネル英語版(全長5,866m)、アルブラ線内で「最も有名な景観群のひとつ」[5]といわれるラントヴァッサー橋、それよりも高いソリス橋英語版(高さ87m)などの特徴的な構造物を含み[4]、アルブラ渓谷の自然景観とともに路線の見所を形成している[3]

ベルニナ線

ベルニナ線はサンモリッツからティラーノまでの61km[注釈 3]の路線で、開通は1910年のことであった[5][3]。当初はレーティッシュ鉄道とは別個の鉄道だったが、第二次世界大戦の影響をうけて経済的に厳しい状態になったことから、1944年にレーティッシュ鉄道の一部となった[5][6]。429m(アッダ)から2,253m(ベルニナ峠)までの高低差を最急勾配70‰で走行する[5]。ラック式を使わない代わりに、オープンループやヘアピンカーブを多用しており、途中のオスピツィオ・ベルニナ駅は、粘着式鉄道のヨーロッパの駅としては最高地点である[7]。オスピツィオ・ベルニナ駅は氷河湖ラーゴ・ビアンコの湖畔にあり、森林限界を越えた周辺ではモルテラッチュ氷河やカンブレナ氷河などを見ることができる[8][9]。ベルニナ線の車窓から見られる景観は「欧州車窓展望ベスト10」(トーマス・クック・グループ)にも選出されている[9]

登録経緯

世界遺産登録に向けたキャンペーンを行なっていたときの車両
レーティッシュ鉄道の路線図。青い線の一部 (Thusis - St.Moritz) と茶色の線が世界遺産登録範囲

レーティッシュ鉄道アルブラ線・ベルニナ線の登録に当たっては、鉄道会社だけでなく、国家、地域、地元の各レベルの関係者も参画しているスイス・イタリアの国際的な保存管理団体が設立されており[10]、「国境を越える世界遺産」の保存管理のあり方として、その規模の大きさや管理の徹底性が評価されている[11]

こうした動きを踏まえ、この物件が世界遺産の暫定リストに登録されたのは2004年12月28日のことであり、正式に推薦されたのは2006年12月21日のことであった[2]。推薦時の名称は「レーティシュ鉄道アルブラ線・ベルニナ線と周辺の文化的景観」(Rhaetian railway in the Albula / Bernina Cultural Landscapes[2] ; Le chemin de fer rhétique dans le paysage culturel de l’Albula et de la Bernina[12]) となっていた。

世界遺産委員会の諮問機関である国際記念物遺跡会議 (ICOMOS) は、国際産業遺産保存委員会 (TICCIH) や歴史的庭園・文化的景観に関する国際科学委員会 (International Scientific Committee on Historic Gardens and Cultural Landscapes) などの意見も仰ぎつつ、勧告書を作成した。その内容は、推薦物件の世界遺産としての顕著な普遍的価値を認め、世界遺産リストへの「登録」を勧告するものではあったが[13]、周辺で文化的景観を形成していると認められる地域が世界遺産の範囲ではなく、緩衝地域に含まれていることを理由に、名称から「文化的」の語を除外することもあわせて勧告した[14]

2008年の第32回世界遺産委員会の審議では、この勧告を踏襲する形で登録された。このため、世界遺産としての正式登録名は、Rhaetian Railway in the Albula / Bernina Landscapes (英語)、Chemin de fer rhétique dans les paysages de l’Albula et de la Bernina (フランス語)となった。その日本語訳は資料によって以下のような違いがある[注釈 4]

  • レーティシュ鉄道アルブラ線・ベルニナ線と周辺の景観 - 日本ユネスコ協会連盟[15]
  • レーティッシュ鉄道アルブラ線、ベルニナ線と周辺の景観 - 正井泰夫[16]
  • レーティッシュ鉄道アルブラ線とベルニナ線の景観群 - 古田陽久古田真美[17]
  • アルブラとベルニナの景観とレーティッシュ鉄道 - 世界遺産アカデミー[6]
  • レーティシュ鉄道のアルブラ線とベルニナ線の文化的景観 - 谷治正孝[18]

この物件は、ゼメリング鉄道オーストリア、1998年登録)、インドの山岳鉄道群インド、1999年登録、2005年・2008年拡大)、ブダペスト地下鉄1号線ハンガリー、2002年[注釈 5])などに続く鉄道の世界遺産である。また、スイスとイタリアが共有する初の世界遺産となった[19]


注釈

  1. ^ この記事のテンプレート内の152haという数値は世界遺産センター概要ページ(2013年10月31日閲覧)に記載されているものだが、ICOMOSの勧告書では面積152.4haとなっていた。
  2. ^ 長くスイス最大の私鉄であったが、2006年BLS AG発足後は同鉄道がスイス最大の私鉄となっている
  3. ^ ICOMOS (2008) p.208 では61kmとなっているが、小林 (2009) p.125 では60.7kmとなっている。
  4. ^ レーティシュ / レーティッシュの区別などは出典のまま。なお、登録経緯からすれば「文化的景観」という意訳はそぐわないものではあるが、それらもすべて出典のまま示す。
  5. ^ 「ブダペストのドナウ河岸とブダ城地区」(1987年登録)が、2002年にアンドラーシ通りを加える形で拡大登録され、「ブダペストのドナウ河岸とブダ城地区およびアンドラーシ通り」と名を変えた。ブダペスト地下鉄1号線はアンドラーシ通りの地下を走っており、拡大登録理由のひとつとなった。櫻井 (2013) のようにこれを鉄道の世界遺産に含めている文献がある一方で、これを含めずにレーティッシュ鉄道をゼメリング鉄道、インドの山岳鉄道群に続く3例目の鉄道の世界遺産としている文献も複数ある(西村・西川 (2009) p.20、地球の歩き方編集室 (2009) p.40、小林 (2009) p.125)。世界遺産登録名に「鉄道」(Railway / Chemin de fer) と明記されている物件という意味では、確かにこれが3例目である。

出典

  1. ^ a b c d e ICOMOS (2008) p.213
  2. ^ a b c d ICOMOS (2008) p.207
  3. ^ a b c d 長 (2010) p.222
  4. ^ a b 小林 (2009) p.127
  5. ^ a b c d ICOMOS (2008) p.208
  6. ^ a b 世界遺産アカデミー監修 (2012) 『すべてがわかる世界遺産大事典・下』マイナビ、p.186
  7. ^ 小林 (2009) pp.125-126
  8. ^ 櫻井 (2013) p.36
  9. ^ a b 小林 (2009) p.126
  10. ^ ICOMOS (2008) p.214
  11. ^ a b c 西村・西川 (2009) p.20
  12. ^ ICOMOS (2008) p.276 (français)
  13. ^ ICOMOS (2008) p.215
  14. ^ ICOMOS (2008) p.216
  15. ^ 日本ユネスコ協会連盟監修 (2009) 『世界遺産年報2009』日経ナショナルジオグラフィック社、p.4
  16. ^ 正井泰夫監修 (2009) 『今がわかる時代がわかる世界地図・2009年版』成美堂出版、pp.152, 155
  17. ^ 古田陽久 古田真美 監修 (2011) 『世界遺産事典 - 2012改訂版』シンクタンクせとうち総合研究機構、p.85
  18. ^ 谷治正孝監修 (2013) 『なるほど知図帳・世界2013』昭文社、p.151
  19. ^ のちにスイスの世界遺産だったサン・ジョルジョ山がイタリア領内にも拡大登録された(2010年)。また、2011年登録のアルプス山脈周辺の先史時代の杭上住居群は両国を含む6か国で共有する世界遺産である。
  20. ^ 櫻井 (2013) p.34
  21. ^ a b 32COM 8B.38 : Examination of nomination of natural, mixed and cultural proprerties to the World Heritage List - Rhaetian Railway in the Albula/Bernina Landscapes (SWITZERLAND / ITALY)(2013年10月31日閲覧)より翻訳の上で引用。


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