貨幣の素材
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/20 10:19 UTC 版)
貨幣の素材には、現在では一般的な金属や紙の他に、さまざまなものが選ばれてきた。社会の伝統や慣習において富と見なされるものが、貨幣として選ばれていた。穀物や家畜も貨幣となるが、そうした貨幣は消費して減ってしまうと取引に支障が出る。そのため、取引に影響が少ない素材として、金属や紙が多く選ばれるようになった。現在知られている最古の金属貨幣は紀元前4300年頃の銀リングであるハル、硬貨は紀元前7世紀にリュディアで作られたエレクトロン貨、最古の紙幣は北宋の政府紙幣として流通した交子とされる。特定の素材の価値で国家の貨幣を裏付ける制度として本位制があり、金本位制、銀本位制、金銀複本位制などがある。 物品貨幣 素材そのものに価値のある貨幣を物品貨幣や実物貨幣と呼び、特に初期の貨幣に多い。物品貨幣は、貝殻や石などを用いる自然貨幣と、家畜や穀物などの商品貨幣とに分類される。代表的な物品貨幣に貝貨(中国、オセアニア、インド、アフリカ)、石貨(オセアニア)、穀物(バビロニア、日本)、果実(メソアメリカ)、塩(カンボジア)、布帛(日本、中国、朝鮮、ギニア海岸)、鼈甲(古代中国)、鯨歯(フィジー)、牛や山羊(東アフリカ)、羽毛などが存在する。こうした物品貨幣のさまざまな種類は、パウル・アインチッヒ(英語版)の著作『原始貨幣』に集められている。 金属貨幣 金属は保存性・等質性・分割性・運搬性において貨幣に適した性質があり、金貨、銀貨、銅貨、鉄貨などが作られた。このうち銅貨は実際には青銅貨である場合が多い。金、銀、銅は腐食しにくい点も貨幣に使われやすい理由となった。金属貨幣は、はじめは地金を秤って使った。これを秤量貨幣と呼ぶ。やがて、打刻貨幣又は鋳造貨幣すなわち硬貨が現れた。硬貨のように一定の形状・質・重量を持っている貨幣を計数貨幣とも呼ぶ。古代から近世にかけての貨幣制度は金属資源の採掘量に左右された。金属貨幣の不足や、移動にかかる費用は、小切手、為替手形、紙幣などの発生にも影響を与えた。 地中海や西ヨーロッパでは硬貨の素材として主に金銀を選び、中国や古代・中世の日本では銅を選んだ。西ヨーロッパでは領主や商人の交易に銀貨を中心に多用したが、中国では農民の地域市場での取引に銅貨が多用されていた。 紙幣 中世には、名目貨幣である紙幣が登場した。紙幣は運びやすく、原料とコストの面で利点が多かったが、発行が容易なためにインフレーションも発生しやすく、しばしば国家の弱体化につながった。現在の紙幣は、中央銀行が発行する銀行券と政府が発行する政府紙幣に大きく分かれるが、その他にも民間でも紙幣が発行されてきた。最初の政府紙幣は宋政府、最初の銀行券はスウェーデンのストックホルム銀行が発行した。 電子マネー 1990年代から電子決済による電子マネーの運用が始まり、現在はICカードを使う形態が普及している。携帯電話による決済も急速に普及しており、現金を使わないキャッシュレスの社会が拡大している。
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