アルメニア祖語の音韻論的発展
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「アルメニア祖語」の記事における「アルメニア祖語の音韻論的発展」の解説
アルメニア祖語の音韻変化は多様であり、奇抜である(たとえば *dw- が erk- をもたらしたように)。また、多くの場合においてよく分かっていない。このためアルメニア語はすぐにインド・ヨーロッパ語族の語派であることがその状態ゆえに認められず、Heinrich Hübschmannがこれが独立した語派であると1874年に確立するまでは、これらは非常に変化した単なるイラン語であると考えられていた。 多くの現代の研究者はギリシャ・アルメニア仮説を否定しており、これらの二つの言語の間の言語的近接が水増しされたものであると提案している。Clackson (2008) はアルメニア語がインド・イラン諸語と同じ程度にギリシャ語やフリュギア語に近いと断言している。Ronald I. Kimは特有の形態論的発展がアルメニア語とバルト・スラヴ諸語を関係させると指摘している。 いくつかの環境でアルメニア語では帯気破裂音はよりw, h, ∅に大きく弱化しており、インド・ヨーロッパ祖語(対格)*pódm̥ 「脚(foot)」 > アルメニア語 otn vs. ギリシア語 (対格) póda, インド・ヨーロッパ祖語 *tréyes 「三(three)」 > アルメニア祖語 erekʿ vs. ギリシア語 treis。 Diakonoffによればアルメニア語は、フルリ語(とウラルトゥ語)、ルウィ語、ムシュキ語との融合物(amalgam)であり、歴史的区域に到達した後にアルメニア祖語は巨大な影響を最終的に置き換えられた言語に受けたと考えられ、例えば、アルメニア語の音韻論はウラルトゥ語の大きな影響を受けていると見られ、長期の二重言語使用を示唆する。(”The Armenians according to Diakonoff, are then an amalgam of the Hurrians (and Urartians), Luvians and the Mushki. After arriving in its historical territory, Proto-Armenian would appear to have undergone massive influence on part the languages it eventually replaced. Armenian phonology, for instance, appears to have been greatly affected by Urartian, which may suggest a long period of bilingualism.”の試訳) アルメニア語でのPIEの子音PIEアルメニア祖語特殊な発展*p h Ø, w, pʿ *t tʿ y, d *ḱ s š ( PIE *ḱw>Arm.š), Ø *k kʿ x, g, čʿ *kʷ kʿ x, g, čʿ *b p *d t *ǵ c *g k c *gʷ k c *bʰ b w *dʰ d ǰ *ǵʰ j z *gʰ g ǰ *gʷʰ g ǰ, ž *s h s, Ø, *kʿ *h₁ Ø e- *h₂ h a-, Ø *h₃ h a-, Ø Diakonoff (1985) と Greppin (1991) は少数の古典アルメニア語がフルリ・ウラルトゥ諸語起源であることがありうるとして語源を構築している。 agarak 「野(field)」← フルリ語 awari 「野(field)」 ałaxin 「奴隷の少女(slave girl)」← フルリ語 al(l)a(e)ḫḫenne; arciw 「鷹(eagle)」← ウラルトゥ語 Arṣiba, 「鷹(eagle)」の意味を持つと推測される固有名詞に見られる。 art "field" ← フルリ語 arde 「町(town)」(Diakonoff及びFournetによって否定) astem 「人の先祖を明らかにする(to reveal one's ancestry)」← フルリ語 ašti 「女、妻(woman, wife)」 caṙ 「木(tree)」← フルリ語 ṣârə 「庭(garden)」 cov 「海(sea)」← ウラルトゥ語 ṣûǝ 「(内)海((inland) sea)」 kut 「穀物(grain)」← フルリ語 kade 「大麦(barley)」(Diakonoffにより否定。ギリシア語kodomeýs「大麦焙煎機(barley-roaster)」に近い) maxr ~ marx 「松(pine)」← フルリ語 māḫri 「モミ、セイヨウネズ(fir, juniper)」 pełem 「掘る、発掘する(dig, excavate)」← ウラルトゥ語 pile 「運河(canal)」、フルリ語 pilli (Diakonoffにより否定) salor ~ šlor 「梅(plum)」← フルリ語 *s̄all-orə or Urartian *šaluri (アッカド語 šallūru 「梅(plum)」参照); san "kettle" ← ウラルトゥ語 sane 「やかん、ポット(kettle, pot)」 sur "sword", ← ウラルトゥ語 šure 「剣(sword)」フルリ語 šawri 「武器、槍(weapon, spear)」(Diakonoffは疑いながら考察している) tarma-ǰur 「湧き水(spring water)」← フルリ語 tarman(l)i 「泉(spring)」 ułt 「ラクダ(camel)」← フルリ語 uḷtu 「ラクダ(camel)」 xarxarel 「破壊する(to destroy)」← ウラルトゥ語 harhar-š- 「破壊する(to destroy)」 xnjor 「林檎(apple)」← フルリ語 ḫinzuri 「林檎(apple)」(これ自身はアッカド語 hašhūru, šahšūruに由来) Arnaud Fournetはさらに借用語を提案している。
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