ナフタレン
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/05 22:00 UTC 版)
性質
ナフタレンはベンゼンよりもはるかに求電子置換反応を受けやすく、得られる化合物には染料の中間体として重要なものが多い。
ナフタレンはパラジクロロベンゼンと同様に、防虫剤として利用される。また現像済みの写真フィルムはナフタレンと化学反応を起こして退色・変色を起こすことがあるので、ナフタレンを成分とする防虫剤から離して保管する必要がある。
殺虫剤として1954年1月25日、忌避剤として同年8月2日に農薬登録を受けたが、殺虫剤としては1957年1月25日、忌避剤としては1971年11月18日に登録失効した。
ナフチル基
ナフタレンから水素をひとつ取り去った1価の置換基は ナフチル基 (naphthyl group) と呼ばれる。取り去られた水素の位置により 1-ナフチル基と 2-ナフチル基がある。
安全性
ナフタレンにさらされると、赤血球が障害を受け破壊される。赤血球の再生は可能だが、子供が誤ってナフタレンを含んだ防虫剤や防臭剤を口に入れた場合に問題になりやすい。極端な疲労感、食欲不振、不眠、チアノーゼといった症状が現れる。大量のナフタレンに暴露されると、吐き気、嘔吐、下痢、血尿、黄疸を引き起こす。万一、誤食があった場合は、病院に行くこと。また、ナフタレンの場合、誤飲時の応急処置として牛乳を飲ませるのは逆効果である。ナフタレンは脂溶性のためかえって体内に吸収され易くなってしまい危険である。
アメリカ合衆国では、国家毒性プログラム (NTP) がラットとマウスを用いたナフタレンの毒性試験を実施、1992年と2000年に結果が公表された。試験期間は2年間、土日を除く日にナフタレンの蒸気を雌雄のラットとマウスに暴露した、結果、雌雄のラットに於て鼻の腺腫と神経芽細胞腫の発生の増加を根拠として発癌性の活動の証拠を示したとした、またメスのマウスに於て肺の肺胞と細気管支の腺腫の発生の増加を根拠とし発癌性の活動の証拠を幾らか示したとした。オスのマウスに於ては発癌性の活動の証拠は得られなかった。最大濃度30ppm(純度99%以上)のナフタレン蒸気に1週間に5日、1日6時間暴露したところ、オスのマウスに対して10ppm未満では発がん性を示す証拠は得られなかった。性別とは無関係に10ppmと30ppmでマウスに肺胞腺腫と気管支腺腫の増加が見られた。ラットでは性別とは無関係に呼吸器の腺腫と 嗅神経の上皮性神経芽細胞腫の発生率が増加した。いずれのケースにおいても、がんに起因しない呼吸器の炎症が高頻度かつ広範囲の濃度で見られた[6]。 またアメリカ国立衛生研究所(NTPの上部組織)は2005年の11回発癌性物質報告書(11th Report on Carcinogens)からナフタリンを「人間に対する発癌性物質と正当に予測される(Reasonably anticipated to be a human carcinogen)」物質としてリストしている。日本では厚生労働省が2015年11月より特定化学物質に含めており、業務で使用している場合は事業者が定期的に健康診断を受けさせる必要がある[7]。
国際癌研究機構 (IARC) は、2002年にナフタレンをヒトに対する発癌性の疑いがある物質(Group2B)として位置づけた[8]。同機構ではナフタレンに対する急性暴露は、ヒト、ラット、ウサギ、マウスにおいて白内障の原因となること、成体以外では経口暴露、吸入暴露、胎児期の間接暴露により、溶血性貧血が起こることを指摘している。
ナフタレン系化合物
- ^ 木村修次・黒澤弘光『大修館現代漢和辞典』大修館出版、1996年12月10日発行(770ページ)
- ^ “Odor as an aid to chemical safety: Odor thresholds compared with threshold limit values and volatiles for 214 industrial chemicals in air and water dilution”. J Appl Toxicology 3 (6): 272–290. (1983). doi:10.1002/jat.2550030603. PMID 6376602.
- ^ 経済産業省生産動態統計・生産・出荷・在庫統計 Archived 2011年5月22日, at the Wayback Machine.平成20年年計による
- ^ John Kidd (1821). “Observations on Naphthalene, a peculiar substance resembling a concrete essential oil, which is produced during the decomposition of coal tar, by exposure to a red heat”. Philosophical Transactions 111: 209–221. doi:10.1098/rstl.1821.0017.
- ^ Emil Erlenmeyer (1866). “Studien über die s. g. aromatischen Säuren”. Annalen der Chemie und Pharmacie 137 (3): 327–359. doi:10.1002/jlac.18661370309.
- ^ NTP: Long-Term Abstracts & Reports Archived 2004年10月24日, at the Wayback Machine. - Technical Reports 410, 500 を参照
- ^ “平成27年11月の特定化学物質障害予防規則・作業環境測定基準等の改正 (ナフタレンおよびリフラクトリーセラミックファイバーに係る規制の追加”. 厚生労働省. 2016年8月29日閲覧。
- ^ Monographs on the Evaluation of Carcinogenic Risks to Humans, Some Traditional Herbal Medicines, Some Mycotoxins, Naphthalene and Styrene, Vol. 82 (2002) (p. 367). Accessed on March 9, 2005.(2005年10月12日時点のアーカイブ)
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