屋根
『屋上の狂人』(菊池寛) 讃岐地方の某小島。勝島家の長男・義太郎(24歳)は、今日も屋根の上へすわって海上を凝視し、「金毘羅さんの天狗さんの正念坊さんが、雲の中で踊っとる。緋の衣を着て天人様と一緒に踊りよる。わしに『来い来い』言うんや」などとわめいている。両親は困り果て、巫女に祈祷を頼む。義太郎の弟・中学生の末次郎(17歳)が、「兄さんは今のままが幸せなんじゃ。僕が一生、兄さんの世話をする」と言って、巫女を追い払う。屋根の上の義太郎は夕日に顔を輝かせて、「雲の中に金色の御殿が見える」と喜ぶ。
*讃岐の源太夫は木に登って西の海へ呼びかけ、阿弥陀仏の声を聞く→〔呼びかけ〕6の『今昔物語集』巻19-14。
『屋根を歩む』(三島由紀夫) 人妻である愛子は、ある日の午後、恋人と安ホテルの一室にいるところを、屋根の修理に来た職人・黒川に見られてしまう。黒川は、愛子の家に出入りする顔見知りの屋根職人だった。以後、愛子は、自宅の屋根の上を誰かが歩く幻聴に悩まされる。夜、夫との行為中に、「あっ、屋根に人が」と叫んでしまったこともあった→〔口封じ〕5。
*木に登った人に、性交を見られてしまう→〔木登り〕3cの『武道伝来記』巻4-3「無分別は見越の木登」。
★2b.屋根から見た情事の話がきっかけで、男女が関係を持つ。
『寝敷き』(松本清張) ペンキ職人の源次は、屋根の上で作業をしている時に、隣家の情事や屋外の情事をしばしば目撃した。彼はそれらの目撃談を、世間話の1つとして、仕事先の奥さんやお手伝いさんに聞かせる。源次のたくみな語り口に、彼女たちは強い刺戟を受け、それがきっかけで源次と関係を持つことがあった〔*1度か2度の関係で終わるのが常であったが、処女だった季子は源次につきまとい、結婚を迫ったので、源次は季子を殺した〕。
『屋根裏の散歩者』(江戸川乱歩) 下宿屋「東栄館」に止宿する遊民の郷田三郎は、天井裏へ上がり、他の下宿人たちの部屋を上から覗いて回るのを楽しみとしていた。日頃虫の好かぬ遠藤という男が、大きな口を開けて眠っているのを見て、郷田は天井の節穴からモルヒネの液を垂らす。モルヒネは遠藤の口に入り、遠藤は寝床で死んでしまった〔*郷田はモルヒネの瓶を部屋に落としておき、遠藤が自殺したように見せかける。しかし明智小五郎が、郷田の犯行だと見破る〕。
★4.下へ下へ行くと屋根があった。
『下の国の屋根』(昔話) 大嘘つきの話にも、いろいろと珍しいのがある。ある村で井戸を掘ったが、水が出ないので、毎日毎日掘り下げて行くと、くすぶった藁が出て来た。それを取り除けてなお掘ろうとしたら、下から大声で怒鳴られた。「上の国のやつらは何をするか。それは、おれの家の屋根の藁だ」と、非常に怒られた。
『奇談異聞辞典』(柴田宵曲)「地下生活三十三年」 信州浅間ケ嶽の辺で、百姓が井戸を2丈余りも深く掘ったところ、水は出ず、屋根があって、その下に50~60歳の人が2人いた。2人は、33年前の浅間焼けの時、土蔵に避難したが、山崩れのためそのまま閉じ込められた。土蔵には米3千俵、酒3千樽があったので、2人はそれで命をつないでいたのであった(『半日閑話』巻15)。
『イスラーム神秘主義聖者列伝』「イブラーヒーム・アドハム」 聖者イブラーヒームは、かつてはバルフの王だった。ある晩、彼が寝床にいると天井が揺れ、知り合いの男が屋根の上にいることがわかった。行方不明の駱駝を捜しているのだという。イブラーヒーム「何という無知な男だ。屋根の上に駱駝などいるものか」。男「迂闊な王よ。あなたは黄金の玉座の上と豪奢な服の中に、神を求めている。屋根の上で駱駝を捜すことが、どうして不思議なことでしょうか」。この言葉によって、イブラーヒームの心中に恐れが生まれた。
『酉陽雑俎』巻11-423 5月は屋根へ上がることを忌む。5月には、人は蛻(ぜい。=ぬけがら)になっており、屋根へ上がると、影を見て、魂が体外へ去ってしまうからだ、という。
*魂が屋根の上から、自分や他の人々を見下ろす→〔自己視〕4a・4b。
*死者の魂は、四十九日までの間は屋根の棟に留まっている→〔魂呼ばい〕1の『大菩薩峠』(中里介山)第30巻「畜生谷の巻」。
『茨木』 渡辺綱は羅生門で茨木童子と闘い、その片腕を斬り取って屋敷へ持ち帰った。茨木童子は片腕を取り戻すべく、渡辺綱の叔母真柴に化けて、綱の屋敷へやって来る。綱の油断に乗じて、茨木童子は片腕を取り返し、屋根の破風を破って虚空へ飛び去った。
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