術前貯血式
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/03/03 16:44 UTC 版)
出血がある程度予測できる手術で行われる方法、術前に患者自身の血液を採取し、術後に輸血するもの。採取した血液は4℃で保存しておく。採血した後は鉄剤やエリスロポエチン(適応は800mL以上の採血の場合)を投与し、造血を促進させておく。詳細を以下に述べる。 採血してから本人に貯血した血液を返すまでの手続きを貯血式自己血輸血という。以下に採血の手順、保管に関する諸問題、自己血輸血の際の注意点などを述べる。 採血に関しては単純に採血していく方法のほかに、過去に採血したものをいったん戻し輸血して、それより400ml多くの採血をしていく方法などがあり、その際も細かな手技上の違いがあるが、血液センターが供給する同種血の安全性が高くなった今日、3回の採血を超えて、特殊な手技で採血することは今日一般には行われなくなった。即ち、貯血式自己血輸血は1200mlが上限だと考えておいて良いだろう。これには、保存される血液製剤が低温でも増殖するバクテリア(エルシニア等)に汚染される事を防ぐためである。 採血前から貧血がある場合の自己血貯血の分量と限界は医療施設ごとに貯血に割くことのできる人員の数と熟練度などによって異なってくる。貧血の際には貯血の一週間前からエリスロポエチン製剤を使うことが可能で、貧血が認められない場合には最初の採血の後に投与する。体内の鉄が不足していると、エリスロポエチン製剤の効果は半減する。そのため鉄剤を投与する。鉄剤は経口的に投与する方法もあるが、消化管症状を避けることが出来るという点では、経静脈的な投与が好まれている。 採血方法としては、皮膚表面の汚れをアルコール綿などで清拭して、10%ポビドンヨードで消毒、ハイポアルコールでポビドンヨードを脱色した後、採血用針を血管内に穿刺して採血する。自己血輸血用の採血を行うのがボランティアからの採血の際のような手馴れた職員ではなく、不定期に採血に駆り出される病院職員であることもまれではないので、採血の際の失敗なども散見される。院内のマニュアルなどで、二度刺しは禁止するなど採血に伴う血液の汚染を避けるように細心の注意が必要である。 採血した血液の貯蔵の際に他人の血とすりかえられるようなことがないような管理体制も必要であろう。そのために、血液バッグにラベルがはがれた時の用心に直接患者名、採血日などを記入しておき、さらに必要事項を記入したラベルを貼付するなどの注意も要求される。保管は全血で保管するか、濃厚赤血球と血漿に分離して保管するかで、自己血を輸血する際のそのやり方と、効果に差が生じる。全血で保管する場合は、血液中の凝固因子、血小板などは生物活性がなくなるので、酸素運搬能を補強、補充するという目的で使うことになる。一方、血球と血漿に分離すると、出血の比較的早期に赤血球の輸血によって酸素運搬能の補強、補充を行い、外科的出血がコントロールできたあたりで血漿を輸血することにより、止血機能を補充するといった、同種血輸血の場合と同じ使い方が出来るので、容量の過負荷になることを心配する必要が減じる。 全血で保存する場合は4℃、分離して保存する場合は赤血球製剤を4℃、血漿を零下20℃以下で保存する。これも血液センターが供給する製剤と同一の保存方法である。それらの製剤の使用に当たって、急激な加温を避けるといった注意点もセンター血と同様である。 輸血の際の注意点としては、一般のセンター血の場合と同様であるが、輸血を開始する前にバッグの中の溶血の有無などを仔細に観察して、安全性を確認しておくことがセンター血以上に要求される。血液製剤の製造の素人が採血して保存する訳であり、汚染の可能性に対する注意は払いすぎることがない。 自己血の貯蔵に関して、今までに述べた方法とは違う方法がある。それは赤血球の凍結保存である。これは各医療施設で簡単に出来る方法ではなく、血液センターに依頼することになるが、長期にわたる保存が可能であり、したがって、相当量を貯蔵できるというメリットもある。なおその際、当然だが、凍結血漿も保存できる。凍結赤血球を解凍した後の寿命は短いので、その利用は計画的に行う必要がある。
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