アメリカ主導
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/25 16:28 UTC 版)
「日本のTPP交渉及び諸議論」の記事における「アメリカ主導」の解説
TPPへの参加に対して「アメリカ政府の政治的圧力に迎合し、国益に反するもの」という、ナショナリズムに訴える反対論がある。 真壁昭夫信州大学教授は「アメリカは自国が主導してTPPの拡充を図り、それを最終的にFTAAPに結び付けることを構想している」と指摘している。 中野剛志はTPP交渉参加国十カ国のGDPのシェアを計算すると、アメリカが70%弱を占め、次いで日本が約25%、そしてオーストラリアが約4%、残り七カ国はあわせて約4%である。つまり、日米で約90%以上を占め、日本が参加した場合は実質的に日米FTAであり、「アジア太平洋」というのは名前だけである。TPP交渉参加国に日本を加えた10カ国の中で、日本が輸出できる市場は実質的にアメリカだけであるとしている。また、TPPで日本に有利なルールを作ろうとした場合、アメリカと対立することは避けられないが、2011年現在の日本はアメリカに妥協せず主張を押し通せるポジションになく、TPPにおいて日本がアメリカとともに経済統合の枠組み作りを主導することなどできないとしている。 中野剛志はTPPの作業部会は、アメリカ主導で展開され、日本は引き込まれようとしていると述べている。中野はTPPにおけるアメリカの狙いは次のようなものだとしている。TPPに日本を誘い込んだ上で、アメリカは日本の関税の引き下げと同時に、自国の関税の引き下げもするが、ドル安に誘導することにより、自国の市場を守るとしている。アメリカにとって関税とは、国内市場を保護するためのディフェンスではなく、日本の農業関税というディフェンスを突破するためのフェイントに過ぎず、このようにしてアメリカは、日本に輸出の恩恵を与えず、国内の雇用も失わずして、日本の農産品市場を一方的に収奪することができるとしている。 野口悠紀雄一橋大学名誉教授は「『TPPはアメリカのアジア戦略の一部』ということである。日本では、『TPPとは貿易自由化協定である』と単純に理解されていることが多い。しかし、これは自由化協定ではなく、『ブロック化協定』である。その目的は、太平洋経済圏にアメリカ流の経済ルールを確立し、中国の成長をけん制することである」「日本は、安全保障の面でアメリカに依存せざるをえないという事情があるので、TPPがアメリカの太平洋戦略である以上、それには参加せざるをえない。これは、最初から課されている制約条件である。つまり『経済的な利害得失を考慮してTPPに参加するか否かを選択する』というオプションは、日本には最初から与えられていない」と指摘している。 ジョセフ・E・スティグリッツは、季刊誌『kotoba』2013年夏号で「TPPはアメリカの陰謀だと揶揄する人もいるが、確かにそういう側面はある。こんなことは新しいニュースでもなんでもない。私が言いたいのは、貿易協定のそれぞれの条項の背後には、その条項を後押している企業があるということである。アメリカであればUSTR(アメリカ合衆国通商代表部)が、産業界の中でも特別なグループの利益、とりわけ政治的に重要なグループの利益を代弁している。USTRはアメリカ国民の利益を代弁しているわけではなく、ましてや日本人の利益のことはまったく念頭にない。アメリカの一部の利益団体の意向を反映するTPPの交渉は、日本にとってとても厳しいものになることを覚悟しなくてはならない。日本は本当に必死になって交渉する必要がある」と指摘している。また、東京都内での講演で「TPPは交渉のプロセスが明らかにされていない。それは透明性が欠如しているということである。米国はNSA(アメリカ国家安全保障局)を通じて他の国々の動向を確認できたが、他の国々はアメリカが何を考えているのかを把握できていない。つまり、TPPはアメリカの、それも米国企業の利益に資するものになるということである」と指摘している。 ジャーナリストの山田厚史は日米間事前協議でアメリカ側からは日本車への輸入関税継続が通告されて国民や国会に伏せられていたと主張しているが、情報源は明らかにしていない。 金子勝慶應義塾大学教授は「TPPはアメリカ・オバマ政権の通商政策の目玉であり、日本に大胆な規制緩和を迫ってくるだろう。年次改革要望書から何かが出てきてもおかしくない。日本政府は、国民に日本の国の根幹を揺るがすような、非常に大きなものがTPPであるということを説明するべきである」と指摘している。 片岡剛士は「TPP反対論の背後にあるのは『米国陰謀論』である。つまりアメリカがTPPを通じて国に不利益な協定を締結させようとするのではないかというものである」と述べている。 八代尚宏国際基督教大学客員教授は「TPPへの参加は、『アメリカの日本の国内市場参入を狙う政治的圧力によるもの』というような反米ナショナリズムを煽る論法が見られる。しかし、貿易や投資の自由化は双務的なもので、日本企業がアメリカ市場で自由に競争できる一方で、国内市場からアメリカ企業を締め出すという不公平は許されない。アメリカ政府の圧力で国益が損なわれるという論者は、暗黙のうちに、日本の既存生産者利益が国益と同じものと見なしている。しかし、アメリカ政府は、日本をアメリカ企業の独占市場にせよというのではなく、単に参入自由の競争市場にすることを求めているだけである。これは日本の新規参入企業と消費者にとっても、自由貿易と同じ利益を受けることを意味する。TPPを単にアメリカからの要求を突きつけられる場といった被害者意識ではなく、むしろ、アジア諸国の利益を代表して、例えば、国際貿易を撹乱させるアメリカの農業輸出補助金の撤廃等を要求する場とすることも、日本の大きな使命と言える」と指摘している。 伊藤元重東京大学教授は「たしかに、アメリカは貿易交渉で強引な動きをすることが多く、アメリカのやり方を押しつけてくる。ただ、日本とアメリカの利害を二国間関係だけで見てはいけない。アジア太平洋でどのような制度を構築していくのかという点で見れば、日本とアメリカの間には共通利益のほうが多い」「安全保障や対中関係など政治外交的な要素を考えず、経済的要素だけに議論を限定しても、アメリカは日本にとって重要な存在である」「TPPの交渉は進行形であり、しかも二国間交渉ではなく多国間交渉である。アメリカが仮に理不尽な要求を突きつけてきたとしても、ほかの参加国と協力すれば、十分跳ね返せるはずである。TPPはアメリカの陰謀だ、という人がいるが、ある意味その通りであるあらゆる貿易交渉は自国の利益を最優先するという意味での『陰謀』だからである。日本もその心で交渉に臨めばいい」と指摘している。 馬田啓一杏林大学客員教授は「2011年11月、APECハワイ会合でTPP首脳会議を行なわれたが、アメリカの主張がそのまま通る事はなかった。なんでもアメリカの主張を飲まされるというのは間違いである。日本政府に交渉力はないと指摘する人もいるが、経済産業省・外務省などは国益を損なわないように、非公式の交渉や情報収集を頻繁に行なっている」と指摘している。 若田部昌澄は「貿易額でみるとアメリカにとって日本の占める割合は40%弱にすぎないから、日本のアメリカにとっての重要性は誇張されている感がある。逆に貿易額でみると日本にとってアメリカは60%程度を占める」「反対派はアメリカとの交渉することそのものを嫌っているのではないか。あるいは『自発的に取引に入るならば利益がある』という前提を疑って、今回のTPPはアメリカから強要されたと考えているのかもしれない」と指摘している。また、「アメリカにとってTPPの交渉参加にメリットがあるのは明らかである。しかし、ゼロサム的世界観に立つのでない限り、アメリカが得をするから、そこに入ると日本が損をする、あるいはアメリカが日本に損を押し付けようとしているというのは短絡的である」「アメリカは強力に自国の利益を追求する交渉を進めるが、他の国も強力に交渉をしてくる。そこにはベトナムのような手ごわい国もある。オーストラリアやニュージーランドのように交渉に手なれた国もある。各種国内規制は今回のTPPでも維持されるし、民主党政権のアメリカが国内の労働規制や環境規制を開発途上国並みに引き下げることができるわけがない。アメリカがいろいろと注文を出してきたとしても、アメリカの思い通りになりにくい仕組みがまさにTPPである」と指摘している。 原田泰は「TPPに参加は、TPP締結国以外とは国を閉ざすということではなくて、すべての世界と自由な貿易を通じて繁栄を分かち合っていこうという決意を示すものである。したがって、TPPはアメリカを中心としたブロックで、中国を排除しようとするものではない。あらゆる国に対して、国際社会の平和と安全と繁栄のためになる自由な貿易と投資の共通のルールを定めようというものであり、いかなる国にも開かれているものである」と指摘している。 高橋洋一は「アメリカは巨大な自由貿易圏の構築のために、GDP世界第2位の中国を取り込みたいと考えている。中国が貿易・投資自由化の方向に乗ることができれば、アメリカ経済界は評価するだろう。オバマ政権としても、中国重視の方向が間違っていなかったといえる」と指摘している。
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