ランバ (まとい布) ランバ (まとい布)の概要

ランバ (まとい布)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2016/07/23 02:16 UTC 版)

マラバリというチュニックの上にランバ・アリンヂャヌをまとったサカラヴァ人の男性

ランバの素材は多様である。用途によっても異なる。日常使うランバは、ラフィア椰子繊維、豚皮、綿、靭皮繊維などから作られる。また、埋葬や先祖供養の祭り(ファマディハナ)においてランバは重要な役割が与えられており、この時に用いられるランバは、コブウシの皮で作られていることが多い。色柄もさまざまであり、雑然とした絞り染めや、純白のものから、赤白黒のストライプが入ったものに至るまで、豊富な種類のものをマダガスカル全土で目にすることができる。サカラヴァ人の村では、緑と茶色をしたユニークな形の幾何学模様のランバが織られる。メリナ人の元貴族たちは、複数の色を用いた鮮やかな色彩で複雑に織られたランバを好む[2]。こんにちでは、これら地元で手織りされたランバに加えて、綿やレーヨンでできたインド製のランバが、マダガスカルの市場のそこかしこで売られている[3]

なお、ランバという呼び名は、マダガスカル中で伝統的に生活必需品となっている衣服の、中央高地地方における呼び名(方言)である。このまとい布は、地方ごと/エスニックグループごとに呼び名が異なる。例えば、マダガスカル島西部のある地方では "simbo" と呼ぶ[4]。本項では中央高地のメリナ人の呼び名「ランバ」で代表させた。また、体への巻き付け方も地方ごとに、さまざまな異なる作法がある[4]

マダガスカル文化における位置づけ

ランバメナを売る店

布の色、柄、素材にもさまざまな種類がある。絹で織られた「ランバメナ」 "lambamena" は、亡くなった家族を先祖代々の墓に入れる際、遺体をくるむのに使う。また、婚約のときに男女でランバを交換することを伝統としているエスニックグループもある。また、外交儀礼上の贈り物として用いられることもある。スミソニアン国立アフリカ美術館に展示されている一対の「ランバ・アクトゥファハナ」"lamba akotofahana" は、1886年にマダガスカル女王ラナヴァルナ3世からアメリカ合衆国大統領グロヴァー・クリーヴランドに贈られたものである。片方は色とりどりに細かく装飾されており、もう一つは白地に白の模様が編みこまれている[5]

ランバ・アクトゥファハナは、アンヂアナと呼ばれるメリナ人の貴族制と密接に結びついた服飾である。いくつもの綜絖を用いて色とりどりの複雑な幾何学文様を織りあげていくという機織り技術は、マダガスカルにおいてはメリナ人だけが持っていた。ランバ・アクトゥファハナは、アンヂアナの威信を顕著に可視化した。しかしながら、フランス植民地時代においては、このような身分の可視化は抑制された。王国時代同様、込み入った模様を織りあげる文化は維持されたが、民族的出自や階級的出自をあまり明瞭に示さない、白地に白のデザインとなった[6]

2010年現在では、伝統的で色鮮やかなランバ・アクトゥファハナへの興味と需要が、島外で成功した裕福なマダガスカル出身者や、観光客、テキスタイル愛好者らの間で増してきており、その結果、生産が回復し、アンタナナリヴの高級ギャラリーでの販売もされるようになった[7]。同時代の作家からも、なかば忘れられかけていた昔の技術を復活させることへの関心が集まり、国際的に名の知れた美術館で特別展が開催されるほどユニークな作品が生み出されるようになった。例えば、アメリカ自然史博物館では、織り糸のすべてに、鳥やコウモリでさえも捕まえてしまうほど強靭なクモの巣を張ることで知られるネフィラ・イナウラタというクモの糸を用いたランバ・アクトゥファハナが展示された[8]。1998年には、メトロポリタン美術館においても、あらゆる色を使って、植民地となる以前の貴族の装いを再現した現代のアーティストによるランバ・アクトゥファハナが展示された[9]

生産

ランディベという野蚕種から採った絹糸でランバを織る職人。

伝統的なランバは、マダガスカルで広くみられる、床に置いた水平な織機で織られていた。機織りは女性の仕事であり、織機の端に座って作業した[10]。家族の着る服を織ることが女性の務めとされており、余剰生産は市場で売って(交換して)家族の収入となった。ただし、このような生活様式は中央高地のメリナとベツィレウに典型的なものであり、全島で一律に見られたわけではない[4]




  1. ^ Tortora, P.G. & Merkel, R.S. (1996).
  2. ^ Turner, J. (Ed.). (1996).
  3. ^ a b Green, R.L. (2003).
  4. ^ a b c d Mullen Kreamer, Christine and Fee, Sarah.
  5. ^ Gifts and Blessings: The Textile Arts of Madagascar.
  6. ^ Spring, C. (2010).
  7. ^ Silk Textile: Lamba Akotofahana British Museum.
  8. ^ One Million Wild Spiders from Madagascar Supplied Silk for Rare Textile.
  9. ^ "Recent Acquisitions: A Selection, 1998–1999," The Metropolitan Museum of Art Bulletin, v. 57, no. 2 (Fall, 1999).
  10. ^ Kusimba, Chapurukha; Odland, J. Claire; Bronson, Bennet (Eds).
  11. ^ 豊かな手工芸(駐日マダガスカル大使館)”. 2015年10月1日閲覧。
  12. ^ 伝統と儀式(駐日マダガスカル大使館)”. 2015年10月1日閲覧。
  13. ^ Geography, History, culture - the Madagascar Embassy in US”. 2015年10月1日閲覧。
  14. ^ マダガスカルを知るための62章 2013, pp. 171-175.
  15. ^ Ranaivoson, D. (2007). 100 Mots pour comprendre Madagascar.


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